表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国の宰相 〜昭和の豪腕政治家が蘇る〜  作者: けんけん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/20

第12話 黒岩からの電話

深夜一時。


桐島美咲は、まだパソコンの前にいた。


通信インフラの記事を書き続けて、もう六時間が経つ。目が痛い。肩が凝る。それでもペンが止まらなかった。


国民の携帯電話の基地局が、外資に買われようとしている。


書けば書くほど、怒りが出てくる。


「美咲」


剛造が背後から声をかけた。コーヒーを一杯、テーブルに置いた。


「ありがとうございます」


「無理をするな。明日も続きがある」


「でも御堂は一週間で契約を完了させようとしている。こっちも急がないと」


「焦って書いた記事は、読者に伝わらん」剛造は言った。「お前の文章は、落ち着いているときが一番いい」


美咲は少し手を止めた。


「田島さん、私の文章を読んでるんですか」


「全部読んどる」


「感想、聞いたことなかったですけど」


「言わなかっただけだ」


美咲は剛造を見た。「今、言ってもらえますか」


剛造は少し間を置いた。


「難しいことを簡単に書ける。五郎のそういうところが、お前に受け継がれている」


美咲は目を細めた。


「……それ、最高の褒め言葉です」


「そうか」


「ありがとうございます」


剛造は何も言わずに、自分の椅子に戻った。


美咲はコーヒーを一口飲み、また書き始めた。


-----


午前二時。


剛造のスマホが鳴った。


画面に「黒岩」と表示されている。


この時間の電話は、普通ではない。


剛造はすぐに出た。


「黒岩」


「先生」黒岩の声は、低く抑えられていた。「御堂が動いた」


「何をした」


「通信インフラの契約を、明後日に前倒しした。一週間じゃなく、明後日だ」


剛造の目が細くなった。


「情報が漏れたか」


「おそらく。先生の周辺に、御堂の目が入っています」


美咲が剛造の顔を見た。剛造は小さく手を振り、静かにしろと示した。


「他には」


「林田誠司が、今夜呼び出されています。財務省の上司から。おそらく御堂の差し金です」


「林田が潰される前に動かないといかんな」


「そうです。それと、先生」黒岩は少し間を置いた。「もう一つ、悪い知らせがあります」


「言え」


「中村誠と鈴木隼に、スキャンダルが仕掛けられています。明日の朝刊に出る予定だ」


剛造は黙った。


「内容は」


「中村は政治資金の不正流用。鈴木は女性問題。どちらも御堂が作った話です」


「証拠は」


「でっち上げです。しかし報道されれば、しばらく動けなくなる」


剛造はしばらく考えた。


「わかった。ありがとう、黒岩」


「先生、急いでください。御堂は本気です」


「ああ」


電話を切った。


美咲は剛造を見た。「聞こえました。全部」


「そうか」


「どうしますか」


剛造は立ち上がり、コートを羽織った。


「今夜動く」


「今夜? どこへ」


「中村と鈴木に連絡しろ。今すぐ会う。場所はどこでもいい」


美咲はスマホを取り出した。「わかりました。でも田島さん、もう一つ聞かせてください」


「なんだ」


「御堂の目が周辺に入っているということは……誰かが情報を流しているということですよね」


剛造は美咲を見た。


「そうだ」


「誰だと思いますか」


剛造は少し間を置いた。


「わからん。だが候補は絞れる」


「誰ですか」


「今は言えん」


美咲は剛造の目を見た。


その目が、何かを知っている目だった。


「……わかりました。急ぎます」


-----


深夜三時。


中村誠と鈴木隼は、新宿のビジネスホテルの一室に集まった。


眠そうな顔をしていたが、剛造の顔を見た瞬間、目が覚めた。


「明日の朝刊に、二人のスキャンダルが出る」剛造は言った。「でっち上げだ」


中村の顔が蒼ざめた。「でっち上げって……政治資金の不正流用なんて、身に覚えがない」


「わかっとる。だから今夜、手を打つ」


「どんな手ですか」と鈴木が言った。


「先手を打つ。お前たちが自分で記者会見を開く。朝刊が出る前に、だ」


二人は顔を見合わせた。


「でも深夜に記者会見なんて」


「できる」剛造は美咲を見た。


美咲は頷き、スマホを取り出した。「記者仲間に連絡します。深夜でも来てくれる人間がいます」


「朝刊が出る前、つまり夜明け前に会見を開く。でっち上げの証拠があれば、それを出す。なければ、堂々と否定するだけでいい」


「堂々と否定するだけで大丈夫ですか」と中村は言った。


「顔と声で伝わるものがある」剛造は言った。「嘘をついていない人間の顔は、見ればわかる。国民はそれをわかっとる」


中村はしばらく剛造を見た。


「田島さん、あなたはなぜそこまでしてくれるんですか」


「お前たちが必要だからだ」


「なぜ私たちが必要なんですか」


剛造は静かに言った。


「俺には、時間がない」


中村は息をのんだ。


「俺がいなくなった後も、この国を動かし続ける人間が要る。それがお前たちだ」


「田島さん、時間がないというのは」


「今は詳しく話せん」剛造は言った。「ただ、一つだけ覚えておけ。俺がいなくなっても、やることは変わらん。この国を立て直す。それだけだ」


中村と鈴木は、顔を見合わせた。


その目に、最初に会ったときとは違う光があった。


「……わかりました」と中村は言った。「田島さんの言う通りにします」


「俺の言う通りにするな」剛造は言った。「お前たちが正しいと思うことをしろ。俺はそのサポートをするだけだ」


-----


夜明け前、午前五時。


新宿のホテルの小会議室に、記者が七人集まった。


美咲が呼んだ仲間たちだ。眠そうな顔をしているが、目は覚めている。


中村誠が、マイクの前に立った。


「本日の朝刊に、私に関する虚偽の報道が出ることを事前に把握しました。記録を全て開示した上で、これはでっち上げであることを申し上げます」


淡々とした声だった。


しかし、その目が揺れていなかった。


記者たちは次々と質問した。中村は一つ一つ、丁寧に答えた。証拠書類を出し、数字を示し、時系列を説明した。


剛造は部屋の隅で、その様子を見ていた。


美咲が隣に来た。「どうですか」


「及第点だ」剛造は言った。「もう少し声に力があればよかった。しかし目がよかった。嘘をついていない目だ」


「国民に伝わりますかね」


「伝わる」


鈴木の会見も終わった。こちらは中村より少し力強かった。元教師らしく、言葉の選び方が上手かった。


夜が明け始めていた。


-----


朝刊が出た。


予定通り、中村と鈴木のスキャンダルが一面に近い位置に掲載されていた。


しかし同時に、ネットでは深夜の記者会見の映像が広まっていた。


「でっち上げを事前に知って、朝刊より先に会見を開いた議員」


SNSが、騒ぎ始めた。


「これ、むしろ御堂側がやばくないか」

「先手を打って会見するって、清廉潔白じゃないとできない」

「誰がこの戦略を考えたんだ」


美咲はスマホの画面を見て、剛造に見せた。


剛造はそれを見て、小さく頷いた。


「先手を打った。これでしばらくは動ける」


「でも御堂は次の手を打ってきますよね」


「当たり前だ」剛造は言った。「しかし今日一日、時間が稼げた。通信インフラの契約を止める手を打つ」


「どうやって止めるんですか」


「藤堂を使う。藤堂にはまだ、一つだけ使っていない人脈がある」


「どんな人脈ですか」


剛造は立ち上がり、コートを羽織った。


「総務省だ」


-----


その朝、御堂慎一郎は報告を受けた。


「中村と鈴木が、朝刊より先に会見を開きました」


御堂の表情は変わらなかった。


しかし目の奥に、何かが揺れた。


「……先手を打たれたか」


「ネットで拡散しています。スキャンダルの効果が、半減以下になっています」


「そうか」


「申し訳ありません。情報の漏洩があったようで」


御堂はしばらく沈黙した。


「情報を流したのは、誰だ」


「調査中です」


「急げ」御堂は言った。「田島の周辺に、こちらの人間がいる。それが逆に利用された可能性がある」


側近は首をかしげた。「逆に、とは」


御堂は答えなかった。


窓の外を見た。


夜明けの東京。


田島剛造。あなたは、こちらの情報漏洩者を知っていて、逆に利用した。


御堂は静かに目を細めた。


「昭和の怪物め」


その声に、怒りではなく――かすかな、敬意が混じっていた。


「しかし」御堂は続けた。「通信インフラの契約は、今日中に完了させろ。総務省に圧力をかけろ。藤堂義雄が動く前に」


「藤堂が、ですか。なぜ藤堂を」


御堂は答えなかった。


ただ、静かに言った。


「田島剛造の次の一手は、藤堂を通じた総務省だ。田島はいつも、人を通じて動く。それが昭和からの癖だ」


側近は驚いた顔をした。「なぜそこまで」


「田島剛造の政治スタイルは、研究し尽くしている」御堂は静かに言った。「三十年かけて」


-----


読んでいただきありがとうございます!

ブックマーク・感想お待ちしています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ