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少年、異世界に渡る  作者: 野上月子
新章 五幕 アルタール  ~賢者のいる国~
478/485

少年、青年と旬

パウルさんとの会話

そして・・。


「あの時の・・パウルさん・・だよね?」


おずおずと旬が聞くと


「そうだよ・・また会えたね」


朗らかそうだ。


あの時より、表情も柔らかい

まるで、別人のようだ


「あ・・それ」


見せてくれたのは、以前

パウル自身が壊した楽器だった


「それ、壊れた楽器だよね?」


弦が切れて

使い物にならない楽器だ。


ずいぶん、使っているのか

ところどころに傷がついている


年季の入ったハープだ。


「・・うん。僕が壊したんだ。

 あの時は、ちょっと嫌なことがあったから」


「嫌なこと?」


すると、あんまり話たくないのか

言葉を濁して


「いろいろね・・この国に暮らしているとつらいんだ」


「つらい?」


「・・・この国はたくさんのことがありすぎた。」


その瞳はどこか遠いどこかを見つめている


旬には理解できない遠いどこか


ベンチから立ち上がる


「みてて。面白いのをみせてあげる」


そこから、地面に座って


何やらチョークをだし


かきかきと書いていく


何を書いているだろう?


お絵描きか?


いや、違う・・これは陣?


チョークで陣をかいていく


なんだろう・・千里が使う陣とは違うな・・?


そう思っていると


「できた。」


見たことない呪文の陣だ


「わっ、すごい。なんなのこの陣?」


「見てて。」


パウルが手をかざす


「錬成」


すると、陣が赤く光って

壊れた楽器に光が集まり


どんどん、修復していく


まるで魔法をみているかのようだ


これが・・錬金術!!


あっという間だった


楽器が傷一つもない綺麗な状態で戻ってきたのだ


そうか・・これが


錬金術か。


てことは、彼は・・。


「すごい・・パウル君、錬金術師なのか」


コクンっとうなずく


そうか、錬金術師か。


初めて見た


こんなに簡単にモノを修復できるのか


すごいな・・!


まるで、奇跡の術だ。


旬は感嘆するばかりだ


パウルは照れるばかりか、頬を少しだけ赤くして


「僕はまだまだ未熟だよ。錬金術師ならこのくらい

 朝飯前さ」


「それでも、すごいよ!!」


旬は無邪気に笑っていると

つられて笑うパウル


「父さまだと、陣なしでできる。

 僕の域では到底及ばないすごい人なんだ。」


「へー。そんなすごい人がいるんだ。」


「うん。」


照れくさそうに笑うパウル

その姿は先ほどの、寂しそうでつらそうな少年の姿では

なかった。


「ほー、錬金術師ッスか。すごいッスね」


その時、ウッズが屋台から戻ってきた


手には、いい匂いがする袋を持っている


「あ、ウッズさん」


「ほら、旬。パンッス。チーズたっぷりッスよ」


旬に袋ごと渡すウッズ


「うわ、すごいチーズがとろとろ

 しかも中まで・・おいしそう」


「しかも、なにこのパチパチのジュースは」


ソーダっぽいこのジュース


すごいパチパチしすぎてる


何かの果物が沈んでいる


「スカッシュッス。すごいッスよね。

 こんなにパチパチシュワシュワはみたことないッス。」


「それは、錬金術を使った新技術」


「えっ・・そうなの?」


パウルが指をさす


そこには、炭酸水を作る機械が見える


「あれ、錬金術を応用した機械の一つ。

 あれで、シュワシュワパチパチを作っているんだ

 僕も買いに行こうかな」


立ち上がろうとすると、ウッズが袋をパウルに渡す


「そんなの、自分がもう買っているッスよ

 ほら」


「あ・・ありがとう。あ、お金」


「いいッスよ。」


ベンチに座るそれぞれ


「自分はウッズッス。あんたは?」


「パウル。」


「あんた、錬金術師だってッスな。どこで習ったッスか?」


「この国の人は、家族から教えてもらんだよ」


「家族?」


「うん。学舎は教養とマナーしか教えてくれない。

 錬金術を磨くなら中央セントラルに行くしかない」


「・・中央セントラル?」


中央セントラルには王立学園があるッスね。」


「へー。」


「そうか、錬金術を本格的に学ぶなら

 学園ってことッスか?」


「そうなの?じゃ」


ふるふるっと軽く首を横に振って否定する


「ううん。僕はこの国を出たことがない。

 出れない」


出れない・・?


どういうことだ?


ただ、パウルは、何も言わない


「色々あるんだ・・僕は。」


それ以上、聞くことはできなかった


踏み入れられない何かを旬は感じ取ってしまう


「で・・でも、どうやってその錬金術を学んで・・?」


「王立学園で学んだものが、人に教えていく。

 そして、人はその学んだ技術を糧に新しい技術を確立していくんだ」


新しい技術の確立


それは未知だ。


でも、そしてこの国は栄えていったんだ。


「僕はね、学園には行っていない・・でも、教えてくれる人がいたんだ

 家族が」


「家族?」


こくりっとうなずく


「僕はこの国を出ることはできない。だけど、僕には

 何にもない」


「それは違うよ・・何もないなんて。」


「そうッスよ」


「・・同じだ」


「えっ・・。」


旬を見て懐かしそうに・・しみじみと呟く


「僕にそうして錬金術を教えてくれた大事な人も

 同じことを言ってくれた」


懐かしそうでどこか遠くを見つめ


ハープから手を離して

空を見上げた


「・・僕は家族に初めて錬金術を教えてくれたその日

 自分に初めて・・・でも、後悔してる」


「後悔?」


「そう。後悔している。」


そう呟くと・・顔を伏せる


表情が見えないまま・・。


「・・・?」


旬とウッズはその様子を無言で聞いていた


「・・・大事な人を傷つけた

 謝ることができないまま今日を僕は迎えた」


「・・・謝れないの?」


「もういないから。いない人間なんかに

 謝ることなんてできやしない」


「「・・!!」」


「僕はその人の年齢に近づいていくたびに・・

 悲しくなるんだ」


表情は見えなかった

なぜなら、顔を伏せていて読み取れることはなかった


旬はおそるおそる声をかける


「パウル・・さん?」


すると、立ち上がって


朗らかな顔で笑っていた


「・・・ふふっ。旬、ウッズさん、ありがとう。

 パンとスカッシュおいしかった」


「あ、どうもッス」


「また、君たちに会いそうな気がする。

 それもすぐのような気もする」


「じゃぁ・・またね」


そういって、パウルは去っていった


旬とウッズはその立ち去る姿を眺めて


「大人になるにつれてッスか・・」


ウッズは呟いていた


「自分もわかる気がするッス。いつか自分は父の年齢に

 追いつくんッスかね」


「・・・ウッズさん」


少しだけ泣き笑いしていた


そうか、ウッズさんもいずれ父親の年齢に追いつくときが

くるんだ・・。


遠くない・・近い


「ははっ。追いつくときは今よりももっともっと

 強くならないといけないッスね」


その決意はとても力強く感じた


「そうだね。ウッズさんならできるよ。絶対」


「ありがとうッス。さ、自分たちもそろそろ戻るッスよ」


「うん」


結局、この国の全容が少しずつ見えてはきていたけど

全部ではなかった。 


だけど、パウルさんの表情を見て


なんとなくだけど・・この国は何かに雁字搦めに

覆われた闇あるような気がする


そこには、たぶん開けてしまえばきっと

後戻りはできないパンドラ箱だ。


旬は少しだけ、何かが始まるようなそんな

何かに手をギュっと握ったのだった・・。



                      ****



その後、宿に戻り

いよいよ、賢者パーティに向かう準備をしていた


ラミアがあのあと笑顔で帰ってきて


後ろから、箱を大量に背負ったカズラが見えた


哀れ・・カズラ


「ほー、かわいいな~」


「かわいいーごしゅじん」


「かわいいッスな」


「かわいいよ。旬」


かわいい、かわいいと言われながら


旬を褒め称えてる面々


「いや、ラミアこの衣装はなんなの!?」


「そら、剣士の衣装や。かわいいなぁ。」


旬の衣装は剣士の衣装だった。

白の衣装がより輝いて、なんていうか子供だけど

可愛さをアピールしているようだ


「これ、模造剣?」


腰にさしてる剣はどうやら模造剣のようだ

他にも目立たないが腰掛ポーチを着けている

杖とかなんでも入る


無限ポーチである。


「そうや。切れんよ。この剣では」


「よくできているね。」


模造剣なのに本当によくできてる


キラリっと光るから余計に


「やろ?うちも見て」


「うちは踊り子の衣装や。」


華やかな衣装だ、胸元が強調されて

ヘソだしている。


しかし、ラミアに妙に似合っている。


「で、僕が、シャーマンね。で、占い師も兼ねているみたいでほら、ミステリアスじゃない?」


旬と同じ白だが、フード付きで顔がわからないように覆われている

仮面をつけるのに徹底的だ


「千里はあんまり変わらないね、あの時もフードきていたし。」


「そう?うーん、僕もその時のことあんまり記憶ないんだ

 ・・・でも、楽しんでたのもあるかも」


ふふっと笑う


「あにまは、しーふだぞ。ごしゅじん」


黒の軽装な衣装をきている

動きやすい服装だ。


「これまたかわいいね。あにま。似合っている」


「そうか、ふへへ」


嬉しそうに笑うから余計に可愛く感じる


さすが、マスコットと言いたい


「で、自分が魔法使いッスか。大丈夫ッスか??」


黒のロープをきてるウッズはまさに魔法使いという感じだ。

模造杖持っている


それぞれが違うジョブだ。

これから仮面をつけるが・・その前に


「で、なんで俺が道化師の衣装なんだよ!?」


わなわなと震え叫んでいるカズラの姿が見える


しかも、化粧してすでにピエロ特有の白い肌と赤い口が

目立っている


「なんだよ、このめちゃくちゃ怪しい人

 になっているだよ!?」


「おーにあっているぞー」


「そうッスね」


アニマが感嘆している先に

ウッズはうんうんっとうなずいている


「カズラ君、ぴったりだよ

 にあってるー」


しかし、千里は棒読みだ


「お前ら・・棒読みじゃねぇか」


「ま、まぁ、カグラ君にはちょうどいいかも

 ほら、怪しい雰囲気が漂ってねぇ」


旬は助け船を出すが、全然助け船ではない


むしろ、煽るだけだ


「なんでだよ、てかなんでこんな衣装なんだよ!?

 千里の方がずるいじゃねーか。」


「えー、でも僕、顔を隠すからね」


「なんだよ!?俺も顔を隠していいかもしれねーけど

 これはひでぇよ!?」


ギャァギャァと叫ぶカズラにラミアは・・。


カズラと千里を指をさす


「あんさんとあんさん、一応、海の向こうでは指名手配。

 ・・特にカズラはん、あんさんは特に!!」


「「うっ」」


ラミアの一言で千里とカズラは黙る


「あー、素性を隠すためだね。忘れてはだめだね。」


千里はハァっと溜息を吐く


「・・そういや、そうだったな。でも、これはひどいじゃね!?」


「しょうがないやんか。さすがに二人も顔を隠していると不審がられるやろ?やから、あんさんはそれでええやんか」


「そうだよ、カズラ。ばれたら捕まるだから」


「旬、わかっているけどなぁ・・はぁ、仕方ねぇ」


ハァっとどこか諦めついた溜息を吐いている


ウッズはそれを見て


「千里さんもカズラさん・・あんたら一体何をしたんすか」


「「いろいろ」」


その言葉を聞いてウッズは苦笑いして


「・・・あんまり、そこ聞かないようにはするッスよ」


「それがいいよ。僕たちは悪人に近いだから」


フフッと笑う


「そ・・そうッスか」


たじろぐウッズ


「まぁ、こんなものやな。」


ラミアはご満悦で笑う


「こんなものじゃねーよ」


とカズラがいうがラミアは無視する


「これから賢者パーティに行くやけど

 あんさんらには一つ、話を聞いてほしいんや」


「なに?」


「うちの・・計画について」


ラミアは怪しい笑みを浮かた


そして話される内容をそれぞれ聞くことになった。


一方・・同時刻


モニターとにらめっこしている青年とそして・・。


「・・時は近づいた。」


そう呟いた


ガチャっと扉が開かけれる音がした


そして、誰かが・・訪れた


「ひさしぶりだ。この時を待っていた」


「・・ああ」


男は一言も喋られない


だけど、青年はそれでも話を続ける


「うん、じゃぁ、動こうか

 ・・この国のすべてを変えるために」


すべてを変える


それは大きなことだった


「ああ・・あの時の恨み・・忘れない」


忘れない


「俺は・・あいつを殺したこの国を許さない」


「うん・・わかっている。」


青年は静かに・・。


「さぁ、始めようか」


「ラグナ」


ラグナと呼ばれた男は・・無表情だった


歪んでいく


遠い昔に置き去りしたのに


歪んだ気持ちが今を進めていく

それぞれの思惑が動いていく・・。


ラグナの再登場になります。

彼の過去とそして現在

様々な想いと思惑が進んでいく

次回、お楽しみに

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