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07話 小さい群れ

 直に揺れる茂みの方へと振り返る。茂みから顔を覗かせたのは先程のドーベルマン2匹……しかし、その姿は先程までとは違っていた。

 1匹は身体中が土で汚れ、足には深々と傷が入っており、その傷のせいか足を引き摺っている。もう1匹は、身体は土で汚れているものの外傷はない、しかし疲労困憊と言った感じで今にも倒れそうであった。

 ……どうにも先程までとは様子が違うようである。


 2匹は俺とジェリーさんを見ると、傷だらけの身体に精一杯の力を込め威嚇してきた。

 正直コワイ。

 

 突然の闖入者の出現に身体を縮ませ、俺の背後へと隠れているジェリーさんの方を見る。

 ジェリーさんは俺の顔を見上げると『お知り合いですか?』と訊ねて来た。

 知り合い……知り合いではあるけれどそんなに見知った中ではないよな。

 お互い出くわして、相手の顔を見て驚き合ったくらいの仲である。


 俺は恐怖に震える身体を押さえつけながら、犬たちをじっと睨む。

 静寂が場を支配した。

 

 俺達とワンコの距離は10m弱くらいか……相手が野生動物であることを考えると心もとない間合いである。さて、あのワンコ達が襲いかかって来たらどうするか?

 正直な話し今直ぐこの場から逃げたい。

 だって相手は野生動物……なにしてくるか解ったものじゃないし、絶対ワクチンとか打ってないだろうし、狂犬病とか持ってたら怖い。

 

 しかし……背中に感じる愛らしいスライムの存在が俺をこの場に停まらせる。

 果たして、ジェリーさんがあのワンコ達に襲われて無事で済むだろうか? ぶっちゃけ、俺にはその判断はつかない。

 犬がスライムを食べるなんて話しを聞いたことは無いが、襲わないなんて保証はどこにもないのだ。

 無論、いきなり正義感に心を動かされた訳では無い。

 ジェリーさんにもしものことがあったら、それは即ち俺の飯問題へと直結する。

 深刻な食糧難に陥ること必至なのだ。


 故に俺はここを動けない。

 ジェリーさんを追いて逃げるという選択肢が俺には選べないからだ。


 しかし、俺は何故この時、ジェリーさんを連れて逃げるという簡単な選択が出来なかったのだろうか?

 自体は悪化の一途をたどっていた。

 

 静寂を打ち破ったのは、ワンコ達の後ろから聞こえる足跡だった。

 俺からでも聞こえる『ダダダッ』といった感じの足音だ。

 草木は踏み荒らされ、木は傷つけられ、大地を荒らす様にして何かがこちらに向かっている。


 2匹のワンコは取り乱したかのように茂みから離れ、俺と茂みとの間に背を寄せ合う形で固まった。俺も何時でも逃げられる様に後ろ足に力を混める。

 そして足音がより鮮明に聞こえて来たのと同時に、先程ワンコ達が出て来た茂みからソイツは姿を現した。

 

『キッキキィーーー!!!』


 耳をつんざく様な五月蝿い鳴き声と共にソイツは飛び出した。

 人間の子供くらいの大きさの人型生物。

 緑色の肌に、頭と身体のバランスを間違えたかの様に大きな頭。それに、とんがった鼻と耳、ギョロリとした瞳と、涎を垂れ流す大きな口がついている。ほぼ裸の身体の腰には申し訳程度の粗末な布が巻かれており、それには何のシミか考えたくも無い汚れが付着している。

 手には血塗れた棍棒のようなもの。どう考えてもこれから有効な関係を築けそうにない生物だ。

 

 本来ならばそんな生物を見た場合い、驚いたり恐怖したり泣き出したりするのだろうが。俺は目の前の生物に恐怖と同様にある種の感動を感じていた。そう、それはスライムのジェリーさんに出逢ったときも心の片隅で感じていたものだ。


『バウバウワぁーーー!!!(ゴブリンじゃん!!!)』


 そう、この生物の名前を俺はよく知っている。

 ゴブリン……スライムと同じくらいにRPGの世界ではお馴染みの生物だ。

 大抵の場合、スライム同様にゲーム上では雑魚キャラとして扱われることが多い存在……醜悪、野蛮、不潔と三拍子揃って描かれることの多いモンスターだ。

 そんなモンスター界の代表とも呼べる生き物が目の前にいる。

 やべぇ、触りたい……


 相手が血塗れた棍棒を持っていることなど忘れ、オタクの本性を曝け出したくなったのを誰が責められるというのだ? だって、リアルゴブリンだぜ? ファンタジーの代名詞のひとつだぜ?

 内心昂奮する俺をジェリーさんは不思議そうな目で見上げて来る。


『……そ、そうですね、確かにゴブリンですね!! 正確にはグリーンゴブリンです』


 ジェリーさんを見ると、彼女は目の前のゴブリンについて説明してくれた。

 なる程、グリーンゴブリンですか……それはアレですね? レッドゴブリンとか居るヤツですね?

 そんなことを考えながらゴブリンを注視していると、なにやらゴブリンは卑下た笑みを浮かべ、両の指を口に咥え大きな口笛を鳴らし出した。

 何事かと思って見ていると、今度は四方八方、全ての方向から無数の足音が聞こえて来る。

  

 心の底が冷える感じがした……

 これは……ヤバい!!!

 

 咄嗟に振り返り反対方向を見る、木の上から7匹くらいのゴブリンがコンニチワしていた。右に振り返る、槍のようなものを持ったゴブリンが5匹茂みの中から現れた。最後に左、こちらから現れたのはなにやら大きな剣を携えたゴブリンさんが8匹。そして最後に棍棒もったゴブリンの背後から4匹……


 なんというか、四面楚歌的な感じがするな……

 俺達は総勢25匹のゴブリンに取り囲まれた。

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