誕生
「メルリア様!」「メルリア様ー!」
国民が、テラスにいる私を呼ぶ。
ドレスを着て、冠をのせ、国旗を掲げる私を呼ぶ。
手をふり返すとともに、涙が頬を伝って落ちた。
もうどこにも、私の名前を呼ぶ者はいない。
*
これは、昔々の話。
あるところに、小さな国があった。
『ゴータリヤ フォルデ』。
女王が政権を握る、戦争も内戦も起こさない国であった。伝統やしきたりを守るお堅い国であった。
たとえそれらが間違っていても、時代に不適切であっても、守り抜いた。
ある年、王家に生まれた四つ子姉妹。
長女はメルリア、次女はジャンニー、三女はユリアン、四女はアーベアと名付けられた。
しかし、
国民へと公表されたのはメルリアの誕生のみ。
たった、数分の差。
それが、彼女たちの運命を狂わせる。
1×××年、午前2時過ぎ。
人のために尽くす命が3つ、生まれた。
【王家の鉄の掟 】一部抜粋。
一, 我が国の全てにおける決定権を女王が所有する。ただし、掟や伝統に逆らうことは禁ずる。
二, 女王の子は女児一人に限る。国民への公表も同様とする。長女のみを王家の子とみなし、育成する。男児が生まれた場合は、自衛軍隊長となるための育成を施す。長女とともに双子、又はそれ以上で女児が生まれた場合、長女の影武者として生きるための育成を施す。