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走れ、サンタ  作者: 堆烏
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プレゼント其の壱 ~ココロから~

サンタさんはいない。実在なんてしない。

この事実は幼稚園生だった頃から知っていた。親が夜中部屋に入ってきてこっそりクリスマスプレゼントを置いてゆくのを見てしまったからだ。

もちろん、そのことはお母さんにもお父さんにも伝えてはいない。それは、プレゼントがもらえなくなることが嫌なのではなく、がっかりされたくないからだ。

今年で私は小学3年生。読書が趣味だったこともあり、読み書きは他の生徒よりも得意だ。手紙も普通に書くことができる。だけど


「いないサンタさん宛に手紙書けって言われてもね。」


一人ぼやきながら、それでもお母さんの言う通りに書く。プレゼントいつもありがとうございます。サンタさん大好きです。こんな感じだったと思う。

どうせ本人には届かないだろうと思った。お母さんがポストに入れてくるとは言っていたけど、きっと宛先なんてない。そう確信していた。

そんな私は、今年二通の手紙を書くことになった。ばかばかしいと思うかもしれないけれど、二通目は本音を書いた。そして、投函した。


・・・・多分これだけ言ったらなにがなんだか分かんないと思う。私もよく分かってないんだ。分かっていることは事実だけ。

クリスマスイヴの前日の朝、家の前に子犬が座っていたこと。

その子犬の首に、『サンタさん宛のポスト』と書かれた小さな段ボール箱がぶらさがっていたこと。

なんとなく、本当にサンタさんに届くような気がしてしまった私は、馬鹿正直に本音を書いてそのポストに手紙を入れてしまったこと。


ま、後悔はしていない。返事なんて期待してもいない。今日はクリスマスイヴ。今は深夜。私はお布団の中。寝てないけど、誰かを待っているわけじゃない。

本当はちょっとだけ信じている、なんてことはない。そんなことは・・・・


『ズドーーーーーーーーン』


何かが落ちてきた音がした。すっごく大きな音。少なくとも飛び上がってあたりをきょろきょろしてしまうくらいには、大きな音。なのに。

お母さんの寝室から物音は聞こえない。お父さんのいびきも途切れていない。他の家の明かりが急についたりもしない。誰も気がついてない?


音がしたのは庭のほう。窓をちらっとのぞくと、そこには


サンタさんがうつぶせで倒れていた。まるで屋根から降りようとして、足を滑らせて落っこちたかのように。


「いててて。。。屋根から降りようとしたら、足を滑らせて落っこちちゃったよ。」


独り言が聞こえる。私の勘はあたっていたみたい。

サンタさんが立ち上がろうとしている。私ははっとなり、すぐに窓から離れ、お布団の中に入った。


数秒後、サンタさんが窓を開けた。


「これ、泥棒みたいじゃん。なんでトナカイのやつ先に行っちゃうんだよお。」


ぼやきが聞こえる。ぽっちゃりしたおじさんが泣きそうな声で泣きそうな顔で。

思わず笑っちゃいそうだけど、こらえる。


「ま、僕はサンタさんだからね。トナカイがいなくてもちゃんと頑張るもん。」


言いながらなにやらゴソゴソ物音をたてているサンタさん。持っていた白い風呂敷から何かを取り出しているようだった。


「はーいこれ。美奈ちゃんへのプレゼント。」


何をくれたのかな。でもお布団の中でうずくまってるから分からない。


「あとお手紙ありがとね。返事書いたからここに置いとくよ。」


私はびっくりした。お手紙は本当に届いていた。そして、このおじさんは本当に本当のサンタさんなんだ。ということに更に驚いた。親戚のおっちゃんじゃないんだ。

でも、二通のうち、どっちが届いたのだろう。

考えているうちに、サンタさんは、窓から出ようとしていた。そして、一言。


「サンタさんはね。はしゃぐとね。元気が出てきてね。楽しくなるんだ。そしたらトナカイもはしゃいでくれたりするんだよ。それ見てるとまた楽しくなってさ。頑張ろうってなるんだよね。」


もう、泣きそうな声じゃなかった。泣きそうな顔もしていない、そうお布団の中で思った。

優しい声。楽しそうな声。ニコニコの笑顔。窓から庭に降りるときの足取りは、心なしか、スキップしてるような気がした。


「はっぴーくりすまーす。おやすみー。」


気の抜けるような台詞を残して、サンタさんは消えていった。


私の意識も、そこからだんだん薄れていった。






「美奈—。朝ご飯よー。」

お母さんの声がする。がばっとお布団から体を起こす。

プレゼント、プレゼント、、、あった!!

と、思ったけれど、置いてある大きな箱の中身は一週間まえにお父さんに買ってほしいとお願いしたぬいぐるみだった。きっとこれは”お父サンタ”のプレゼント。サンタさんのじゃない。そう思った。

でも、お布団の周りには他のプレゼントは置いていなかった。

やっぱり夢なのかな。サンタさんなんているわけないのかな。

思い直して、カーテンを開けに窓に近づく。・・・・あれ?

寝る前に閉めたはずのカーテンはそもそも開いている。おかしい。

窓に手をかけてみる。寝る前に閉めたはずの鍵も開いている。おかしい。

窓の外を見てみる。庭の真ん中に、小太りのおっさんが落ちたかのような人型のクレーターみたいな跡が。。。。


「ぷぷっ。あははははははは!」

おかしい。でも、とっても可笑しい。


「美奈?どうした?」

お父さんが心配そうな顔で部屋に入ってくる。お母さんも顔をのぞかせている。


「ううん。なんでもないよ!」

元気に返事をする。なんか自然と声が出た。明るいふりでもなく、自然と。

なんか、楽しくなってきた。久々にはしゃぎたくなってきた。心から、そう思った。


「おとうさん、おかあさん!はっぴーくりすますー!!」

二人に飛びつきながら私は思う。クリスマスってなんかよくわかんないけど最高!


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