少年、ある跡取り息子とメノリ・カルディア
今回は、アルカの学園時代の話です。
その昔
私は、成り上がりの商人の子供でした。
裕福で、困ることはなかった
だから、私は、アカデミーに入ることができた。
しかし、私には欠点があった
それは、”夢” ”希望”を持つことがない
何にもない空っぽな子供だったのだ
そして、空っぽの世界には色に染まることない
そう、私には・・決められた未来があったから
それ以上もそれ以下もない
なぜなら、私は、跡取りだったから
だからこそ、目的などなかった
何をしたいのか
何がしたいのか
明確に見えていなかった
それは、このアカデミー全体にいえることだった
夢があったはずなのに
気づけばその夢もなくし
絶望の底だった。
そう、腐敗は広がり続け
まさに、それは汚染とも呼ばれる
伝染しきったこの小さな空間は変わることすら許されない
しかし・・そんな時・・強い光がきた
それは・・メノリ・カルディアと呼ばれる
少女だった。
ニッと笑って
強き瞳でそして、どこか余裕そうに笑っていたのは
今にも忘れないだろうと思う
****
「私が・・いえ、私たちが彼女に出会ったのは
じめじめした、梅雨のある日でした」
「うわっ。じめじめした梅雨・・なんていうか、こういう時って晴れた日とか
もっと、あるのに」
千里はブツブツっという
「ええ。本当にそうですね。でも、ね・・そんな日だったんですよ。
じめじめして梅雨で・・そして、腐敗が続くこのアカデミーそのものが
梅雨のように・・・どうしようもない世界だったんです」
そこには、どこか悲しいとか
苦しいとかそんな感情なんてない
ただ
ただ
遠い過去に思いを寄せている
アルカの瞳の奥には・・・雨が見えた
・・そう、じめじめした雨が・・
そして、アルカは話を始める
「彼女がきたのは、すでに蔓延していた腐敗の中でした。
貴族も庶民もその腐敗の中にもがき苦しみ
闇の中に・・ただ、そこにいるような・・そんな小さな世界には
逃れることなんてできない」
「・・・闇の中」
旬はポッリっとつぶやいた
それは・・どんな世界だったんだろう
俺は・・少しだけ、わかるような気がする
真っ黒な闇には・・抜け出すのは・・皆無だということを
「ええ。闇の中・・だから、正しいことが正しくない
悪いことが正しくなるそんな状況だったです。」
「・・・それは、今の世界でも同じのはずだぜ?」
カズラが皮肉を言った
「ええ。そうです。それは、否定はしませんよ。
でも、彼女は来て当初、この学園に異儀を唱え
立ち上がったのです」
「・・その、メノリ・カルディアが・・?」
「はい。彼女は、腐敗の学園を正しい方向へと導こうとしました。
だけども、そんなの異分子とみなされる」
「ああ。僕らもわかるよ・・異分子というのは
もっともね」
千里は顔を背けた・・どうやら、あんまり思い出したくないことも
あるようだ
俺は・・何も言えなかった
しかし、カズラは、どこか吹く風で平然と・・。
「だよな。俺も覚えがあるぜ。力を持つ者、持たない者
考えが合う者合わない者を加えて人と違う者
それが弾きだされていく。そんな、世界には
・・仕方ねぇのさ」
割り切っているカズラ
それは、正論なのか、俺にも分からない
でも、どこか・・ズキっとしたんだ。
心の・・奥の奥が・・。
「そう、異分子で居場所もない彼女は、貴族にも庶民にも・・そう
畏怖の瞳、私では耐え切れない程の・・痛みを彼女は味わいました」
でも・・。
そこで、アルカは言葉を切って
俺たちを見て
「でも・・彼女は、逃げませんでしたよ。」
「・・・!」
逃げ・・なかった?
「彼女は堂々と戦い・・まっすぐに強く前を向いていました。
絶望の瞳なんてない、いつも、希望をもっていました。
そう・・だから、いつしか味方が増えたのですよ。
それこそ、貴族も庶民も彼女の味方になったのです。
それが、やがて大きくなり・・改革が行われる程のことでした」
それは・・すごいことだよね
メノリ・カルディアに会ったことのない俺は
当然、どんな人物なのか分からない
でも・・今の話をきいあ
「・・そして、あの日が訪れました」
「あの日?」
「ええ。王立アカデミーの演説の日
それは・・メノリ・カルディアの演説でしたよ」
「・・え、演説」
そ、そんな演説あったんだ
だけども、なんでだろう
聞いてみたいような気もしたんだ
・・・もう、聞けないと思うけど
「はい。私は忘れもしない・・
彼女の演説。強い言葉でもない、弱い言葉でもない
だけども、人の心に響き、そして今でも忘れることのない
あの”声”を・・。」
「声?」
アルカが思い出すのは
一人の少女が全校生徒に訴える言葉
それは、負け惜しみでもない・・苦しみを訴えるのではない
あるのは・・希望の言葉
強い言葉だった
それは、忘れもしない・・伝説の日と・・なった日
アルカは、思い出していた
忘れようもしない高揚感は・・今でも覚えている
「その声は、救ってくれました。我々を・・ね」
・・。
アルカさんは、救われていたの・・?
そんなどこか、優しい話だけども
どこか、納得していない・・二人組
空気クラッシャーがいた
「どのへんが救われたんだ?俺には訳わからねーぞ」
「そうだよ・・なんていうか心が救われたの?」
そのどこかクラッシャーぶりに、旬は呆れる
「千里、カズラ・・ぶち壊そうとしないでよ。」
「何言ってんだ。旬、気になるだろ?話の途中で盛り上がりのない
話は面白くねぇぞ」
「そうだよ。旬!!」
「だから、違うって!なんで、そこで面白い話に
変換するの!?」
旬のツツコミにアルカの笑いを誘うのか
フフッと笑ったすると、二人はビクっとして何か
ムッっときたのか
「な、なんだよ。笑うことねぇじゃねぇか」
「そ、そうだよ」
「いえ、すみません。懐かしく感じたので」
「懐かしく?」
すると、笑顔のアルカは・・とてもうれしそうに・・目を細めて
「ええ。昔を思い出していました・・懐かしいことです。
そして、そうですね。お二人の質問を返すとなれば・・
私は、救われたのは確かに、”心”でもあります。
千里さんの言う通りですよ。でも、もっとも・・・
救われたのは・・私の”未来”です」
救われたのは・・”心”だけではない
旬たちは・・茫然っと・・口に出す
「「「「未来・・・?」」」」
三人のつぶやき
考えようもない答えが帰ってきたので、驚くのだ
「・・未来というのは・・私の今ある未来・・つまり、この会社のことです」
「・・ああ、このエルレイド社のことか?」
コクンっとアルカはうなずく
「正直いえば、この会社は、最初から設立し、一から始める気はなかったのですよ。」
「・・えっ、でも・・。」
「設立というか・・絶賛、繁盛しているじゃねぇか」
「・・ええ。そうです・・だけど、私の生まれは商家で。
しかも、大商人だったのでその、跡取りとしてこの会社とは関係ない世界の生まれでしたのです」
「・・・!」
商家・・確かに、商売に関するのは同じだけども
分野的、少し違うよね。
「あんた、跡取りだったのか?」
「ええ。そうです。でも・・今、商家は・・私の弟が継いでいます。
私は・・この会社を設立したのです・・それは、思い描いた未来の
向こう側だったですよ」
「・・そうか・・そうなんだね。あなたが救われたのは
心だけではない・・未来の”夢”!」
旬がそういうと・・アルカは笑顔を少しだけ曇らせた
「ええ・・でも、私は、この会社をつくることは最初は怖くてできませんでしたよ」
「あなたが・・?」
千里が問い
「あんた、自信満々なのに?」
カズラが問う
その言葉に肯定するアルカ
「ええ。自信満々なのに・・です。夢には、勇気がいります
だからその勇気を後押ししてくれたのが彼女だったのですよ」
メノリが・・・アルカに笑みを浮かべる
あの日を思い出す
”アルカ、商家の跡取りのままでいいの?”
ある時、メノリは聞いた
”私には、商家としての役割以外、何もないのですよ。
生まれて意味があるのは、決められた未来です。”
すると・・メノリは怒る
”違う。それは・・アルカが、その夢をあきらめただけ。
本当に好きなこと。それは、その心の奥にあるの”
”奥・・?
そっと、アルカの心臓がある部分にをトントンっと軽くたたく
”ええ。奥に心に無意識のうちにそれを追い求めている・・違うか?”
すると・・アルカは・・。
”それは・・・でも、自身が・・。。”
”・・・大丈夫。自分を信じろって。
夢は、誰かが叶えてくれる訳ではない。
自分しか、叶えてくれる人はいない・・だろ?”
メノリの言葉は、どこまでも力が強かった
”あなたにも夢があるのですか?”
すると・・メノリは、自信満々に笑った
”あるというかむしろ、ないという方が笑えるよ
いいか、あたしの夢は学者になることなんだ。
父さんの役に立つことがあたしの夢だ。
そしてもう一つ”
”もう一つ?”
”ああ・・帰ることさ。”
”帰る?”
すると・・。
初めて・・優しく微笑んでくれた
”ああ・・どうしようもない国だけども
大好きな・・私の故郷に”
そう、誇り高い少女の笑顔は・・忘れることなどない
その笑顔もまた・・勇気を与えてくれたのだ。
ふと、途切れた記憶
メノリに言われた言葉をそのまま・・思い出すように
復唱する
「夢は勝手に誰かが叶えてくれるわけではない。
自分しかできないことをするだけ。
だから、私は・・この会社を作ることを決心しました。
私でしかできないことがある。それは小さなことでも
大きなことでもいい。できることをやればいいのですから」
それは、日々の積み重ね
旬は、その思いを知ったからこそ・・
「・・・小さなこと、大きなこと・・か、小さなことは、やがて
大きなものに変わる。だから、今のやっていることは決して
無駄ではないんだよね・・俺、今そう思ったよ」
そう、無駄ではない
それは、間違いであっても進んでいる
信じているだよ・・俺は。
限りなく無限に旬はそう信じている
その言葉は、二人にも影響を及ぼす
「旬、言うねぇ・・でも、その通りかも!」
「だよな。俺もそう思ったぜ」
「カズラ君は、今思ったばかりでしょう。」
千里の辛辣なツツコミが放たれる
しかし、今のアルカは一瞬驚いた顔をしていたが
「・・やはり、旬君。あなたは、メノリによく似ている」
に、似ている?
「えっ・・。」
どの辺が似ているのか旬は特徴を探す
しかし、分からないに尽きる
「メノリは、彼女は、今のように決して無駄なことばかりじゃないと言ってくれました。あなたは、人を導く人のようだ。」
人を導く・・そうなのかな?
でも、俺、分からないよ
「・・だといいけど。」
旬は気恥ずかしくなったのか・・頬が赤くなる
でも・・あることを思い出した
それは・・。
メノリ・カルディアの”今”だ。
今はもう・・。
思い切って旬はアルカに問いかける
「・・ねぇ、あなたは・・アルカさんは、知っているの?
メノリ・カルディアはもう・・。」
すると、少しだけ・・視線を逸らして
「ええ。知っています。彼女はもう・・いないことは。」
「・・知っていたのか?」
「・・・。」
カズラと千里は・・その真相を知っているから黙っている
だけども、それを口にすると・・きっと、もっとややこしくなるのが
わかるから黙っているのだ
「・・私、風の噂で彼女がこの世にいないことは知ってしまったのです。
しかし、それは・・裏切りでもありません。」
「それは・・・どうして?」
千里がおそるおそる・・問うと。
「・・人が決めたことをむやむに非難することは私にはできません。
でも、もし私が・・メノリに救われた皆はこういうでしょう。」
「・・・。」
「”なんで、私たちに助けを求めなかったんだ”とね。
皮肉ですよね。今更のことです。」
そこには、悔しそうな顔をして・・手を強く握りしめている
アルカさんがいた
だけども、グッっとこらえて気丈に見せていた
それが、痛々しかったのも・・きっと俺は忘れないと思う
でも、旬たちを見て・・けして、これ以上不安にさせたくないのか・・。
ギュっと・・手だけは強く握りしめて
「だけども。未来は繋がっている・・また、どこかで会えるような気がしたのです」
「・・どうして?それは」
「・・・それは、カンですよ」
「勘・・ねぇ。」
カズラがつぶやく
勘に関して何か思うところがあるようだ。
「・・どこかでまた会える。それは、変なことかもしれません。
でも、なんとなく・・そう思えてはならないですよ。」
それは、かすかな希望
決して、ありえないはずなのに
どうしてか、その時の俺は・・そう思ってしまったんだよ
「勘なんて、なかなかありえないのに
それを信じるのもすげぇっと思う。
だからこそ・・あんたは、強い。」
カズラの言葉に・・キョトンっとしていたが
やがては・・フッと笑って
「そうだといいですね・・私に今できることは
いつかの為にいつかの為にこの飛行船の開発を続かせること
それに・旬君・・君を乗せたのも・・きっと、運命だと思うです」
「俺たちが・・?」
それは運命だといえるのか?
「ええ。あなたは間接的とはいえ、メノリを知っているようです。
ですから・・それを乗せた旬君たちをそれを私は・・運命と呼びます」
「俺たちが・・運命・・。」
そっと、自分の心に触れるアルカ
「だから・・この大仕事・・必ず、私は貴方達を送り届けます。
世界の果てでも・・必ず!」
その決意は、旬、千里、カズラを黙らせる一言だ
そして、やがてはいつものようなアルカが優雅に礼をして
「旬君・・ゆっくりとしてくださいね。
長旅には疲れますのです。私の話はここまで。
では、また。」
「・・・あ、はい」
去った、アルカを向て・・千里はポッリっと声が出る
「・・・あの人、覚悟を決めているね」
千里は、気づいているようだ
アルカさんの中にある”覚悟”を。
「そうだね・・俺も、今そう感じたよ」
「・・僕たちがその真相を知っていると知ったら
怒るかな?」
そう、すべては、ニルの絵から始まった悪夢だ。
でも・・それを言ったら・・アルカさんはどう思うだろう・・?
「・・分からないよ。でも、アルカさんはきっと、俺たちを恨まない。
そんな人だからこそ、俺は尊敬するよ。」
「・・ああ。あの人、男だよな。なんか、俺よりか
最強ってやつ?まぁ、いろいろと。」
「それ、なんか違うよ。カズラ君」
しかし、それに同意したのは・・意外にも旬だった。
「だよね、まぁ・・後ろ背中を見れば誰だってそう思うかもしれないね」
にへらっと笑う旬
「旬まで・・はぁ。」
どこか、ズレているカズラと俺に千里はため息を吐くのだった。
***
一方、視点を変え・・
そのころ・・ウッズは、この飛行船内の鍛錬場の中で
ガチンっと・・何かの音がした
「うわぁぁぁ、ッス」
剣が弾かれ
後ろへと後退し、態勢を崩す・・少年・・ウッズがいた。
「さぁ、しっかりせぇんかい!!」
「む、無理ッスよ!!」
攻撃を受け流せないウッズ
後ろにある剣を取るにも・・手が震えて取れない
む、無理ッス
こ、コワイッス。
ウッズの内情は、恐怖でいっぱいだった。
しかし、無常にもラミアの攻撃は一歩も引かずに・・
ピッっと差し出すナイフは・・喉元スレスレだ
「ひ、ヒィ」
「ら、らみあ・・!!」
さすがのスレスレに青ざめているのかアニマだ
審判役として二人を見守っているようだが
「大丈夫や。」
い、いままでラミアさんはそ、そんなことしたことがなかったッス
い、いったいどういうことっす
理解できそうもない、ラミアは・・険しい顔をして
ウッズから離れる
そして・・・。
「ラミアさん・・!」
「・・ウッズ、今からうちはあんさんに無常なことを言うわ。
決して取り乱すさんことやな」
「えっ・・・。」
そこには、ラミアは・・ナイフをウッズに向けて
「うちらは、これからあんさんを守れへん。
もしかしたら・・・あんさんは・・生き残れることが
難しいかもしれん。」
そこには、無常な言葉
でも・・・わかっていたッス
「・・知っているッスよ」
その言葉は重くのしかかることはもう気づいている
「自分は、ものすごく足手まといな存在だとも気づいているッス」
不甲斐ない自分にも・・・もう・・自分は知っているッスよ。
ウッズは、過去を思い出す
何もできなかった・・あの日々のことを・・。
それぞれの運命に・・ウッズの答えは・・?




