第57話
夏休み初日!土曜日の今日は現場作業だ。早速河川敷の集落に集まって大木君と鉄平さんを紹介した。
「大木です。今日から本格的に土日のお手伝いをさせていただきます。よろしくお願いします」
「岸田です。下の名前が鉄平なので、名前呼びをしていただきたいです。よろしくお願いします」
「ここの集落のリーダーをやってる宮田だ。と同時にみんなに仕事を振ってるカンジエスの社長をやっている。大木君と鉄平君、よろしく頼むよ!」
二人とも背筋を伸ばして一礼をする。師匠は只者じゃないから誰でも畏れ多いってなるよね。
「それでは今日の仕事の振り分けだが、青木さん達定期清掃組四人は駅に向かってくれ。今日は定期清掃が2件入っている。それで濃山高校生三人はイベント設営でこれから速水君のお父さんの車で現場に向かってくれ。残りは私と一緒にもう一つのイベント設営に行く。そこで機材搬入以外のことも覚えてもらうつもりだ」
父さんはお手伝いの期間は終わっているのに土日の巡回と移動は引き続きやってくれることになった。お小遣いがもらえるのが嬉しいみたいだ。
「じゃあ僕らも行こうか。父さんよろしく」
「ああ、任せておけ!」
僕達三人は濃山から少し離れた地区で行われる盆踊りの会場へやってきた。
「おお!速水君じゃないか!だいぶ見違えたな!」
現場には音響に詳しい一人親方の土屋さんがいた。約1ヵ月ぶりくらいだ。
「まさかここでお会いできるとは思いませんでしたよ。今日はよろしくお願いします」
そうすると現場リーダーの瀬川さんがやってきた。
「おはようございます!エイチエーサービスの速水、大木、岸田です!今日はよろしくお願いします!」
「おはようございます。今日は盆踊りの舞台の設営と音響を担当していただきます。撤去に関しては来週の月曜日なので速水さん達は大丈夫です」
「分かりました。それにしても瀬川さん、何か嬉しそうですね。いいことでもあったんですか?」
「そりゃそうですよ!社長が現場にカムバックですよ!これほど頼もしいことはないです!」
「そうですね、イベント関連の仕事は今日からですもんね」
水曜日からホームレスの皆さんを師匠が率いて仕事をしていたんだけど、農作業ばっかりだったんだよね。
「それじゃあ早速やっちゃいましょう!」
現場の広場の周りにはすでに的屋が準備を始めている。的屋も今がシーズンだもんね。気合い入ってるなあ。
僕達はまず櫓作りから始めた。これがないと盆踊りって感じにはならないからね。鉄平さんは当然ながらパワーがあるから重い物も顔色変えずに持っているから流石だと思ったけど、大木君もそこそこにパワーがあるみたいで問題なかったのはすごいと思った。
僕は鉄平さんのトレーニングのおかげでそこまで足を引っ張ることはなくなったけど、まだパワーが足りない。まだまだ課題だ。
櫓は案外すんなりと完成することができた。ここからは音響だ。櫓の横にテントを設置して音響関連の機器を準備していく。
「土屋さん、今日の音響ははどういうスタイルで行くんですか?」
「屋外でこういう広場になると電源を取るところが少ない。だからラーメンフェスの時と同じようにパワードミキサーを使う。それでスピーカーだが、櫓の四方と広場の周囲に4カ所設置するからケーブルの配線には気をつけてくれ。盆踊りだから足に引っかかってケガとかになったらいけないからぶら下げてる提灯のロープに這わせるような感じで頼む」
櫓からの頂点から4方に伸ばしてロープが張られ、そこに提灯がつけられる。そのロープと一緒にケーブルと提灯を灯す用の配線を3本セットにして広場の端の木の枝に結ぶ。
木の下にスピーカーを置いて設置は完了。高いところにあるから脚立を動かしながらの作業に加えて影がないから直射日光を浴びて暑い暑い。
「速水、こういう仕事は楽しいな!会場が少しずつでき上がっていくつれてワクワクしてくる!」
「力仕事だけじゃなくても楽しいもんだね。それに高いところで作業をするのにも普段使わない筋肉を使うからそれなりにやりがいはあるよ」
無事セッティング終わり、あとはテスト。テストも特に問題なく終わってあとは土屋さんが現場に残って運営をやってくれる。
「では設営組のみなさんはこれで終了です!撤去に参加される方は月曜日になりますのでよろしくお願いします!」
瀬川さんの締めの挨拶で僕らの作業は終了。父さんが迎えに来て集落まで移動すると、もうすでに皆さんが揃っていた。
「まさか最後になるとは思いませんでした。遅くなってすみません」
「いやいや、大丈夫だよ。速水少年が遅いというより、宮田さんの腕が凄かったというしかないよ」
「あー、師匠がいたらそりゃ早いですよね」
「俺達も宮田さんに色々教わりながら覚えることができたから仕事の幅が広がったよ」
皆さんが力仕事以外のことを覚えてくれれば仕事の幅が広がる。そうすれば今やらせてもらっている仕事以外のことも任されるようになると思う。
「それじゃ今日の日当をお渡ししますね」
皆さんに一人ずつ「お疲れさまでした」と日当を渡しながら歩く。もちろん大木君と鉄平さんもだ。
「やっぱり速水君からもらえる日当は格別だよ」
「師匠からもらうのは嬉しくないんですか?」
「そりゃ嬉しいよ。でもやっぱり俺達のリーダーは速水君だから」
何か分からないけど、胸にジーンとくるものが込み上げてくる。
「そう言っていただけるとありがたいです。それでスマホはどうですか?慣れましたか?」
「なかなか難しいけど動画とかも見られるようになったから手に入れられてよかったよ」
「俺はキャッシュレス決済をやってみた。すごい便利だよ。本当に」
皆さん思い思いにスマホについて語り、生活必需品だという認識をもったみたい。維持するためにも仕事をして稼がなきゃと思ってくれるのならモチベーションアップにもなるね。
「そういえば師匠。師匠のお知り合いにプロのカメラマンとかいないでしょうか?」
「ほう、そっち方面にも興味が出始めたのかい?」
「はい、8月解禁となった時にエイチエーサービスのホームページとSNSを始めようかと計画しているんですが、写真のクオリティを良くしたいと思っているんです」
「なるほど、それなら私の知り合いのプロカメラマンの娘さんが今濃山高校に通っているからその子から習うといい。まだ見習いだが十分にテクニックは持っている」
案外身近にいるもんだね。師匠からその人に連絡しておいてもらえることになった。




