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03話 動物にも血液型は存在します、狼と熊は調べときます!!

 天空に立ち上る巨大な水柱。

 その中を上空に向けひとつの大きな影が昇って行く。

 さながら、大きな魚影にも見えるそれは、よく目を凝らしてみると獣の形をしていることが解った。

 泉のほとりに佇むクマはその影を見上げ、獰猛な牙を剥き出しにし、何時でも飛びかかれる様に後ろ足に力を込める。


 そして、十分に力を溜めた状態で一気に飛び上がった。

 その跳躍はおおよそクマに出来る範疇を越えていた。天に向け高く背を伸ばす木々よりも上へ。場合によっては飛んでいる鳥さえも掴み落とせる程の跳躍であった。

 その勢いのまま、水柱を昇る影にめがけて飛び込む。


 強靭な前脚の爪が紅色に怪しく光り、必殺の一撃が放たれた。


 クマの飛び来んだ場所で、爆発の様に弾け飛ぶ水柱。

 放たれた必殺の一撃は確実に水柱を昇る影を捕らえていた。


 砕け散る氷塊……


 狂気に落ちたクマでさ、自分の獲物が巨大な氷の塊になっていることに目を丸くした。

 途端、急に周囲の温度が下り、冷気が泉の周辺に満ち始める。

 極寒の真冬のような気温……泉は中央から一気に凍り、水柱も一瞬で氷柱へと姿を変え、あまつさえ凍りついた氷はまるで生き物の様に徐々に動く。

 その異常にクマも危機感を覚え、空中で逃れようと必死にもがく。しかし、クマに空を自在に動く術は無く、まとわり付いていた泉の水が氷に変わり、数秒で氷柱の上で身動きが取れない状態となった。


 泉のほとりに群生していた草花は、その生き生きとした緑のまま凍りつき、地を這う虫達は突然の温度低下に戸惑い動きを止める。

 突発的な異常気象にその場にいる全ての生命が困惑し、その動きを思考を止めた。

 さながら、時が止まった様な空間にクマの唸り声だけが木霊する。

 しかしその空間にまた新たな音が響き渡った。

 

 ピキリ……


 泉の中央、氷柱の回りの氷にヒビが入り、そのヒビがまるで蜘蛛の巣をはるかの様に泉全体に広がる。そして次の瞬かには音を立てて砕け散り、泉の中央に巨大な氷柱が1本だけ残された。そして、泉から1匹の巨大な獣が飛び出て、そのほとりへと着地する。


 それは、全身に冷気を纏った銀色の魔狼。

 見るものに畏怖の念すら抱かせる神々しい巨狼が、紅い瞳で氷柱の上に捕らえられたクマを睨み上げる。

 その瞬間、氷柱が音を立てて弾け飛び、クマも巨狼の前方へと落とされた。

 土煙を上げ地面に落ちたクマ。かなりの高さからの落下であったが、クマは直ぐさま巨狼に殺意を向けると、その後ろ脚で立ち上がり前腕を大きく開いた。そして、大きく胸を上下させその巨大な身体を存分に使い、大気を振るわすかの様な咆哮を発した。

 このクマの咆哮に、先程まで止まっていたかのようだった虫はそそくさと逃げ始め、木々は揺れ、まるで止まった世界が突然動き出したかのようだった。

 しかし、その強烈な咆哮を前にしても巨狼は目を細めるだけである。

 

 二匹の視線が空中で交わると、それが合図だったかのように二匹は同時に駆け出した。

 接近する二匹。まず、先手を切ったのはクマであった。

 その前脚を高くあげ、爪を怪しく光らせてから必殺の一撃を振り下ろす。

 大振りな攻撃であったが、そのスピードは飛ぶツバメを落とすかの如き速度。一撃を喰らえば命取りになるものであった。

 巨狼はその一撃をすんでで躱す。そして、クマの左側面に回り込み、そのままクマに向けて飛びつき、クマの首元にその鋭利な牙を突き立てた。


 もがき、暴れ回るクマを、巨狼は力任せに抑え込み再度牙を突き立てる。

 地面に押し倒され、巨狼に上をとられたクマは、最後の足搔きとばかりに両腕の爪を紅く光らせ、両方向からの必殺を見舞おうとする。


 その様子を一瞥した巨狼は、クマの喉に牙を食い込ませると、そのまま勢いよく引きちぎった。


 真赤な血が勢い良く吹き出、ヒューヒューとクマが声にならない断末魔を上げる。

 巨狼は降り注ぐ血の雨を一身に受け勝利の余韻に浸りながら、息絶えたクマを喰らい始めた。



 一生に一度見るか見ないかと思われる程の悪夢に唸され、口中に広がる鉄の味で目が覚めた。

 物凄い吐き気に襲われ、近場にあった泉に顔ごと付ける。そうすると、泉の水が紅く濁り、そこにきてやっと自身が血塗れであること知った。

 

 んだよ、これ……


 訝しみながら、悪夢の内容を思いだす。

 たしか、本当に馬鹿げた話しなのだが……確か、目が覚めると俺が狼になっていて、空腹で森を彷徨っていると殺人熊に遭遇するって感じの夢だ。

 本当に馬鹿げているよね、まるでラノベみたいなノリだ。

 まぁ、うん、きっとこの血はアレだ……極度の口内炎と鼻血を併発したに違いない。きっとそうだ。

 そう思い込もうとしていると泉の波紋がおさまり、水面に映った自身の姿が現れた。


 そこには、やはり銀色の毛並みをした血塗れの巨狼が居た。

 青い瞳を情けなく潤ませているのがなんとも俺らしい……


『ガウ……(マジカヨ、夢じゃねーのかよ)』

 

 深々と溜め息を吐き今後の生活に絶望する。

 どうすんだよ、コレ……


 異世界トリップもので、目が覚めたら動物でしたって……聞いたことはあるけども、少数派だろうに……

 つか、まじ、どうすんだよ!!

 俺は、コレからどうやって生きて行けばいいんだよっ!!

 寝床はどうすんだよ? 狼らしく野宿かなんかですか?

 あ、狼って寄生虫とかいるんですかね? 蚤とかわくんですかね? 蚤取りシャンプーしなきゃなんですかね?

 そういえば、こんな姿じゃ、コンビニにもファミレスにも行けないじゃないですか!!

 どうやって飯を食えと? あれですか? 狩りでもしろと? 巫山戯るなっ!!


 そんなどうでもいい自問自答を数分して過ごし、そこに来てやっと自分が空腹では無い謎に行き着いた。

 なんで、俺、腹へって無いんだろう……

 そう思い振り向いた瞬間、問の答えは簡単に見つかった。


 見るも無惨に殺され、喰い散らかされた殺人グマさん……

 内蔵は飛び出て、流れ出た血液は赤黒く固まってらっしゃる……


 その姿を見た後、改めて泉で自分の姿を確認。

 その姿は、血塗れで、さながら『いまそこで獲物狩ってきて、食べた、わん!!』とでも言いそうな風貌であった……


 そこまできて、自分がクマを殺して喰ったことに気付き、この日二度目の吐き気に襲われた。

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