秀吉の子
1. 秀吉と寧々の会話
「子が欲しいのぉ」
「たくさん側室がおるでしょう。がんばりなさいませ」
「しかしわしには子種が無い」
「でも前に南殿との間に石松丸が生まれたではないですか」
「実はあれはなかなかのおんなでな。別のおとこを寝やに入れていたんじゃ」
「まあっ!」
「家臣が見つけてわしに報告しよった」
「それでどうしたのです」
「おとこは切らせた」
「まあっ!」
「その後腹が膨れてきたのでどうしようか迷っていたのだが」
「それで」
「忙しさにそのことを忘れていたら男の子を産んでしまったんじゃ」
「それであなたの子にしてしまったの」
「忙しくてのぉ。わしもそれでいいことにしてしまったんじゃ」
「・・・」
「だからのぉ、わしには子種がないのじゃ」
「あんたはいろいろなおなごを側室にしてさんざん抱いてきたのに」
「けども抱いた回数はおまえがいちばんじゃぞ」
「・・・」
「しかし跡継ぎがおらんのはつらいのぉ」
「そうですけどしかたないじゃありませんか」
「そうだけどのぉ」
「秀次はどうなの。お姉さまの子供を跡継ぎにするので良いではありませんか」
「あやつにするしかないかのぉ。しかしどうもたよりにならんでのぉ」
「じゃあ石松丸のように側室に別のおのこにあてがえて生ませては」
「・・・」
「大将の器のあるおのこの子種でよいお子ができますよ」
「それではわしの血筋にはならぬではないか」
「子種が無い、とご自分で言っていたではないですか」
「・・・」
「養子とかわりませんよ」
「・・・」
2. 秀吉と茶々の会話
「茶々どの茶々どの、可愛いのぉ。わしの側室になってくださらぬか」
「・・・」
「お市さまに良く似ておる」
「秀吉どの、あなたは父のかたきでもあり母のかたきでもあるお方」
「そういうな茶々どの。戦国の世のならいよ」
「わかっています。でもあなたの側室になるなら死んだほうがましです」
「茶々どの、なんでも言うことを聞くから死ぬなどとはもうされるな」
「あの世の父と母になんと言ったらよいのか」
「そこは我慢じゃ。わしもこのような身になる前は我慢、我慢の連続じゃった」
「・・・」
「あの信長さまの頃はいつ死んでもおかしくはなかった」
「・・・」
「なんとかわしの側室になって欲しい。贅沢をさせてあげられるのだ」
「・・・」
「いやかのぉ」
「秀吉どの。私はただの側室にはなりたくはありません」
「ん?」
「後の関白の生母になりたいと思っています」
「そうか、うん、そうだ。わしの側室になって子を産めば次の関白の生母になれるぞ」
「・・・」
「それでええ、それでええ。わしの側室になればなれる」
「秀吉どの。でもあなた様には子種が無いと聞いております」
「ん・・・」
「私はあなたの側室になります。ただ1年経っても子が出来ぬ場合」
「子が出来ぬ場合?」
「私は何らかの方法で子を身ごもります」
「なんと・・・、どうやって・・・」
「それは、私におまかせください」
「まかせるとな?・・・」
「お任せください。そしてそのことは誰にも言ってはなりませぬ」
「・・・」
「私に任せてくだされば秀吉どのは自分の子を持つことができるのです」
「・・・」
「全てを私に任せることによって豊臣家は安泰となります」
「そなたを側室にして全てをそなたに任せるということか・・」
「・・・」
(寧々が言ってたことが現実になるのか・・・)
3. 茶々の妊娠
「でかした茶々。わしの子を身ごもったな」
「そうです殿下、あなたの子を身ごもりました」
「でかした、でかした。よくやった」
「これで豊臣家は跡継ぎができました」
「そうじゃ、わしはこれを待ち望んでいたのじゃ」
「わたしもうれしゅうございます」
「ところで本当の父親はだれなのじゃ」
「なんとおっしゃいます殿下。さきの新月の夜に伽にこられた時の子です」
「ほんとうか?」
「誠に本当にございます」
「ほんとうに、ほんとうか?」
「誠に、誠にほんとうでございます」
「ほんとうに、ほんとうに、ほんとうか?」
「最高権力者の殿下のつまの部屋に、いったいだれが忍び込めるものでしょうか」
(ほほえむ茶々)
「・・・」
「殿下の子に間違いございません」
「わかった。この子はおれの子に間違いはない」
「そうです」
「でかした、茶々。よくぞわしの子を身ごもってくれた」
4. 鶴松の死後の秀吉と茶々の会話
「鶴松が死んでしもうた」
「残念でござりました」
「わしの子が、わしの唯一の子が・・・」
「殿下のお子を亡くしてしまいました・・・」
「わしもとしを取った。豊臣家はもうわしでおわってしまう・・」
「殿下・・・」
「なんじゃ」
「それは違います」
「ん?」
「鶴松の代わりを生みます」
「もうわしはとしじゃ」
「私におまかせください」
「無理じゃ」
「再度身ごもります。おまかせください」
「・・・」
「殿下、また私の寝所に毎晩お越しくださいませ」
(ほほえむ茶々)
5. 茶々、2度目の妊娠
「茶々、よくやった。今度は大丈夫だ。この子をわしの跡継ぎとする」
「殿下が毎晩私の寝所にお越し下さったからでございます」
「わしもようやった・・・」
「殿下のお子でございます」
「そうよのぉ、わしの子に間違いはない。わっはっは」
「そうですとも、殿下の子に間違いはございません」
6. 秀吉の死
(茶々のひとりごと)
これで私の復讐は終わった。
母方の織田家の血と、父方の浅井家の血の入ったこの子を関白にするのが私ののぞみじゃ。
秀吉の血は一滴も入っていないこの子、秀頼をこの日のもとの天下人にさせるのだ。
そのためには私は何でもする。秀吉の甥の秀次を亡き者としたのも私が仕組んだこと。
私は秀頼のためならば何でもするのじゃ。
7. 関ケ原の結末
(茶々のひとりごと)
三成の不甲斐ないこと。
だが、徳川の世になったわけではない。
天下はまだ豊臣家にある。家康はただの臣下じゃ。
その豊臣家を正式に継いでいるのは私の子、秀頼なのじゃ。
そのことは誰にも邪魔はさせない。
豊臣恩顧の大名は関ケ原の勝者の中に沢山いる。
清正、正則などがおれば豊臣家は安泰じゃ。徳川なにするものぞ。
8. 寧々のひとりごと
関ケ原の結果で、もう徳川家の天下は決まったのです。
大阪城のあのお人は、戦国のならいを忘れてしまったのか。
もう豊臣家の天下ではないことをわかっていない。
徳川家に従わなければ、遠くないうちにほろぼされてしまうでしょう。
あの人は秀吉に復讐したかった。その望みは叶えられました。
秀頼殿はまったく秀吉には似ていません。
秀吉も秀頼には自分の血が入っていないことを承知だったと思います。
でもそのほうが豊臣家の存続には都合が良かったのです。
あのお人はやりすぎました。おごりがあったのです。
あのお人も三成も、常にだれかと戦い続けていましたから。
人を許すことが無かった。戦いそして勝利しても闘い続けるといつかは負けてしまうのです。
1615年 大阪夏の陣、茶々とその子秀頼は、大阪城にて自害した。




