異世界に憧れる渡辺さんの隣にいる僕は転移してきた元第二王子の異世界人
「フルフレイム!ぶわーー!ぼわーー!」
女性の甲高い声が、とある部室に響き渡る。厨二臭い技を繰り出したかと思えば自分で効果音までつけているこの女は、高校2年という年齢で異世界に憧れる渡辺美羽である。
彼女はまだ厨二病を拗らせていた。
「また変なことやってるよーー。」
小さな声で呟くこの男、凛咲洸雅。
彼こそ異世界から転移してきた、正真正銘の異世界人である。
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「あー、私も異世界に行って最強になったりとかして平和を脅かす魔王とかを倒して勇者とかになってみたいな。いや待て、その勇者をサポートする魔術師なんてのもいいかも!!」
放課後の部室でいつものようにそう騒ぎ立てる。
「洸雅くんも、そう思うでしょ?」
渡辺さんは話を振られるのを待ってたんでしょと言わんばかりの顔をしてこちらを見る。
「まぁ、確かに楽しそうですよね。」
本音を言おう、全く楽しくなんてない。何ならその逆だ。
実際の異世界なんて魔王なんてのはとうの昔に勇者が倒しちゃってるし。
いつ魔物に殺されるかわからない恐怖心に耐えながら生活しないといけないし。
こっちの世界の方が相当楽しいし何より平和だ。
渡辺さんがゆっくりと椅子から立ち上がる。
「てことでだよ、洸雅くん。」
何を言い出すのかわからない渡辺さんを俺は嫌そうに目を細める。
「今日も実験しよう!」
今日は何をするつもりだ、と大きなため息をつきながらやれやれと首を振った。
渡辺さんは部室にあるロッカーの前に移動してから、そのロッカーの戸を引きその中から大きな紙を取り出した。
「召喚魔術だよ!」
机の上に広げた大きな紙には大きくマジックペンで魔法陣が描かれていた。
「この魔法陣でどうやって異世界に行くんですか?」
俺の問いかけにニヤリと笑みを浮かべて渡辺さんは答える。
「全くわかってないね洸雅くん、まずは異世界のものをこの魔法陣でこの世界に持ってくるんだよ!魔石とか、ポーションとかをさ」
なるほど召喚魔術か。実際の召喚魔術は、魔法陣なんて使わずただただ詠唱をするだけでできるのだがーー。
「てかよくこんな物持ってましたね。これどうしたんですか?」
「昨日、今日のこの日のために徹夜して作ったの」
目の下に大きなクマを作っている渡辺さんは俺にそういう。授業中ずっと寝ていたのはそのせいだったのか。
流石にこれはもうどうしようもないな。
魔法陣をニヤニヤしながら見てる渡辺さんを見ながらそう心の中で思う。
「ところでこの魔法陣をどう使うんですか?」
「そんなの、魔力を流し込むんだよ」
何当たり前のこと聞いてるだと言ってきそうな顔をしながらそう俺に言い放った渡辺さんは魔法陣に手を置いて力を込める。
「んーー!!」
力を込めてもぴくとも動かない魔法陣を俺は無言で見つめる。
っぷ
顔をトマトみたいに真っ赤にしながら頑張る姿は意外と面白くて笑ってしまった。
「ちょっと、笑ってないで洸雅くんも手伝って!」
隣で笑っている俺をみて怒った渡辺さんはそう叫ぶ。
「はいはい。」
俺も見よう見まねで魔法陣に手を置いた。
にしてもこの魔法陣徹夜しただけ合ってちゃんとできているな。
魔力を込めたら意外とほんとになんかでてきそうなぐらいだ。
俺は、面白半分で手に魔力を込めて魔法陣に魔力を注ぎ込む。
「っ!?」
「え?え?なにこれ?」
魔力を込めた魔法陣は突然音を立てながら光を放ち出した。
魔法陣から放たれた光が、部屋中に溢れた。俺はもしもの事を考慮して渡辺さんを抱き寄せてその場で小さくなった。
…
魔法陣から放出されていた光が止む。
光が止んだ部屋を見渡す。
魔物とかが召喚されたのではないかとヒヤヒヤしたがそれは大丈夫そうだ。
「渡辺さん大丈夫ですか?」
俺は自分の懐にいる渡辺さんに目をやる。
「だ、大丈夫」
さっきと同じくらいの顔の赤さだが、少し事情が違うことは考えたらすぐにわかった。
「す、すみません」
俺はすぐに渡辺さんから離れた。そりゃそうだよな高校2年生が部室で抱き合うなんて不純だ。
少し気まずい空間が流れた後に渡辺さんは立ち上がった。
「ふー何が起こるかとヒヤヒヤしたよ。」
渡辺さんはそう言いながら俺に手を差し伸べる。俺はその手を掴んでヨイショと立ち上がる。
ありがとうございますと言い俺たち2人は魔法陣の方に目をやる。
…
そこには転移してくる前に死ぬほどたくさん見てきた魔物がいた。特に危険でもなく何のために存在しているのかわからない魔物。
「嘘でしょ!めっちゃ可愛いんだけど!」
渡辺さんは魔法陣に駆け寄りその魔物を抱き寄せる。
そうそこにいたのは、
『スライム』であった。
---
「洸雅くんも触ってみなよ。プルプルで冷たくて気持ちいいよ。」
渡辺さんはニコニコしながら膝の上に乗せたスライムを撫でる。
何故こうなったのか、あんなふざけた魔法陣からなんでスライムが出てくるんだよ。こんな事ならふざけて魔力なんて流すんじゃなかった。
俺はこのスライムをどうするかを頭の中で巡らせていた。渡辺さんがいないところで討伐するのもいいがこんなに可愛がっているのに殺してしまうと渡辺さんが悲しんでしまう。
かと言って野放しにしてたらいつの日か進化して凶暴になるかもしれない。
「やっぱり私って魔術の才能あったんだな!よし今度は私が異世界に行くための魔法陣を描こう!」
一生懸命頭を巡らせている俺の横で能天気な独り言を渡辺さんは口ずさんでいる。
「そのスライムどうするんですか?」
俺が問いかける。
「私が責任を持って最後まで世話をします。」
アホか、と言いたくなるのを抑えて俺は冷静に話を進める。
「スライムの寿命って知ってますか?」
「んー知らない、寿命なんてあるの?」
「個体によりますが最低でも300年は生きます。」
「、、、」
「なんなら進化して凶暴になるかもしれません。」
「、、、」
「ここで殺しましょう。」
「嫌だ!」
無言だった渡辺さんが急に大きな声で叫ぶ。
「嫌だー、嫌だーちゃんと育てるからー」
子供のように駄々をこね出した渡辺さんをみて俺は呆れる。
「あのですね、そういう問題ではなくて、」
「一生のお願い!本当にちゃんと育てるから!」
「あのだから、そういう問題じゃーー。」
「凶暴になったら殺してもいいから。」
「だから、」
「お願いだから!」
「、、、」
俺は押しに負けてしまって、このスライムは部室で飼うことになった。
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次の日の放課後、俺は少し早く学校が終わったので部室に1人でいた。
机の上でのんびりしているスライムを見ながら俺は大きなため息をついた。
「しくじったな〜どうしようがこのスライム。」
俺は頭を抱えた。
「嫌なことでもあったの?」
誰だ?聞いたことない声だ。
俺はドアの目の方に目をやるが誰もいない。勘違いか?
「こっちだよ。こっち。」
声のする方に目をやるとそれはスライムだった。
「お前、喋るのかよ。」
このスライム、まさかの少しレベルの高い知的なスライムだ。
「僕を召喚したのは君だよね?」
そういえば、一応魔力を流して召喚したのは俺だったな。
「そうだよ、急に呼び出しちゃってごめんな。」
「いやいや、僕も周りがスライムだらけだったから退屈してたところだったんだ。」
周りがスライムだらけって、そりゃお前がスライムなんだからそうだろ。とツッコミたくなる気持ちを抑えた。スライムは倒しても碌な経験値にもならないため特に討伐対象になるわけでもなくのほほんと暮らしてる魔物だから、退屈になるのは確かにそうなのかもしれないな。
「君ってさここの世界の人間じゃないでしょ?」
スライムが急にそんな事を言い出した。
「何でそれを?」
「僕を召喚してるんだからそりゃそうでしょ。」
言われてみれば確かにそれはそうだ。自分で自分をツッコんだ。
「何でこっちの世界にいるの?」
「んー、向こうの世界で普通に魔物に殺されちゃって死んじゃってさ気づいたらここにいた。」
スライムだし別にいいかと思い話をした。
「向こうの世界に戻りたいと思わないの?」
「今は、特にそうは思わないかな。」
今の生活はとても楽で居心地がいい。たまに向こうの世界について思い出すこともあるが、今のところは別にいいと思っている。
「でも君といつも一緒にいるあの子は異世界に行きたがってるよ?」
「あいつは、まぁ馬鹿だからアニメとかしか見たことないからあんな事を言ってるんだよ。まじにするな。」
何だかこのスライム少し薄気味悪く感じてきた。
「僕なら君たちを異世界に連れて行ってあげれるよ。」
「その話、本当?」
後ろから聞き慣れた声で聞こえてきた。振り向くとそこにいたのは渡辺さんだった。
「スライムちゃん、会話ができるのね!ねぇねぇ異世界に連れて行ってくれるって本当?」
一番きちゃいけないタイミングで来ちゃいけない人が部室に来てしまった。
「うん!条件さえ満たせれば!」
「条件?」
「異世界出身の人2人が居れば異世界に転移できるんだよ!」
「でも、異世界出身の人なんて居ないよ?」
「いるじゃない、そこに」
スライムは体の一部分を俺の方に伸ばした。
「洸雅くんのこと?」
このスライム余計な事を
「何を言ってるんだよ、俺は異世界なんて知らないぞ。」
俺はそう答えるとスライムが俺の言葉をかき消すかのように話し出す。
「そこにいる洸雅くんってのはね、レナリア王国の第二王子、レナリア・リューグ・ハウス君だよ。」
俺はスライムを蹴り飛ばす。
何でこいつが元の世界の俺のことを知っているんだ?さっきも嘘をついて誤魔化したのに。
俺が冷や汗を垂らしながら慌てる姿を見て渡辺さんが俺に問いかける。
「え?本当に異世界の人なの?」
「違いますよ、こいつが適当なこと言ってるだけです」
俺は急いで答える。
「じゃあ何で今スライムちゃんを蹴っちゃったの?」
「、、、」
それもそうだ焦ったせいでらしくもない行動をしてしまった。疑われても仕方ない。
「もう一回聞くけど、異世界の人なの?」
これはもう何を言ってもダメだな。
「うん、」
俺は顔を伏せながら答えた。
…
無言の時間が続く。やっぱり言わないほうが良かったか?
俺は顔を上げて渡辺さんの顔を見る。
へ?
そこには思っていた顔とは裏腹に全力の笑顔でこちらを見ている渡辺さんがいた。
「すごーーーーーーい!!!」
「ねぇ、異世界ってどんなとこなの?何で早くそのこと言わなかったのよ!王子様って話も本当なの?魔王とか勇者とかっていたの?」
「あ、え?ん?」
怒涛の質問攻めが始まった。
「ち、ちょっと、待って一回落ち着いて」
「良かったね、秘密を話せる友達ができて」
気がつけば蹴り飛ばしたはずのスライムが俺の横にいた。
「スライムちゃん!洸雅くんが異世界人ってことは条件は満たせてるよね!」
「うん!満たせてるからいつでもいけるよ。」
嘘だろこの流れ。
「ねぇ、洸雅くん!」
ちょっと待てちょっと待て流石に展開がはやすぎやしないか?
「異世界に行こ!」
まじかよ。
---
目を開けると、そこは商店街のような場所だった。
目の前には、見覚えのある王宮がそびえ立っている。
頭上では竜たちが空高く舞い、店先には剣や杖など、さまざまな武器や魔道具が並んでいた。
誰がどう見ても異世界だ。
……はぁ。また帰ってきてしまった。
「本当に異世界に来たのね!」
肩を落として落ち込んでる俺を横目に大はしゃぎしているのは渡辺さんだ。
「成功して良かったよ。」
下を見たらスライムがそこにいた。
こいつは一体何者なんだ?普通のスライムではないし何なら異世界に転移なんて相当な魔力量を消費するはずなのだが。何より俺の正体を知っていたのはすごく引っかかる。
「おい、なんで俺の正体なんて知ってるんだ?」
「さて、何でだろうね」
このスライム一々鼻につくな。
「こんなところで、僕に時間を使ってていいの?あれ見てごらんよ。」
「ん?」
俺はスライムが指差す方に目をやる。
「おいゴラ、クソアマ勝手に俺の店のもん触るんじゃねぇよ!」
「何?なんて言ってるの?」
そこには店の人に怒られている渡辺さんがいた。
「すみません、俺がちゃんと怒っておきますので!」
俺は2人の間に割って入って、店主に謝罪した。
「全く、ちゃんと躾けてーー。」
ん?
急な無言に違和感を覚えて、店の店主に目をやる。
「……ハウス、様?」
あ、
そういえばそうだった。
「ハウス様じゃないですか!」
店主が大声で叫ぶと周りの店の人、客が騒ぎ立て出した。
「ハウス様!亡くなられたのは嘘だったのですね!」 「ハウス様が生きてるだって!」
まずい、大騒ぎになってしまっている。どうやってここから抜け出すか、
「全く何をやってるんだよ君は。」
気がつけば真下にいたスライムがそういう。
スライムが大きく布状に大きくなり俺と渡辺さんを飲み込んだ。
---
……ん
気がつけば開けた荒野にでていた。
人の影なんて一つもないような荒れた場所。
ここは確か、街外れの場所、
横にはぐっすりと気持ちよさそうに眠っている渡辺さんがいた。
良かった何とか助かったのか。
「全く次からは気をつけてよ。」
渡辺さんの抱き枕がわりになっているスライムがそういう。
「それはすまなかったな。」
この世界は渡辺さんには危なすぎる。そんなこと来る前からわかっていたのに何で俺は止められなかったのか。
今更になって後悔をしているとスライムが俺に話しかけてくる。
「君を異世界に連れ戻したのはさ、君にここの王子になってほしいからなんだ。」
……そういうことか。
「………んーあれ?ここは?」
スライムの声に反応して寝ていた渡辺さんが目を覚ます。
「せっかくだし君のこの世界での話をこの子にもしてあげたら?」
「ん?何のこと?」
何もわかっていない渡辺さんが頭をかきながら俺の方を見る。
結局この世界に戻ってきてしまったし、ここで生活していればいつかはバレる事だしな、話しておくとしよう。
「渡辺さん、今から俺の昔の話をするね。」
「え?何?あ、うんわかった。」
寝起きで状況を理解しきれてない渡辺さんは慌てながら返事をした。
俺は第一王子である兄、レナリア・リューグ・ラウルと王権を巡って争っていた。
戦況は、誰がどう見ても俺に有利だった。
兄は国民から重い税を取り立て、自分の望むままに国を動かそうとしていた。そんな兄を支持する者は少なく、反対に、多くの国民や兵士が俺の側についていた。
このままいけば、俺が王位を手にするのは時間の問題だった。
——あの夜、兄の放った刺客に襲われるまでは。
その晩に俺は兄の刺客に刺し殺された。
俺は全力で抵抗したのだが、その抵抗虚しく最後の最後には力尽きてしまった。
でも次に目を開いた時には、見覚えのない川と草原が広がっているところにいた。
川の上には大きな橋がありその橋の上を巨大な金属の塊が走っていた。
戦争なんてものを微塵も感じさせないような静かな空間だった。
そこが異世界だと気づくのはまた先の話だ。
「とこんな感じだ。」
俺は包み隠さず全てのことを渡辺さんに伝えた。
「何だか、私が思ってた異世界とは違うわね。」
渡辺さんは怪訝そうな表情を浮かべている。
それはそうだ、こんな話されたら憧れだった異世界なんて嫌になるに決まってる。
俺はそう思いつつスライムの方に目をやる。
「それで俺に国の王になってほしいのは、あのクソ兄貴が王だったら国が回らないからか?」
俺は何となくの推測でそうスライムに話しかけた。
「大正解だよ。流石は第二王子様だね。」
「うるせ」
確かに、あの死に方には少し腹が立っていたからなこんなチャンスはもう二度とないだろうし俺をスパイを使って殺したっていう証拠もある。これはひと泡吹かせてやろうかな。
「私も手伝えることあるなら、何でもするよ!」
横で渡辺さんが大きな声で張り切っている。
この世界ではあまりにもか弱すぎる渡辺さんにできることは少ないだろうが手伝ってくれる気持ちを踏み躙りたくない。
「頼りにしてるよ、渡辺さん」
「任せなさいよ!異世界なら何でも大歓迎よ!」
本当に異世界の危険性がわかっているのか、と少し不安が残りつつも俺たちは目を見合わせて笑った。
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「ラウル様客人がいらっしゃいました。」
王宮の玉座に座る王子、レナリア・リューグ・ラウルは不機嫌そうに顔を歪める。
「黙れ、客人など読んだ覚えはない。今すぐ追い返してこい。」
従者は困り果てた顔をして返事をする。
「申し訳ございません、追い返すと言ってももうすぐそこに来ておられまして。」
そう聞こえると俺と渡辺さんとスライムは王宮のドア蹴り飛ばして叩き開ける。
「よう、兄貴」
兄の顔がもう一層歪む。
「なぜお前が、殺したはずじゃ?」
「やっぱり兄貴のスパイだったのか」
「っ!?」
口を滑らせたのに気づいたラウルは口を手で覆う。
「その王権を取り返しに来たぜ。」
「今更何をお前を支持する人なんてもう1人もいないではないか。」
「ちゃんと見ろよ俺の横にいるじゃねぇかよ。」
横に立っていた渡辺さんが、一歩前に出る。
「あんたが、ここの悪者ね!洸雅くんと一緒にあんたなんかコテンパンにしてやるんだから。」
「って事で、俺に関してはお前が俺のことをスパイを使って殺したってことを国民にいいふらせばすぐに終わる話だったんだがな、お前がそんなんで引き下がるわけないしそもそもまた殺されたら元も子もないからな。」
ラウルが大声で叫ぶ。
「何がいいたい!」
「ここで終わらせるってことだよ!」
俺はそう叫んでラウルの方向かって全力で駆け出した。
ここでこいつを殺す。
ラウルの口角が上がる。
なんだ?
「何よ!離してよ!」
後ろから声が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、そこには首元に刃物を近づけられている渡辺さんがいた。
首元に刃物を近づけている奴には見覚えがあり、そいつが前俺のことを殺そうとしたスパイだということはすぐにわかった。
「おいお前今すぐその手を離せ!」
「それは無理なお願いですね。」
渡辺さんが泣きそうになっている。
まずいなクソ、渡辺さんから離れるんじゃなかった。
「弟よそこから一歩でも動いてみろ、大切なお仲間さんの首が飛ぶぞ?」
薄気味悪い笑みを浮かべながらラウルは俺にそう言う。
「卑怯だぞ!」
「俺にはそんなもの関係ない、お前が俺の王権を奪いにきたのが悪いのだろ?」
クソどうしようもないこの圧倒的不利でな状況どうすれば……
あれそういえばスライムは?
俺はあたりを見渡した。
………そう言うことね。
俺は手を上にあげて言い放った。
「降参だ、俺もそいつも殺してくれ。」
「何言ってるのよ!洸雅くん!」
後ろから大声で渡辺さんの声が聞こえる。
「やっと諦めたから、焦らせやがって。」
そう言うとラウルは手のひらに大きな炎の塊を作りこちらにそれを向ける。
「来世ではまともな人生を歩けるといいなクズ。」
『フルフレア!』
俺の元に炎の塊が飛んでくる。
「洸雅くん!!」
「お騒がせスライム、出番だぜ!!」
「はいよ〜」
俺は飛んできた炎魔術を打ち消しそう叫んだ。
「何を言ってーー。」
戸惑っているラウルは声のする天井を見上げる。
?!
「おい離せ!」
上から降ってきたスライムはラウルの体のまとわりつき、体を吸収していく。
「ラウル様!」
「いたっ」
渡辺さんを殺そうとしていたスパイは主人の危険を察知して、渡辺を投げ飛ばしラウルの元に駆け寄る。
俺がそれを見て見ぬ振りをすると思うか?残念そんなに俺は優しくありません。
『フルフレア!』
俺はスパイに向かって魔術を放った。
「え!フルフレア使えるの?!」
空気の読めない渡辺さんの声が聞こえてくるが一旦は無視だ。
「あ、あぁぁーー…ラウル様ーーー…」
スパイは無惨にも灰になりその場で倒れた。
俺はスライムの方に目をやる。
「終わったよ。」
ラウルを捕食し終えたスライムはさっきの行動とは真逆のような可愛い声でそう言った。
「た、助かった〜」
後ろから大きなため息と共に安堵の声を漏らす渡辺さんの声が聞こえてきた。
俺は渡辺さんの元に駆け寄り体に怪我がないことを確認した。
「大丈夫ですか?」
「う、うんありがと」
俺は座り込んでいる渡辺さんに手を差し伸べて立ち上がらせた。
これで全て解決だな。
俺は肩の荷が降りて大きなため息をついた。
気がつけばスライムが寄ってきていた。
「ハウスくん、流石だねやっぱり君は王になってこの国を変えてくれる存在だよ。」
そうだ俺はラウルを倒したのだからこの国の王にならなければならない。
「よかったね!洸雅くんこれで一件落着だよ!」
渡辺さんの愉快な声が聞こえる。
………
「おいスライム、結局のところお前は何なんだ?」
「………」
無言が続いた後にスライムが口を開いた流暢に話し出す。
「僕はこの国の先代王レナリア・リューグ・クリフだよ。」
へ?
「すまん聞き間違いだと思うからもう一度聞いておくよ。スライムお前は何もんだ?」
スライムが嫌々応える
「だーかーらー、この国の先代王のレナリア・リューグ・クリフだって。」
先代様?嘘だろ?
「何で、先代様がスライムに?」
「なんか生まれ変わったんだと思う。」
確かに先代様なら話の辻褄が合う。遠い昔には異世界転移の魔術もあったとか言うし。
「ん?どう言うこと?スライムちゃん偉い人なの?」
空気の読めない渡辺さんがまた口ずさむ。
「渡辺さん、このスライムこの国の先代の王様だよ。この国を作った人!」
「えー!スライムちゃんそんなすごい人だったの!」
えへへそれほどでもといいながら頭っぽい部分をカリカリとかく。
「それじゃあ、この国はこれからハウスくんが治めてね。ラウルくんみたいになったらまた僕が君を食べにくるよ。」
「え?洸雅くんこの国に残っちゃうの?」
「大丈夫だよ!異世界の転移の条件だった異世界出身の人が2人とかどうって言う設定は全くの嘘だから。君だけ元の世界に戻したあげるよ。」
スライムが流暢に、いや違う間違えた。先代様がそう渡辺さんに言う。
「それは、いいんだけどさ」
渡辺さんが寂しそうに言う。
「これで、洸雅くんとお別れか、寂しいな。初めて異世界の話をちゃんと聞いてくれる大切な友達だったのに。」
………
「先代様」
「どうしたの?」
「先代様って、スライムですよね?」
「そうだよ」
「スライムって捕食した相手に変身できるユニークスキル持ってましたよね?」
「あー確かそんなのあったね。」
「先代様が、ラウルに変身して王様になられてはどうでしょうか?」
「………」
沈黙が続く。
「それいいね!君天才!」
そう言うとスライムだったはずの姿からラウルの姿に姿を変えた。
「やっぱ僕が王様する!」
「てことは?」
俺は期待しながら先代様に話しかける。
「うん!2人で一緒に元の世界に戻っていいよ!」
「本当ですか!」
俺は渡辺さんの方に目をやる。
「やったね!洸雅くん。」
目に涙を浮かべながら渡辺さんは俺に抱きついてきた。
よかった。本当に良かった。
それを眺めながら先代様は微笑んだ。
---
ある日の放課後ある部室から騒がしい声が響いていた。
「洸雅くん!今日も実験しようよ!」
「そうですね。何をしますか?」
「この前やってたさフルフレアまたやってよ!」
「それはちょっと厳しいですね。」
「えーーーー。」
いつもの楽しい日常が戻ってきた。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
ぜひレビュー、評価、よろしくお願いします。




