第60話
次の日から綿貫さんが向井さんにカメラについて教えることになった。やっぱり本格的に写真をやるなら一眼レフカメラが必要だということだったので、銀行に残っているお金でカメラを購入することにした。
家に帰ると原付が納車されていた。これで僕も色んなところへ移動できる。それとやっぱり見た目がカッコイイね!早速通学できるように学校に申請をした。
木曜日の夜、父さんがフィットネス教室のトレーナー補助の仕事を取ってきてくれた。色んなプログラムのあるフィットネス教室みたいで各トレーナーの開く教室のサポートをするという仕事だ。
金曜から早速鉄平さんには現場に出てもらうようにジムでトレーニングをしている時に伝えたら大喜びしてた。
ちなみにだけど、金曜は大変な日になる。というのも全国大会が土曜日から始まる。前日入りするためサッカー部はもちろんのことながら、応援組も移動となる。鉄平さんは生徒会を抜けたから応援には行かずに現場に入ってくれる。
大木君と向井さんは移動があるから金曜から試合が終わるまではホテルで滞在。大木君は応援以外の時間はノルマ達成の作業をやってくれることになっている。やっぱりノートパソコンがあるとどこでも作業ができるからいいよね。
そういうことで金曜日、僕と鉄平さんはみんながバスに乗って学校を出て行くのを見送った。この日はうちの高校だけじゃなく、色んな人がお見送りをしに学校へやってきていた。それだけ期待されているっていうことだ。
全国大会出場が決まってから約1ヵ月。この1ヵ月間は本当にサッカー部のことが話題に上がらなかった日はない。当然だけど瞬のことは嫌でも話題に上がる。そしてサッカーとは関係ない色恋事なんかも話題に上がっていた。
「狭山さん、中西君の食事管理とかやってるみたいだよ。もう愛する夫を支える献身的な奥さんみたいだよね」
「一緒に下校している姿を見ると、しっくり来るというかお似合いだなって思うんだよな」
薫が瞬のサポートに徹していたから余計にそういう声を幾度となく聞いた。僕にとってこの全国大会というのは三人の関係にけじめをつけるという意味合いの方が強い。やっと長い間縛られてきた「呪い」から解き放たれる。
瞬と薫が結ばれた時、僕は何を思うんだろうか?ちゃんと笑顔で祝福してあげられるんだろうか?鉄平さんと黒羽先輩の関係を聞いた時に再び帯びた傷の熱はまだ収まってくれていない。それはなぜなんだろうか?
師匠に今の自分がいるのは選択した結果だと言われ、本当の失恋を味わってこの恋から離れるという選択をしたというのに、まだ僕の中に未練が残っているから。
なるべく考えずにやってきたつもりだったけど、冷めない熱があるというのは認めないといけない。だからこの熱を冷ますにはきっぱりと三人の関係を断つしかないと思うんだ。
自分で切れないなら切ってもらう。そうなれば否が応でも諦めがつく。こんな情けない僕から脱却して仕事に突き進むんだ!
※
土曜日。僕と鉄平さん、ホームレスの皆さんは早朝から二人一組を組まされ、濃山の各地に飛び散った。
それはパブリックビューイングの会場を作るため。サッカー部の応援をみんなで応援できる場所を濃山の各地で作ることになったんだ。
大体30~50名くらいの人が座れるようなスペースにイスを並べ、それをしている最中に超大型のモニターが搬入される。すごい大きい!モニターが設置されるとすぐさま音響設備を整えていく。
今日は試合が9時半から開始される。そのためそれぞれ専門のスタッフがついてるといった感じだ。そうなると僕らはイス並べ専門のスタッフってこと?
時間との勝負なので急いで設置をし、8時半には終了。このまま試合に勝てば明日も試合があるから会場は維持したまま。負けた場合は即撤去という流れになっている。
「こうやって速水君と仕事をするようになってこんな場所で地元の人達と一緒に応援することになるとは思ってもみなかったよ」
僕と組んだ根本さんがしみじみしながら言った。僕もこんな仕事をするような人間になるなんて思ってもいなかったなあ。
9時になり人が集まり始めた。僕達の会場は濃山駅から近い公民館というのもあって立ち見の人も入れてかなりの人の数になった。みんなで感情を共有したいというのがあるんだろうね。こういうパブリックビューイングで応援するなんて初めてだからドキドキしてきた。
初戦の相手は高知県代表の高校。濃山高校と同じで今回が全国初出場ということでどういう試合展開がされるのか楽しみだ。
一瞬、瞬の姿が映された。画面越しに見る瞬はいつもの幼馴染の瞬じゃなかった。トップアスリートと呼んでも遜色ないくらいに風格があった。
9時半、キックオフとなり試合が始まった。席に座っている人達にはスティックバルーンが渡されており、それをみんなが拍手するように叩く。会場にも熱気が籠り始め、濃山高校にボールが渡る度に皆が息を飲みながらゴールが割られる瞬間を今か今かと待ち望む。
僕の手にも力が入っていた。純粋に勝負に勝ってほしいと願っている自分がいて安堵した。どういう感情で試合を見ればいいか分からなかったけど、単純に今の僕は濃山高校を応援する一生徒なんだ。
試合開始から6分、最初にゴールを決めたのは主人公、瞬だった。ゴールが決まった瞬間、抑えていた感情が爆発したかのように割れんばかりの声、拍手、スティックバルーンの音が響き渡った。僕は根本さんとハイタッチを交わすくらいに感情が昂った。
すごい!全国大会という最高の舞台で勝負を決める瞬。こんなの、普通の人間にはできっこない。やっぱり持っている男だよ瞬は。
その後、数回点を取られそうなピンチを迎えるも何とか守り切り、最終的には3-0で濃山高校が圧勝。明日の試合への進出が決定した。
会場はそのままの状態で維持することが決まったため、僕と根本さんは一度集落に戻って集合することになった。
試合は午前中で終わったので、午後からは車で農家に向かい、ピーマンの収穫の手伝いをして一日を終えた。




