小噺13『こけむす』
○『こけむす』あらすじ
町の若者・与吉は、幼なじみのおゆきに長年恋をしている。しかし顔を合わせると照れてしまい、素直な言葉が出てこない。子供の頃から意地悪ばかりしていたため、今さら気持ちを打ち明ける勇気もない。
ある日、友人たちに恋を見抜かれ、
「好きなら言え」
と責められる。だが与吉は、
「言えねぇから困ってる」
と頭を抱える。そこで町の歌学者の先生を訪ね、恋心を伝える和歌を教えてほしいと頼み込む。
先生は恋歌の作品をいくつも出して最終的に、
我が思ひは貴船の岩にむす苔の忍びかねてぞ色に出でにける
という歌を与える。
「長年秘めた恋心の歌」
ということを聞いて感激し、おゆきへ届ける。
数日後、おゆきから返歌が届く。
苔のむす貴船の岩も言はぬ間に心の内にぞ思ひ積もれる
先生に急いで見せると、
「これは見事な恋の返歌じゃ」
と言われて、与吉は大喜び。
「向こうも長年俺を想っていたんだ!」
と舞い上がる。
友人たちも勝手に話を進め、
「祝言はいつだ」
「子供は何人だ」
と大騒ぎ。
やがて与吉は、おゆきと二人で会う約束を取り付ける。
ところが待ち合わせの場に現れたおゆきは、なぜか笑顔がない。
与吉が、
「お互い長年思い続けていたのですな」
と言うと、おゆきは、
「思っていたとも」
と答える。
与吉は恋が実ったと喜ぶが、おゆきは続けて、
「忘れるもんかい。あんたが私にしたことを」
と言って、子どもの頃、与吉にされた次のような意地悪を憎らしく語った。
•髪を引っ張る
•持ち物を隠す
•人前でからかう
与吉はもちろん覚えていたが、歌の件もあり、ゆるされたと思っていた。
与吉が呆然とする中、おゆきは返歌の意味を語る。
「私の思いは恋じゃない。長年胸に積もった恨みだよ」
そして、
「私が詠んだ『苔のむす』はね――」
と笑い、
「私をコケにして、私はずっとムスッとしてたってことさ」
と言い放つ。
ようやく返歌の本当の意味を知った与吉は、
「そうか。。。積もっていたのは恋じゃなくて恨みだったか」
と肩を落とす。
おゆきは、
「これで少しは胸のつかえが下りたよ。一度直接文句を言ってやりたかったのよ」
と言って立ち去り、与吉だけが取り残される。
その時、鶏が「コケッコー」と鳴き、与吉は、
「己、蒸すぞ」
と一人呟いた。




