第52話
後半のトークショーも無事終わり、沖田さんに付き纏われるんじゃないかとビクビクしていたけど、ルミノートの他のメンバーに連れていかれたので甲田さんと撤去をして解散となった。
集落に着くとすでに師匠たちは現場が終わっていたみたいで僕の帰りを待っていたようだ。皆さんに日当を渡し、師匠と明日の現場の話になった。
「明日は私も含めて全員でナスの収穫を手伝いに行く。私が学生の頃からお世話になっている方なんだが、かなりの頑固者でね。私が最初に話をつけないと私以外の者には手伝わせようとしないんだ。だから最初は挨拶も兼ねて一緒に行く。車の手配は私がしているから速水君はお父さんと一緒に現場まで来てくれればいい」
「承知しました!初の農作業なので楽しみです!よろしくお願いします!」
師匠たちと別れ、父さんと車で家までの移動中、父さんはずっと師匠のことを褒めちぎっていた。
「明日になれば分かると思うが宮田社長の凄さが分かるぞ!父さんはカンジエスに転職したいと思ってしまったぞ!」
熱く語る父さんにただただ頷くことしかできなかった。実際に見ていないし、師匠の凄さはすで分かっているからね。まあでもそれほど感動したということなんだろう。
僕がランニングにジムを終えて夕食になっても父さんの熱は冷めなかった。母さんも適当に相槌を打っていて猫四匹も父さんを無視してひたすら自分達のエサにがっついていた。
日曜日、僕と父さんは師匠に指示された場所へ向かい、農家の今泉さんを紹介された。僕とホームレスの方々は一人ずつ自己紹介をしていき、今後お手伝いをさせていただく旨を師匠が伝え、了承をいただいた。
畑に移動すると大量のナスの苗が植えられていて、かなりの数のナスが実っていた。
「ここの畑ともう一つ畑があって合わせて2,000㎡。もうこの年だから働き手がいてくれるのはありがたい。こんなに人数がいれば今日中に収穫は全部終わると思う」
「さあ!今日我々は12名いるからこれを6名ずつに分けて作業を行う。ナスは傷物になると売れないから丁寧に扱わないといけない。だから山積みは厳禁だ。重さでナスが潰れてしまうからな。収穫していいかどうかは最初は分からないだろうから私か今泉さんに聞きながらやれば問題ない。慣れてしまえば自分で判断して収穫ができるはずだ。それじゃあ始めよう!」
師匠の声はとても澄んでいて聞き取りやすく、それでいて檄として奮い立たせる力強さがあった。カッコいい。純粋にそう思った。父さんが昨日熱くなっていた理由が分かった。
最初は収穫していいかどうか分からなくて聞いて時間がかかってしまったけど慣れたらどんどんスピードが上がってお昼前には収穫が終わった。
「よし!次は選別作業と袋詰め、梱包作業だ。傷ついていたりすると商品としては出せなくなる。目視で選別して3本1セットで袋詰め。袋詰めしたものをパッケージして出荷用の箱に梱包までが一連の流れだ。バケツリレーの要領で次に渡していく形でやっていこう!」
僕は立花さんが選別したナスを受け取って袋詰めして花本さんに渡す役を担当した。一体何本ぐらい袋詰めしたんだろう?ってくらいの量を袋詰めした。全ての作業が終わったのは16時過ぎだった。
「いやー、まさか1日で全部終わらせることができるとは思わなんだ!この調子だと久しぶりに20回越えの収穫ができそうだわい。やはり宮田君だな!」
「いえいえ、私はまだまだ未熟者ですから。今後もご指導とご鞭撻をお願いいたします」
師匠が自分を未熟者っていうんだから僕なんて赤ちゃんみたいなもんだ。死ぬまで成長し続けないといけないんだなと師匠の動きを見て痛感した。
選別で商品として出せなかったナスは僕達がタダでもらうことができた。これは母さんが喜ぶぞ!
作業が終わり、集落で日当を渡し終えてから師匠から大事な話ということで皆さんも集まって話を聞くことになった。
「これで今いるメンバー全員がスマホを手に入れられる状態になった。明後日、銀行の口座開設とスマホの契約をしに行くからそのつもりで。そしてこれからの流れになるが毎週月曜日と火曜日は休養日とする。だから今週の水曜日から本格的に平日も作業に入ってもらう。今日やってもらって分かったと思うが、これから夏シーズンの作物の収穫が本格化する。平日は収穫とイベント設営がメインになると思ってくれ。そこで問題になってくるのが移動の問題になるんだが、カンジエスで使っていない車を2台使えるように手配する予定だ。5人ずつに分かれて動いてもらおうと思っている。カンジエスでは今後使う予定がないのでエイチエーサービスの所有ということで譲渡するつもりだ。車に関しては後ほど速水君とお父さんに説明する。以上、何か質問はあるかい?」
「平日は速水君にはやることがあるんだろ?そうなるとお給料はどうなるんだい?」
「わざわざ速水君が手渡しをするためにここまで来るのは手間がかかるだろうから、私が代行して手渡しをするつもりだ。ただし!最終的には銀行振込での支払いに移行するつもりだ。ちゃんと貯金をしてお給料も毎月決まった日に振り込まれる。ちょっとずつ元の生活に戻していこう。そうすればここを卒業できる」
皆さんの質問も終わり、僕と父さんが車の説明を受けることになった。
「速水君は未成年ですので、車の名義は所有者はお父さん、使用者は速水君の名義でお願いしたいと思っています。また、自動車保険もお父さん名義で契約をしてもらい、支払いは速水君の口座からの引き落とし、記名被保険者名はお父さんで契約していただきたいのですがよろしいでしょうか?」
「知り合いの保険会社に頼んで未成年の個人事業主の自動車保険の加入について聞いてみます。おそらく宮田社長の仰っていることは可能だと思います」
車を所有するっていうのはややこしいんだね。僕が未成年だから余計に複雑になってしまっている。そこに自動車保険というまた勉強しないと分からないことも出てきた。
「譲渡に関してはこちらで書類を作成しますので、後日手続きをお願いしたいと思います。よろしくお願いします」
手続きは難しそうだけど、これらをクリアすればホームレスの皆さんが平日でも動けるようになる。師匠からの説明を受けて僕と父さんは家路へと着いた。




