第5話
ホームレスの集落で思いがけない出会いがあった。僕は子猫三匹を連れて家に帰った。
「ただいまー」
「おかえりー。ってその猫どうしたの!?」
僕が持っているダンボールから顔を覗かせている猫を見て母さんが驚いた。
「帰りに捨てられてるのを見て拾ってきちゃった。猫の面倒は僕が自分のお金で見るから飼ってもいいかな?」
「私は別に構わないけど、その前にミケに許可取った方がいいんじゃない?」
ミケは僕が小学校の時に拾ってきた猫のことだ。確かにミケには許可が必要かも。
「ニャー」
ミケが僕の足に体を擦りながら寄ってきた。この帰ってきた時に体を擦ってくるのがたまらないんだよね。
「ミケ、この子猫3匹、仲間に入れてやってくれないかな?」
「ニャー」
鳴きながら子猫たちを順番に嗅いでいくミケ。子猫たちは何も言わずにじっとしている。この子達はなかなか賢いかもしれない。帰りの道中でも鳴くことなく静かにしていた。
「ニャー」
いいよ、と言ったような気がする。そのままソファへぴょんと飛び乗って寛ぎ始めた。
「いいよってことでいいよね?」
「私もそう感じたからそうじゃない?お父さんが帰ってきたら一度話をしましょうね」
「うん、分かった。とりあえず僕の部屋に連れて行くね」
一度僕の部屋に連れて行き、お腹が空いているだろうから牛乳をお皿に入れて飲ませてあげた。お腹いっぱいになったのかそのまま三匹とも眠ってしまった。
知らないところに来て緊張してただろうからね。今はゆっくり休んだ方がいい。
子猫たちが眠っている間に僕は風呂に入った。風呂から出ると父さんが帰ってきていて母さんから猫の話を聞いたみたいだ。
「晃弘、子猫を三匹とは思い切ったな!しかも自分のお金で面倒を見ると言い出すなんてな。父さんは感心したぞ!」
そこから両親と話し合って、病院に一度連れて行って検査をしてもらうことになった。それとワクチンなどを受けてミケと一緒に生活しても大丈夫なように手筈を整えることになった。
僕はそのついでにホームレスの集落でのできごとについても話をした。宮田さんのことは父さんも知っていて、かなり有名な社長さんらしい。
その人の元でなら任せられるってことで僕が本格的にお金を稼ぐまでは両親が病院代やエサ代などのお金を出してくれることになった。もちろん借金という形だけどね。
色々と話が進んで決まったことで僕はかなり高揚していた。こんなワクワクしたような気分は随分と久しぶりだ。多分小学校時代に幼馴染三人で恋とかを知らないでワイワイやってた時以来だと思う。
子猫たちはタマ、ツキ、モンと名付けた。今日は水曜日。土曜日からゴールデンウィークが始まる。連休があって助かったよ。僕も面倒が見られる時間があるし、宮田さんにこれからのことを話する時間も取れる。
何か忘れている気がしたけど、何だったかな?まあその内思い出すだろうしいいか。
※
朝起きるとタマ達の姿がなかった。気になってリビングに行くと母さんがミケの移動用のキャリーバッグに三匹を入れていた。
「おはよう晃弘、まだ病気とかあってミケが感染したら危険だからこうやって隔離してるのよ。今日はこのまま病院に連れて行くからね」
母さんは僕が寝ている間に病院へ連れて行く準備を始めていた。完全にデレてるよね。堕ちるのが早すぎるよ。
僕は一旦部屋に戻って制服に着替えて朝食を摂った。その途中で父さんもやってきて3匹の様子を見てニヤついていた。
猫四匹に囲まれて過ごすなんてかなり贅沢だなあ、なんて思いながら家を出た。家を出ると偶々だったと思う。隣の家から薫がちょうど出てきたところだった。
「お、おはよう晃弘。それにしても偶然だね。どう?久しぶりに一緒に行かない?」
「おはよう薫。ああ、いいよ。随分久しぶりだね」
「えっ!?一緒に登校してくれるの!?やったぁ!」
薫との登校なんていつぶりだろう?僕が瞬のことを考えてなるべく一緒にならないように時間を調整してたんだよね。
あれ?そうだ、僕は瞬のことを考えて薫との登校を避けていたんだった。なんで快諾してしまったんだろう?
薫が僕の左隣に来て並んで歩く。僕が右、薫が真ん中、瞬が左という形で並んで学校に通ってた癖が残ってるんだろうね。
「晃弘、何か機嫌良いじゃん。何かあったの?」
「そういう薫も機嫌良さそうじゃない。何かあった?」
「そ、そう?ていうか私の方から聞いたんだから先に答えてよ!」
「ごめんごめん。実は昨日帰りに猫を三匹拾ったんだよ。それで家で飼うことになったんだ」
「えぇーっ!三匹も拾ったの!?ちゃんと面倒見れるの?」
「ミケもいるから大丈夫だと思うよ。あとは僕次第ってところかな?」
「晃弘次第ってどういうこと?」
おっと、これ以上は言っちゃだめだ。宮田さんからは自分でお金を稼ぐことは家族以外には言ってはならないって約束したんだった。
「それはちょっと言えないんだよ」
「えー、そこまで言ったら気になるじゃん。教えてよ?」
「守秘義務ってやつなんだ。だから言えないんだ。ごめんね」
「そっか……。でも久しぶりに晃弘が元気なとこ見れた気がする。今日はいいことがありそう!」
あとは学校のどうでもいいことを話しながら登校した。好きな人と登校するとこんな楽しいんだね。
でも不思議だ。これまで瞬と薫のことを考えて後ろめたい気持ちがあったのに今はそういう気持ちが全くない。なんでそうなったのか自分でも分からない。晴れ晴れとした気分でとても気持ちがいい。
「速水!なんで昨日ログインしなかったんだ?俺はずっと待ってたんだぞ!」
ああ!そうだ!昨日夜に一緒にゲームする約束をすっかり忘れていた!何か忘れてるって感じたのはこれだったのか。
「ごめんごめん。実は昨日帰りに猫を拾ってさ。それの面倒でいっぱいになってたんだよ」
「なんだ、そうだったのか。それならそれでメッセージくれればよかったじゃないか!」
「確かにそうだね。ごめんよ。子猫でさ、めちゃくちゃカワイイんだよ。ほら」
大木君に三匹の写真を見せながらホームルームが始まるまで談笑しながら時間を過ごした。