打ち合わせ…のはず
最近、この執務室に何だか入り浸ってる気がするのは気のせいじゃないよね…
目の前の麗稀様は超絶不機嫌そうな顔で座ってるし……
え?何をしてるのかって?
そりゃもちろん黒曜国の会議の打ち合わせですよ?
「…だからどうして閔鈴の部屋が侍女部屋で手配なんですか?」
……訂正します。出張の打ち合わせです。
「…ですから、そこは男性から急に共が女性に変わったのでそこしか無理なんですよ」
…あくまで『出張』の滞在部屋の話ですよ!
「ならば尚更、どうして私と同じ部屋では駄目なのです?」
………
………何ででしょうね?誰かこの人に教えてあげて下さい…
かれこれこの本来ならスルーすべき問題をわざわざ取り上げて下さり1時間…
もっと有意義な打ち合わせをあたしは望んでるんですが……
はぁ…ここはもっと直接的に言うしかないんですよねぇ…気が重いです…
「麗稀様(その耳をウサギにして)よく聞いて下さいね。貴方は王族。私は庶民」
もちろん()は心の声ですよ?そんな口になんて出しませんよ?
オーラは真っ黒に漂わせてますけどね…
「だから何です?」
ギブミー常識!誰か麗稀様にこの二文字を叩き込んで下さい!
「王族の部屋に泊まる庶民なんて聞いた事がありませんけど?」
「今回は急遽変更された事で、例外が適用されてもいいはずですが?」
あぁ〜〜〜〜〜!!!!
今、無性に自分の頭をガシガシしたくなるのは何故?
「そんな例外ありえません」
「ありえないから例外でしょう」
……どうしてくれようあの口を……縫い込んでしまおうか……
「とにかく…この件はもうこれで決定事項ですので覆りません。以上」
「………」
麗稀様の顔を見ても…これは絶対納得してない…
っていうか何でそんなに同室にこだわる?
「まったく一緒の部屋なんて妻でもあるまいし…」
つい愚痴が溢れてしまったのを許して欲しい…
そしてその言葉に麗稀様の目が光っていたなんてあたしは全く気がつかなくて…
「…妻ならばよいのですか?」
「はぁ?何ですか?それ…」
「今言いましたよね?妻ならば同室でも構わないと…」
何で麗稀様がそんなに凄んでるのか意味わからないんですけど…
あ…!もしかして…
「麗稀様のお相手の方って通訳さんか何かなのですか?え?もしかして外務部にいらっしゃるとか?」
え?え?そうなの!そうなのっ!!
何だかテンション上がって来たぞ!!
あたしだって行き遅れてますけど、乙女ですからね!恋話大好きですよ?一般の女性と王族の恋…絵巻物みたいで素敵ですね!
って外務部の女性で一般の方って言ったら…麗稀様と釣り合う美人
……いたっけ?
はっ!!顔じゃない!顔じゃないぞ!!麗稀様ともあろう人が顔で人を判断するわけないっ!! 昔から麗稀様を見て来た自分が言うのだから間違いない。ちゃんと中身で判断してる筈!そうすると…家柄で釣り合うのはあの人か…?いや…もしかしてあの人…?
まぁ誰でもいいっ!出張変わってくれればそれでいいっ!!
「ならっ!!あたしその方と出張変わりましょうか?すぐに結婚は無理なんで多分お部屋の件は何ともならないと思いますけど…」
「…何の話をしているの?」
はっ!しまった…一人で盛り上がりすぎた……
「すみません。私とした事が…つぃ…」
「ねぇ閔鈴」
…なぜ席を向かい側から隣に移って来られたんでしょうか?
「ほんとに気付いてないのですか?」
…何がですか?
と聞きたかったけど…何だか聞きかえしてはいけないってあたしの中の危険信号が『エマージェンシー』をかき鳴らしてる
「では…また後日この打ち合わせの続きを…」
ここはやっぱり逃げるが勝ち…と思ったら…挟まれてます…麗稀様の腕に…
「逃がしませんよ…」
えっと…これって……どういう事でしょうか?
「閔鈴はその鈍さもとても可愛いですが…いい機会ですから」
「ニブイ?イイキカイ?」
聞いちゃいけない…
心に鍵をかけて…
絵巻物の世界であって下さい
そうして私の意識はフェードアウトしていった