実はサラブレッド
あれから麗稀様が慌ててあたしを救護室まで運んで下さって、儀晶様もいつの間にかいらっしゃって、今に至るわけなんですが…
「麗稀様、この後会議の予定ですよね?閔鈴の事は私がみておりますので…」
「儀晶…わかった…任せたぞ」
そうだ!そうだ!さっさと会議に行っちゃって下さい!
え?なんで聞こえてるのかって?気を失ったんじゃないのかって?
え〜っとですね…実は…
ガラガラ…
扉の音がしたという事は麗稀様が出て行ったって事ですよね?
「閔鈴。いつまでそうしてる気?」
ちょっとあきれた声の儀晶様の声
はは…ばれました?
「はーい」
「…全く、気を失うって、何時の時代の女性?」
「お手数掛けてすみませんでした」
ここはやはり起き上がって頭を下げないと…
「可愛い姪っ子の為…」
「わ〜〜〜〜〜っ!!!!儀晶様っ!!!」
ぎゃ〜っ!!
この人いきなり爆弾発言かまそうとしてるよ?
あたしにとってはメガトン級の爆弾よ?それ?
そりゃあもう慌ててあたしは儀晶様のみぞおちにタックルかましちゃいましたよ?
「ぐっ…閔鈴」
「誰が聞いてるか分からない場所でそう言う事言うの止めて貰えません?」
抱きつく様な格好ですけど…違いますよ?
みぞおちへの強襲ですよ?これ?
って何でゆっくり手をあたしの後に回してさり気なく抱きしめちゃってるんですか!?
「…いい加減諦めたらどうなんだ?」
いつもと違うふざけて無い声色…うぅこっちも緊張するじゃん…
「諦めたらどうなんだ?」これを意味する所も実は充分にわかってたりする…
「嫌です…面倒くさい」
「…面倒くさいねぇ」
「星家にも、月家にもなるつもりありませんから」
星家と月家、これに王家の陽家を加えると黄桜国の御三家となります
実は何を隠そう我が朱家はこの両家の跡取りだった父と母が家を出て新たに王様から頂いた家名で…あ、でも絵巻物のような駆落ちの末の結婚…なんて事は無かったんですよ。二人とも頭のいい人だったので、きちんと自分以外の後継者に後を譲って穏便に家を出たんです。まぁその譲られた後継者の一人が目の前の儀晶様で…ちなみに父の弟さんになるんです。
あはっ!一般人なのに実は血だけはサラブレッドだったんですよ!
ただ…残念なのは、こんな腹黒鬼畜と少しでも血のつながりがあるのかと思うと…
「今凄く失礼な事考えてるだろう?」
「ま、ま、ま、まさか…滅相もない」
こんなに簡単に人の心を読むとは、さすが黄桜国一の魔術使いの家柄でいらっしゃる…
「閔鈴が非常に顔に出やすいだけだと思うよ」
「………」
ちなみに儀晶様のフルネームは『月 儀晶』現在の月家の御当主でいらっしゃいます。
「兄様がお許し下さればすぐにでも閔鈴の後見人に月家がなるのに…」
「いりません」
「何なら星家と連名で後見人でもいいよ」
「絶対却下です。論外です」
この両家、父達の結婚を認めて跡取りを他に譲る事も素直に認めたくせに、異様にあたしには執着してるんですよ。
それはもう産まれた時から…何度誘拐されかけた事か…だから母を亡くした後、父はその危険性を避ける為に職場、つまり麗稀様と斎棊様の所へ一緒に連れてったんですけど…
…身内が一番危険ってどうよ?
一時期なんてこの儀晶様に嫁げとか…無い無い!絶対に無い!!
「いい加減…そっちこそ諦めて下さいよ…」
「何を?」
「あたしを養女だとか…後見人だとか…」
「無理だね。これは月家の総意だから…星家も一緒だと思うよ」
だから面倒くさいんですっ!!!想像しただけでそりゃもうぶっ倒れるぐらいに!
文官になって王宮に勤めだしてから、星家も月家も静かになって諦めたと思ったのに…
「…っち」
「その舌打ちは気かなかった事にするよ。でもね閔鈴。王宮に勤めだしたって事は政事に携わる覚悟が出来たって事だろうと月家でも星家でもそう受けとられてる。つまり、今はこの現状で両家とも納得してるけど、暫くすれば次の段階に動き出すよ?それは覚悟しておいた方がいい」
「って月家の御当主…儀晶様じゃないですか…」
「これは当主一人でどうにか出来る問題じゃないんだなぁ…」
って…あたし何様ですか?
単なる一般人の文字フェチ文官なだけなのに…うぅ胃が痛い。
「そろそろ麗稀様も本格的に動き出すしね…」
「え?…何か言われました?」
「いや…まぁ頑張って…」
何て気の無い応援なんでしょうか…
「取りあえず仕事に戻ろうか」
倒れた(嘘だけど)部下をすぐに働かせるなんて…鬼だ…鬼がここにいる
「さ、行くよ」
「んぎゃ〜〜〜〜!!!」
王宮にその日けたたましい叫びが響いたとか響かなかったとか…
小話を活報で書いてます
よければどうぞ…