お使い
いつもこの瞬間がどきどきして一番好き。
そっと茶封筒を開くと香る紙とインクの匂い。
私は朱 閔鈴23歳、黄桜国文官として日々充実してる
周りには「さっさと嫁にいけ」や、「女のくせに文官など」と…と言われているけど、気にしない。何と言っても私は無類の文字フェチ。世界各国から手紙や、書類が送られてくるこの部署は私にとってパラダイス!
今目の前にあるのは新しい書類の翻訳の仕事。
さぁ〜!待ってて文字ちゃん!今私が解読してあげるからね〜!!!
「閔鈴、この書類を麗稀様か斎棊様のどちらかに渡して貰える?」
えぇ!?何であたし?
机から視線をあげると上司の儀晶様と目が合う
「お〜い閔鈴。そんな思いっきり不服そうな顔をすると僕はSだからね。余計にいじわるしたくなっちゃうぞ」
「ドSのくせに…」
「へぇ〜。そっか閔鈴は僕の事『ド』がつくSだと思ってるんだ」
笑顔が恐いっ!!今までの優し気な雰囲気どこ行った!?
ぎゃ〜!!暗黒帝王光臨しちゃってる。美形が凄むと迫力倍増すぎる。
そうあたしの上司の儀晶様は超がつく程美形。ってか女の人でも通じる程に綺麗な顔。黄桜国の中でも五本の指に入るその麗しさに外出すれば失神者が続出だったり…
まぁ…あたしはそんな顔には騙されませんが…何せこの人お腹真っ黒だし
…って、SとドSの違いって何!?
「すぐ行ってきます!」
「素直な子は僕大好きだよ」
「遠慮しておきます!」
おおぅ…暗黒再び…
「いってきま〜す!」
さっさと逃げるが勝ち!
儀晶様の手から書類を半ば奪い取り部屋を飛び出した。
*
「ふぅ…殺られるかと思ったわ」
全く必死に逃げて汗だくだわよ!あの鬼上司め…
あたしはがっつり文系だっつの!
若干必死すぎて書類がよれちゃったよ
「あ〜それにしても麗稀様か斎棊様…めんどくさい二人だなぁ」
次期国王候補で国の人気No1・2の二人を掴まえてめんどくさいとか誰も聞いてないから言えるんですけどね
「どうせならこんな書類、転送術でぽんっ!とか送れたら楽なのに…」
そしたらあたしは今頃あの書類にがっつりハマってるはずだったのに…
おっとそんな事考えてる間に麗稀様の執務室じゃん…
とりあえず隣の警備騎士に挨拶して…と
「よしっ!」
まぁ、麗稀様も斎棊様もどっちもどっちなんで…
まぁ、てっとり早く終わらせて帰りたいんで
まぁ、書類ちゃんがあたし待ってるんで
とりあえず…扉を叩き…
がつんっ!
…え?
『…麗稀様ぁ〜』
…はぃ?
扉の内側から聞こえる女性の声。
余りの驚きに手より先に頭突きをかましてしまいました。
『…お願いです。私をぎゅっと抱き締めて下さいませ』
…えっと…昼日中の執務室ですよね?
思わず周りを確認してしまうのはあたしのせいじゃないと思う
取りあえず扉の横の警備騎士に微笑んで誤魔化してみると「今城に滞在されてる隣国の聖瑛様です」と聞いてもいないのに答えてくれる
面倒くささ極まりないシチュじゃんかっ!!
この中に飛び込んだら…いろぉぉぉんな意味で生きて帰れる自信がない…
『誰だ?』
中から麗稀様の声が聞こえましたが…
頭突きはしましたがノックはしてません…なのでこの部屋はスルー決定!
そうと決まれば!ここに長居は無用!ドロンです!!
ドロンっていつの時代だよっ!!
ガチャ…
あぁ…変な突っ込みを入れてる間に、ぎゃ〜!魔の扉が開くぅ!!
こういう時は…ノブを掴んで髪の縛り紐を外して…と
ノブを紐でガチガチに固定!珠結びでこれはなかなか外れません!
「ちょっ!そこの騎士さん!扉の前に立って!!ほらっ!ノブ抑えて!」
「は?」
「姫様と麗稀様の間を邪魔したとなったらあたし処罰されてしまいますからぁ」
うるうると瞳を潤ませながら上目遣いにおねだりポーズ。
先月のファッション誌『鳴杏』にこれで落ちない男はいないって書いてあったんだから間違いない…はず、まぁ…あたしがやって効果があるかは疑問ですけど…
「だから、あたしがここを離れるまで扉の死守お願いしますぅ」
「え…あ…あの…」
この騎士さん女性免疫ゼロだわ…真っ赤になってしどろもどろになってるもん。でもちゃんとノブを掴んで頑張ってる姿…グッジョブ!貴方のその律儀さ泣けてくる
「その声…閔鈴?」
ぎゃ〜!『嬉しい事があった時の声』で私を呼ばないでっ!!
「…なんだこれは」
途端に温度を下げた声に思わず背筋に氷が入れられた感じがするんですけど…
ノンノン!麗稀様、姫君の前で一文官の名など呼んではいけません!
ガチャガチャとノブが回されてますが…無視です!無視!
おぉう。さすが麗稀様!すでにノブが壊れそうです!
鼻を摘んでっと
「ミンレイチガウヨ。ソウジフネ!トリコミチュウナラ、マタアトデマワッテクルネ」
「…閔鈴、何言ってるの?怒るよ?すぐここを開けて」
だから〜閔鈴じゃないんだってば…
失礼極まりない物言いですが、サッサトズラカリマショウ!
警備騎士さんに口パクで『よろしく〜!』とだけ伝えてあたしはさっさとそこを後にしたのだった




