序章 草原の向こう
草原の向こうに真っ赤な太陽が沈もうとしている。一面の草の上を風が吹いて、辺りはざわざわと騒いでいた。
そこを一人の旅人が歩いている。
旅人は棒切れにしがみついて、疲れで重くなった足を必死になんとか動かして1歩1歩、歩いていた。
「日が落ちる前に着かなくては」
ただ、それだけを考えながら。
旅人は夕日に向かって歩いていた。
なぜなら、そこに小さな街が見えたから。
ただ、それだけだった。
「いらっしゃい。誰だい?そんなにふらふらして。今にも倒れそうじゃないか。暗くて誰か分からない。ここのカウンターまで来ておくれ。今日は空いてるからよぉ。」
客はふらふらとカウンターまで行き、椅子に座った。
「あれ、見かけないお嬢さんだね。初めてだろう。この街は。」
客は小さくうなずいた。
「ご苦労さん。大変だったろう。水でも飲むかい。」
優しい顔をした丸顔のマスターは、グラスに冷たい水を入れて、客の前に置いた。からんからんと音を立てて氷がグラスの中をゆっくり回った。
客はその水を飲み干して、マスターに訊ねた。
「今日、泊めてくれる宿屋を探しているのですが。」
そう言ってゆっくり顔を上げた。
もう外は、真っ暗な夕闇に包まれていた。
その中で、このマスターの店だけが、ろうそくの火のように小さく光っていた。