05話 野生の掟
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また二日が経過した。
あれからというもの、朝・昼・晩と定期的に空から果実が落ちて来る様になった。
最初は食欲に押し流され食べちゃったものの、その後は訝しみましたよ(一回だけだけども……)?
だって突然空から食べ物が降って来るんですよ?
そりゃ、どう考えたって不信ですよ……
つか、空から降って来るものには碌なものが無いって昔から相場が決まっているしな。隕石しかり、自分そっくりな石像しかり、女の子しかりだ……
それに、この木に実がなっていない以上、なんか人為的なものを感じる。
しかし、この狼さんスタイルの俺を見て人間が食べ物を恵んでくれているとは考えにくい……何故なら、まだ俺だって自分の姿とはいえ、水面に映るこの恐ろしくも神々しい姿には畏怖を覚えたりするのだから。
ならば野生動物か。野生動物が差し入れでもしていったというのか?……考え難い。野生動物が俺に食べ物を恵む意味が分からない。それに、野生動物に朝・昼・晩と飯を食べる習慣があるとも考え難い。
まぁ、あれだ、何となく餌付けされてる感がしないでもないが勿体無いから食べた……だって、仕方ないじゃない、食べ物は粗末に出来ないし腐るし……それに、なにもしなくても三食手に入るんだもの、ニート心がくすぐられるじゃないっすか?
つまり、考えるのを止めた。
しかし俺も馬鹿では無い……
俺は朝食を頂いた後、ウロを出て木の上に向けて頭を下げた。
『バウ、バウ、バーー(ごちそうさまでした!!)』
木の上からご飯を恵んでくれる親切な隣人に感謝の気持ちを伝える。
こういう感謝の気持ちを伝えるって大事だと思うんだ。
ほら、養ってもらうにしたって何もしないのと、食器洗いや家事のひとつやみっつ出来るのとでは分けが違う。誠意は見せて初めて伝わるものだ。
とはいえ相手が無い者か解らない以上、誠意の見せ方なんか解らない。
……ならばどうするか? なにもしないのか?
否、違う。
太古の昔から人類は助け合って生きて来た。つまり、助けられた側は太古の昔からある感情を持っていた訳だ……そう、感謝の気持ちである。
こうやって感謝の気持ちを伝えることは何事にも変え難きことなのではないだろうか?
そうすれば相手はいい気分になり明日のご飯が出て来ると、翌日の腹の具合は約束されると……
そんなニート界のプロみたいな発想で感謝の気持ちを伝え。俺は、森の奥の方へと歩を進める。
感謝することは大事だ、間違いない。
……とはいえだ。
相手が何者か解らない以上、いつまでもこの施しが続くとは限らないし、明日突然施しがなくなるかもしれない。つーか、正体不明の隣人にまだそこまで気を許している訳では無い(謎の果実は恵まれれば食べるけども)。
俺は一刻も早く自分で生きる術を見つけなければならない……そう、もっとちゃんと養ってくれる保証のある飼い主さんか保護者を見つけなければならないのだ!!
……とは思うのだが、現在の状況でそんな人物見つかる訳が無い。
しかし、正体不明の施しを受け続け、それだけを頼りに生きていくのも不安が募る……
働こう(狩りをしよう)……今日この頃である。
◆
鬱蒼と茂る草木に身体を隠し、そぉっとそぉっとゆっくり物音を立てずに移動する。
狩りは……獣ライフ1日目にすこしばかり経験している。獲物は捕れなんだが……そのとき痛感したことがひとつ……気付かれたら、逃げられる。
当たり前のことであるがとても重要なことだ、あのときの俺はそんな当たり前のことを失念していたのだ!! つまり、今、全力で姿を隠している俺は気配なんか発していない筈!!
狩りなど余裕である……やろうと思えばなっ!!
しかし俺はこの期に及んで生肉を喰う気は無い……
では何故、姿を隠しているのか? ……それは、危険動物から身を守るためである!!
そう、一番最初に狩りやら飯探索やらしていた俺は失念していたのだ……この森にはあの凶暴なクマさんがまだ生息しているかも知れないという事実を……
それにあのクマさん以外に危険な動物が存在しないなんて保証ないのだ。
そして、次にあのレベルの殺人生物と遭遇し生き残れるなんて保証も微塵も無いのだ。
つまり、エンカウントしないに尽きる。
ガサゴソ……
近場から草がすれる音が聞こえた。近くに自分以外の動物の気配を感じる。
瞬時に身を固め、耳に神経を集中させる。
心臓が幾分速くなったようだ。
『……』
息を殺し、音を立てないよう細心の注意を払いながら音のした方を向く。
そして、集中していた耳が神経を向けた方向の音を拾い上げる。
まぁ、なんとなく解っていたことだが、俺はこの姿になって五感が優れたようだ。実感としては、音に敏感になった。おかげで遠くの音がよく聞こえるので危機回避に助かる。
聞こえて来たのは足音。それも複数の、沢山の足音が聞こえる……四足歩行の動物かもしれない。
さて……どうするか?
このまま逃げるべきだろうか?
それともこのままやり過ごすべきだろうか?
究極の決断である。
『……ゴクリ』
生唾を飲む。
徐々に近付いて来る音に神経を集中させる。
実感としては数秒……俺はやり過ごす決断をしていた。
理由は、相手が俺より足が速い可能性があるからだ。
ならば、気付かれぬよう注意しやり過ごした方が良い。
決して腰が引けた訳では無い!!
しかし足音は俺との距離10mといった地点で生死した。
一向に動こうとする気配がない。
心臓の鼓動がバクバクと音を立てる。
『……ハァウ……ハァウ……(いいか、落ち着け俺……確認だ、ちらっとだけ確認しよう……)』
自分に言い聞かせる様に小声で呟くと、草の間を覗き込む様に見る。
見えたのは大きな木の幹、その回りを円形に草が無くちょっとした広場のようになっている。回りには、名前も知らぬ綺麗な小さい白い花が群生している。
俺の反対側の草が揺れた。
揺れた方に視線を向けるとソイツらが居た……
体長1m程のドーベルマンの様な動物。
毛並みは黒く、目は青い。口からは獰猛な牙がコンニチワしている。
どうみても草食動物とか生易しい食生活を送ってない。
遠目でも解る筋肉は、細く引き締まっており凛々しさの中に力強さを感じられた。あのワンコが道で散歩していたら、端に避けて道を譲りたくレベルでコワイ。
そんな野生生物が目の前にいるだけで2頭、それも俺の方をじっと見ている……卒倒ものである。
ここで俺は逃げなかった自分の選択に深く後悔してた。
無理だ、俺、ここで、喰われて死ぬんだ……そんな恐ろしい想像が頭を支配する。
あまりの恐ろしさに目をつむった、事無きを得るよう信じても無い神に祈る。
しかし……
『きゃうん……キャン!! きゃん、きゃん、きゃん!!……』
遠ざかる足音、聞こえて来た情けない可愛らしい鳴き声……
何があったのか解らず顔を上げると、簡単に茂みを越えワンコ達が逃げて行った方を見ることが出来た。
尻尾を垂らして逃げ惑うワンコ達……
どうしたのか解らず首を傾げると、自分の隠れていた茂みの背が低いことに気付いた。
『……バウ(……そうか)』
どうやら俺は全く隠れててなかったらしい。
まさに頭隠して尻隠さずと逝った所だろうか……
しかし、何故あのワンコ共は俺を見て逃げ出したのだろうか?
それについて悩むのにそう時間は掛からなかった。
思いだしたのだ、あの水面に映る神々しい姿を……
つい、頭を前脚で覆いたくなった。
やっちまったと……そりゃ、あのくらいのサイズの動物なら逃げるだろう。
アホなことをしたと自己嫌悪に陥る。
そして、どっと疲れが出るのを感じた。
隠れるにしてももっと、こう、さぁ?……
その後、茂みの中を隠れず移動して数十分……
キノコは相変わらず毒々しく、見上げる木にも喰えそうな実はなっていないため、どうやらこの回りには食べられそうな植物は群生していないことを確認。
もしかしたらここには食べられる植物は存在しないのかもしれない……否、だとしたらあの洋梨の説明がつかなくならないか? まぁ、あの洋梨もこの森の果物って保証はないのだけど。
どうでも良いか……かなり、気分が落ちているのが自分でも解る……
落胆のままマイホームに帰還。
そのとき入口の前にボトっと洋梨が落ちた。
それを見て何故だか涙が出て来た。
これだけでも今日あったことを全て忘れれそうだ……
そう思いつつ、果物に齧りつこうとしたとき、頭上から声が聞こえて来た。
『……ねぇ? 私のお願い聞いて欲しいのだけど?』