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走れ、サンタ  作者: 堆烏
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トナカイのオモイ

毎年、冬がやってくる。と感じた日には12月がせわしなく訪れる。

そして12月24日と25日。私たちの大きな仕事が始まる。


12月になると、村は少し賑わう。特に子供たちの表情の変化はわかりやすい。クリスマスプレゼントを貰えるからだ。

お父さんやお母さんからプレゼントを貰えると知っている少し大人に近づいた青年や、サンタさんが今年も来ると信じている可愛い少女まで、みんなその日を待ちわびるかのように楽しそうだった。

私は、この時期になるとそんな村の道を歩くようになる。もちろんトナカイとばれないように変装も変化もしている。今の姿はおそらく子犬のはずだ。

目的はもちろん子どもたちの様子観察だ。どの子にどんなプレゼントが相応しいか、今この子には何が足りないのか、村中を歩き回り、肌で感じていく。

そしてそれをサンタさんに伝えていく。サンタさんはお手紙や私の話を聞いて、あげたいプレゼントをいつも考えている。


私ができることはこの時期の調査と、聖夜のお供くらいだ。

おっちょこちょいで泣き虫で、最近脂肪が増えたと嘆く頼りないサンタさんだが、私は尊敬している。


「サンタさんなんているわけないし。」


だから、こんな声が子どもたちから聞こえるたびにつらくなる。


サンタさんを実際に見た子どもはとても少なく、その少数の子らも記憶はいずれは薄れ忘れていく。

また、サンタさんからのプレゼントに気づかない子もいるため、(そして子どもたちの親が用意するプレゼントには敏感だ)聡い子は親が偽サンタだと早くに気づき、本物のサンタをも偽りのキャラクターと認識してゆく。


(ねぇ、サンタさんはいるんだよ。君たちにはちゃんと毎年プレゼントをあげてるんだよ。)


トナカイである私がどんなに思っても、サンタさんを信じなくなった子どもには伝わらない。

彼らはサンタさんに宛てる手紙も書かなくなり、サンタさんからのお返事ももらえなくなる。


(それは、大人になる一歩だからね。しかたがないんだよ。)


サンタさんの、努めて明るく言う笑顔は、少し寂しげな影を落としていた。

大人って、なんだろう。夢を忘れること、現実的になることが、大人なのだろうか。


(いや、違う。)

「いーや、違うね。サンタさんいるし。」


私の思いが声に出たかと思った。びっくりして辺りを見ると、小学生高学年くらいだろうか、むすっとした顔の男の子が隣の子に拳骨を落としていた。


「いったーい。なにすんだよ。」

「お前がサンタいないとか言うからだろ。馬鹿なこと言ってるとプレゼントもらえなくなるぞ。」

「はー?親からのプレゼントはもらったことあるけど、サンタからはもらったことないよ。・・・・ってまさかお前、まだ気づいてないの?サンタの正体。」


ちょっと馬鹿にするような隣の子の発言。その発言のせいで、どれだけの子どもがサンタを信じなくなったか。私は胸が痛い。

周りがそう言う。違うことを言えば仲間はずれにされる。馬鹿にされる。そんなのは嫌だ。

集団で生きる人間は少なからず、こう思う。トナカイでも同じだ。馬鹿にされるのは嫌だし、恥ずかしい。

だから、取り繕う。サンタさんはいない、知ってたよ、と。


でも、今日のこの男の子は違った。からかう隣の子に対して怒りもせず、泣きもせず、ただ自然に笑っていた。


「親がくれる『モノ』だけが、クリスマスプレゼントじゃねえんだよ。まだまだお前もガキだな。」


私ははっとした。この子はサンタさんのプレゼントをちゃんと知っている。毎年欠かさず受け取っている。と。

私はうれしくなった。サンタさんの素晴らしさを知っている子どもは、ちゃんといる、と。


こういう子どもが増えればいい。そのためにはわたしはどうしたらよいのだろう。

歩きながら考えていると、ふいに名案が浮かんできた。

おそらく、ニヤニヤしている私に誰も気づいてはいないだろう。


決めた。ちょっと大変かもしれないけれどサンタさんには頑張ってもらおう。

子どもたちに、頑張ってるサンタさんをちゃんとみてもらおう。






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