04話 苦い果物
はてさて……ある日突然、狼さんとして生きることを運命付けられた俺のセカンドライフは、現在二日目に突入していた。
俺は今も、あの目が覚めた森の泉のほとりにいる。
さて、今の状況を軽く整理しようか……
俺は現在、あの泉の近くで見つけた、となりのトト◯に出て来そうな巨木の根元に空いた大きなウロを居住スペース……もとい、マイホームとしている。
クマさんの一件で疲れ果てた俺は、壮絶な眠気と不本意な満腹感に襲われ、直に睡眠を欲するゾンビと化した。そんな俺が偶然見つけたのがこの穴である。本当にラッキー。
いや、マジラッキーだったんだ。なぜなら、木自体がまるで化け物の様に大きく、そこに空いた穴はこんなデッカい狼が一匹まるまる収まる程大きかったからだ。コレで、これからとりあえず、雨風防げる場所を得られたと思うと涙がでそうになった。
しかし多難は続く……
翌日、目が覚めた俺が直面した関門……
そう、空腹感だ。腹ぺこだ。グーの音もでねぇ程に空腹だった。
しかし、俺は元々近代日本で育った生粋の日本人。腹が減れば実家の冷蔵庫を漁り、それでも飯にありつけそうになければ近場のコンビ二に出向き、飯を購入。帰宅後は、コーラとポテトチップスを頬張りながらYou◯ubeとニコニ◯動画を見て時間をつぶす……間違っても、親から狩りの仕方なんか習わなかったし、狩られる前に狩らなきゃいけないシュチュエーションなんてモン◯ンの中でしか経験したことがない。
つまり何が言いたいかって言うと……
飯にありつけなかった……
いや語弊がある。
これでも飯を食うのに、食料集めに紛争した時間もありました。あまりの空腹で。
しかし、泉を悠々と泳ぐ魚は前脚を何度突っ込もうと獲れず、森に住まう小動物は俊敏過ぎて捕らえられない……つーかなま肉なんて喰いたく無いし、なんか可愛いリスみたいな動物しか出くわさないし、あんなの殺して食べるなんて耐えられない……つまり、肉はあきらめた。
次に何を食べようとしたかというと木の実やキノコだ。
まぁ、あれだ……動物を殺生しなくても食べれるからな。
しかし、木の実などほとんど実っておらず、キノコはどれも毒々しいいろばっかり……
そうして、途方に暮れていたとき見つけたのが、あの忌々しい果物だった。
それは、赤くて実に美味しそう木の実だった。
なんか、背の高い木に一杯成ってて、木の下に落ちてたそれを広い上げ、マイホームに持ち帰った。
そして喜々として齧りついたのがいけなかった……
口中に広がる形容し難き悶絶級の苦みと渋み……
それは、どう考えても人間や動物が食べるものではなく、場合によっては人を殺してしまいそうな味であった。
それからの軽いパニック状態は割愛。
まぁ、なんだ、一応あの忌々しい赤い悪魔は半分程食べている。
だけどまぁ、あの味がどうにも舌にこびりついているようで落ち着かず大変だった。
その後、あまりのショックに項垂れ、またしても何もしないままマイホームの中で一夜を過ごし、そして今に至る。
そしてまぁ、今日も今日とて空腹ですわ。
割と絶望しながら空を見る。
今日もどうせ狩りなんかできないし、食べれそうな野菜や果物なんて見当たらないんだろうな……あれ?俺、積んでね?
自分の現状に絶望しながら、ウロの外に顔を向ける。
美しい泉は波紋ひとつ立てること無く清らかで、木々は先日の修羅場が嘘の様に穏やかに光合成をしてらっしゃる。
どことなく神聖な雰囲気の場所だとなんとなく思った。
俺に画才があったならば是非被写体に選びたい絶景だ。
しかし、絶景で腹が満たされる訳では無い。
どんなに美しい光景だって空腹の前には勝てないのだ。
花より団子という言葉がある。俺の状況はまさにそれ。
やばい、空腹過ぎて涙が出て来た……
ボト……
丁度、俺のマイホームの前、つまり俺の眼前にそれは落ちて来た。
緑色の洋梨のような外見の木の実、俺の知る洋梨より一回り大きい……そんな次元じゃなかったゴメン、スイカレベルの大きさの洋梨だ。そんな物体が突然、俺の前に落ちて来た。
数秒間、じっとその木の実をみてしまった。
そして我に返るとウロの外に頭だけを出し、自分がマイホームとしている巨木を見上げる。
しかし、そこにあったのは天を突く様に伸びた巨木の幹と枝、そして緑色の葉っぱだけであった。その中に目の前へと落ちて来た木の実など見当たらない。
つか、この木に食べられそうな木の実が成っていないことは昨日の時点で確認済みである。
つまり、この木の実はどこからともなく落ちて来た不審物なわけで……
ウロの中からゆっくり、のそりと身体を出す。
木の実に鼻を近づけてみる。
どことなく甘い香りがした。
ゴクリ……
生唾を飲む。
空腹が頭の中を支配する。
(おいおい、冷静になれ俺……これはアレだぞ?身元不明の謎木の実だぞ?昨日の、あのクソ不味い果実より危険物かもしれないんだぞ?)
しかし、俺はまるで吸い込まれるかの様に木の実に口を近づけて行っている……
そして、大きな口を開き恐る恐るのひと口……
口内に広がる果物特有の甘み、噛み締めれば溢れ出る果汁……
昨日食べた悶絶級の味などではなく、ちゃんとした果物の甘みと食感がそこにはあった。
不本意ながら涙が出て来るのを感じた。
その後、俺はむしゃぶりつく様にその果実を食べ尽くした。