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翠の波と近くの町と

 



 さくり地面を踏むと、落ちた葉が湿った土に押しつけられる。鳥の声。慣れ親しんだ森の風を受けながら、おれは必死に子供らの襟首を引いていた。


「あー! なんだあの蝶!」

「かわいい……」

「だーっ、あの花は触っちゃいけないやつ! ほらこっちの白い花にしなさい!」

「そんな花つまんねーよ」

「そっちの花もかわいい」


 やだもう男の子。反対におとなしすぎる男の子ことノエルといえば、師匠を放って道中の薬草狩りをしている。そうね、確かにその草ちょっと不足してたね……。我が家の在庫におれより詳しくなっている。あと、どうやら器用なのか魔力量の関係か、ノエルが採集した薬草のが状態が良く長持ちするようなのだ。うちの弟子まじ将来有望。

 頭もいいので、たぶんもっと実力ある人間を師匠にしたほうが良いんだろう、とは思うものの。

 ノエルが居ると楽しいし、助かるし、何より本人の望みである。尊重したい。なんて、それを言い訳にしている。まだおれが教えられることあるってのもそのひとつ。あんまり人脈ないせいで、紹介できる相手が浮かばないのも真実だ。顔を見られたくないようだから、都会住みの薬師魔法使いはダメだろー、かといって森に住むのはおれ同等の実力か変人ばかり。

 たまに悩み続けているけれど、なかなか結論を決められない問題だ。どうしよう。むーん。

 若々しく茂る草木に隠れた獣道を外れようとしたギルをふん捕まえて、まっすぐ歩かせた。ギルがどっか行くとまとめてミリーも行ってしまう。親御さんからお預かりしてるんだから、おれには二人を安全に帰す義務がある。


「なー、いつまで歩くんだよ」

「もうちょっと、もうちょっと。」

「さっきもそう言ってた!」


 ぶうぶう。自分でついて来たいと言ったくせにわがままなお子さまだ。ノエルを見なさい、嬉々として蛇を捕まえ……蛇?


「ちょちょちょ、ノエルさん。何捕まえてんの」

「ああ、見てください。アジザですよ。図鑑で見ました、皮が薬になるんですよね」

「図鑑? そんなのうちには、」

「身は食べられるんですよ。毒もない」

「上品な顔して蛇食べる気か!」


 食べないんですか? なんて首を傾げる姿は、しっかり着込んだ不審者ローブのせいでさながら物語の悪しき魔女。ため息。しかしアジザは捻挫の薬になるので、ちゃんとしとめるように告げる。

 子供たちも狩りなんかは慣れたもの、やたら詳しいほかの蛇との見分け方をノエルの口から聞きながらアジザの姿を観察していた。実家にあった図鑑を暗記してるんだろう、あの記憶力には恐れ入る。

 ところで蛇なんてうまいのだろうか。そのまんま尋ねてみる。


「まあ、調理法によれば。このあたりローラスは生えてませんよね。まだあったかな」

「昨日旅商人来たから、うちにはあるぜ!」

「昨日でしたか。じゃあ、なかったら薬草茶と交換してもらいましょう」

「あ、あのお花の香りするやつがいい!」

「わかりました」


 大丈夫ですよね、目配せで聞かれて頷く。不審者ローブだがフードは浅めに被っていて、ちゃんと表情は読める。それに、薬草茶も料理もノエルの担当なので、おれはあんまり口出さないよ。好きにしなさい。

 ちゃんと約束をして、ミリーはそのままノエルと手をつないだ。ギルはどっかから棒を拾ってきて振り回している。両手で構えて上から下へ、両手剣のつもりらしい。


「商人のおっちゃんが、ニアの町まで騎士が来てるっつってた」

「ニア? そりゃまたなんで」

「なんかー、魔法使い? 探してんだってさあ。オンナの。」

「女魔法使いって、ああ、特級か。なんでまたこっちまで」

「すっげーかっこよかったんだって! オレも騎士になろうかなー」


 ぶんぶん。振り回した棒が突き出た枝を叩いて揺らす。ニアの町ねえ。逃げるなら国のこっち方面には向かわないだろうので、その騎士たちはきっと念のために派遣されただけだろう。ご足労。

 ニアの町は近くないが遠くもない。魔法使い協会小支部があるので、今度ちょっとあいさつがてら良い薬師魔法使い探してみたりしようか。協会まで行けば新しい製法の紹介本もある、無駄足にはなるまい。予定が空なのは次のルナエの日だろうか。村より人が居るけど、ノエル来てくれるだろうか。一人で買い物とか苦手なんだよなー、ずっと一人だったので必要以外の買い物なんてしばらくしてない。

 不審者ローブ以外の顔を隠すものがあればもっと、なんて思うも、良い案はないのでそのままでよかろう。多少目立っても素顔ほどじゃない。

 断られそうな予感を頭の片隅に思いながら、どんどん道なき道をゆく。獣はいるけど魔獣はほとんど居ない森なので、獣除けをつけてれば滅多なことはない。危険なのはむしろ毒持ち植物とか虫。

 ギルとミリーに注意をしながら、だらっと垂れ下がった蔓のカーテンを抜け、妙なバランスで傾く巨木を潜り、小川の飛び石を越える。ソナチネの木の口を塞げば、隣の蔦がやわらかくなり道を開けた。

 そうして、ようやく目的地。


「わあ……」

「すっげー!」

「お花がいっぱぁい!」


 現れたのは、カルタゾーノスの泉。小さく澄んだその周りには、色とりどり鮮やかな花々が咲き誇る。

 嬉しい驚きに目を丸くする子供たちを見て、おれは満足に鼻を鳴らした。ふふふん。





 

次回シリアス(はあと)

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