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4. 旅人の街
「君が、長い旅をしてまでここに来た理由は?」
マスターの言葉が頭を離れなかった。私には何らかの目的があってここに来たはずなのに、それが分からない。
「・・・分かりません。」
そうつぶやくのがやっとだった。
私の様子を見てマスターは、こう続けた。
「この質問に始めから答えられる人はいないさ。気にしすぎることはない。みんなこの質問の答えを探している。見つけられた時、君はこの街を去るだろう。」
「私がこの街を去る時?」
私はマスターに聞き返した。去る時のことだなんて考えていなかった。
「この街でたくさんの人に会ったよ。みんな旅人として東からやってきて、そしていつかここを去ってしまう。荷物も全て残して。」
「荷物を置いて行ってしまうのですか?」
「そうだよ。いきなり居なくなってしまうんだ。そうしてたくさんの人が訪れ、去っていく。そういう街なんだ。ここは。」
マスターはまた、遠くを見つめるような目つきをした。