第61話
一日目を終え、フリーの時間にみんなから電話があった。まず初めは大木君。試合の内容や実際に観戦して思った感想などと一緒に無事に今週のノルマを達成できた報告を受けた。試合で勝った余韻で浮かれずに仕事をきっちりこなす大木君には流石だと思った。
続いては向井さん。なぜ僕の連絡先を知っているんだ?と思ったんだけど、大木君と一緒に観戦していたらしく、その際に連絡先を交換して僕の連絡先も教えてもらったみたいだ。そういえば勉強会をやる仲なのに連絡先すら交換してなかったことに申し訳なさを感じた。
そして薫からも連絡があった。全国大会までサポートをしてきて初戦で敗退にならなかったことにホッとしていた感じだった。1ヵ月近く食事管理に体のケアまでしてすぐ終わりましたってなったら何のための1ヵ月だったんだって思っても仕方ないよね。薫も無事報われてよかったと思えた。
最後はなんと今日の主役である瞬。僕がちゃんとテレビを見ていたか確認してきた。そんなことで電話してこないで試合に集中してもらいたいよ。どうやら瞬としては僕にも現地へ応援に来てほしかったらしい。テレビで活躍してた人?ってくらいいつもの瞬だった。
二日目の朝。昨日と同様にパブリックビューイング会場へ直行。今日の試合が終わると一度会場は片付けることになっている。というのも3回戦は火曜日に行われるから1日空白ができてしまう。その間に機材の故障や盗難などトラブルがあったら困るということみたいだ。
時間までイスの位置の調整や清掃、音響のテストなどを行い、本日も9時半から始まる試合を見に人が集まり始める。昨日よりも人が増え、会場に入りきらなかった人達にはお引き取りいただくことになった。
昨日の勝利でさらに注目度がアップしたという証だね。今日の対戦相手はかつてベスト8まで進出したことのある岐阜県代表の高校。インターハイ常連校とは言えないけど、それなりに歴史と実績のある学校のようだ。
試合としては前半20分に差し掛かるところで1点を許してしまった。会場内は途端にお通夜状態に。重苦しい雰囲気の中、後半すぐに1点を取り返し、会場内にどよめきが起き、先ほどまでの雰囲気とは打って変わって逆転コールが巻き起こった。
そしてその逆転弾を決めたのは瞬。もう何この主人公!瞬を主人公にした漫画が一本描けるよ!というくらいに話ができ過ぎている。そのまま守り切って三回戦進出を決めた。
すぐに撤去をしたいところだったんだけど、余韻に浸っていたい人もいて片付けには思った以上に時間がかかった。これなら逆に片付けずに現状維持のままの方がよかったんじゃないの?って思ったけど、従わないといけないから言われた通り片付けを行った。
この日はこの片付けだけで1日は終了。これで一人工分いただけるんだけど正直ちょっとしか活動していないのが申し訳なかった。
「はっはっはっ!そういう得をする日があってもいい。それに今日も濃山高校が勝ったんだ。それだけで気分がいいからな」
と師匠は上機嫌。もちろん皆さんも今日の勝利に大喜びしていた。
「なあ、俺達も働きたい。どうやったらいいか教えてくれ」
4人のホームレスが僕達の前に現れた。確か重野さん、宮本さん、岩波さん、寺西さんだったはず。
「まずは土日に仕事を3週間入る。そうすればスマホが手に入る。スマホが手に入れば月曜と火曜を除く毎日現場に入れるようになる。日給は1万円。どうだろうか?」
「日給1万円!?そ、それは本当なのか!?」
「ああ、俺達は今毎日お金をもらっているから余った分は銀行に貯金しているくらいだ。おかげ様で衣食には困らなくなった。それとここの動物たちに自分達でエサもやれるようになったしな」
「わ、分かった!それなら他の奴らもきっと喜んで働きたいってなるはずだ!」
「どうやら他の人も加わって人数が増えそうですね」
「だから言ったろう?この夏休みで一気に人が増えると。これで速水君の売上はさらに上がったな。ということで今日の分で今月の締めとしてくれ。前受金は164万円だからそれを差し引いて請求しておいてくれ」
えっ!?前受金が164万円!?自分で支払ってなかったからそんなにかかっていたとは思ってもいなかった。ダメだ!しっかりお金の計算はしておかないと!
家に帰り請求金額を計算したところ、前受金を引いて税込で188万8千2百5十円……。異次元過ぎる……。これ、本当に僕がもらっていいの!?
今月の請求金額を父さんに告げたら絶句していた。母さんも100万円を超える金額に驚きを隠せなかったみたいだ。
これで大木君と鉄平さんにお給料を渡して家に入れるお金とパソコン代を支払っても150万円ほどは残る。税金対策も必要だけど、まずは前受金を出してもらわなくてもいい状況を作らないと。いつまでも師匠にお世話になりっぱなしじゃダメだからね。
これに加えて新しい人が増えるのか……。ここからさらに仕事が増えればとんでもない金額になることだけは分かる。この状況は師匠が、ホームレスの皆さんが、大木君と鉄平さんが支えてくれているからこそ実現できている。それを忘れないようにしっかりと気を引き締めないと!
月曜日。今日は全国大会の試合もなく、学校の先生もいなくて事務所が使用できないから家で一人作業。午前中は僕はノルマをこなし、鉄平さんはホームレスの皆さんと合わせて仕事を入れずに休んだので原付免許の勉強をしていたみたいだ。
「今日は静かに作業ができてよかったです。仕事が捗りましたよ」
「僕は来週の水曜に原付免許の試験があるからね。こうやって時間が取れるとかなり助かるよ。君と仕事を始めてから全然時間がないからね」
「そうなんですよね。だから僕も勉強する時間が短いのでもう少し勉強する時間を増やしたいところです」
「僕も筑波大という目標を掲げた以上はしっかり勉強をしないといけないというのに、勉強会ができないとなると歯がゆいね」
「筋肉にしか興味なかった鉄平さんがそんなことを言う日が来るとは思いませんでしたよ」
そんな会話を電話でしながら昼休みを過ごして午後、鉄平さんはフィットネスジムへ向かい、僕は師匠の指示された場所へ向かった。




