第49話
勤怠システムが完成したことで余裕ができた僕は学校の全国大会への盛り上がりの凄さに驚いた。
学校の生徒の半数以上が応援団として参加することになっていて、テニスの試合があると言っていた向井さんですら応援に行くと昼休みの勉強会で言っていた。
そうなると濃山四天王はどうだろうと探りを入れてみると、沖田さんもアイドル活動を休んで全国大会を見に行くらしい。黒羽先輩は生徒会だから言わずもがな。そして薫も瞬のサポートを頼まれているから当然のことのように応援に行くとのこと。
さらに濃山の女帝、宗像先輩までも応援に行くというのだから驚きだ。
校内でもその話題しか聞こえてこなくて
「中西君のために応援うちわ作らなきゃ!」
「サッカー部のために横断幕を作ったぞ!」
「今からマネージャーとして入部しようかしら」
などもう数えたらキリがない。全国大会を通じて学校が一丸となっているのを肌でひしひしと感じた。
そして金曜日。僕は昼休みの勉強に事務所へ向かおうとしたところで
「1年3組の速水晃弘君。職員室の緒方先生のところまで来てください」
という放送を受けたので大木君に先に事務所に行ってもらい、僕は職員室へ行き、緒方先生の元を訪れた。
「放送で呼び出してすまない。今使っている空き教室だが、夏休みも使用するのかどうか確認をしたくてね。どうする予定だ?」
「夏休み中も使わせてもらいたいです。使っても問題はありませんか?」
「ああ、問題はないんだが、全国大会の応援に先生達も行くからその期間中は使えない。それは理解してくれ」
「それは問題ありません。大丈夫です」
大木君も向井さんも応援に行くんだ。一人で事務所で作業をするなら自分の部屋で作業している方がいい。それにその時間をカンジエスでの作業に充てた方がシステム部の皆さんも助かる。
緒方先生の用も終わり、教室へ入ると薫がこの前街で見かけたメンバーと楽しそうに昼食していたのが目に入った。あれから薫にも友達が増えたんだな。いいことじゃないか。自分の席の勉強道具を取るために薫たちのグループを横切った時だった。
「好きな人のことを見てるとさ、誰よりも応援したくなっちゃうよね!」
薫のその一言に他のメンバーもうんうんと頷いている。そりゃそうだよね。好きな人が全国大会へ出場したんだ。そしてそのサポートを頼まれて間近で見てるんだ。どれだけ全国大会に懸けているかその情熱が伝わるんだろう。誰よりも応援したくなるよね。
教室を見渡したけど瞬の姿は見当たらなかった。瞬がここにいればこの愛のセリフを聞けたのに。そうすれば全国大会前にさらにモチベーションを上げることができたのに。
いなかったことは仕方ないとしても瞬は薫への告白はどうするんだろうか?全国大会はいいきっかけだと思うんだけどね。
『全国大会、お前のためだけに頑張る!だから俺の想い、見届けてくれ!』
とかそういうことが言えると思うんだけどなあ。それとも全国大会の後にするつもりなのかな?
あっ、もしかしたらもうすでに告白しているかもしれないのか。サポートをお願いしてる訳だから、そこで伝えることもできるんだ。
僕が瞬の邪魔をするのは悪いから全国大会が終わってから瞬に直接聞いてみよう。これでまだ告白することができないとか言い出したら僕みたいなモブが言うのもなんだけど、流石に「ヘタレ」って言ってしまうかもしれない。
全国大会でもバッチリ決めて、薫への告白もバッチリ決めてもらいたい。もう決まってるかもしれないけど。
僕は勉強道具を持って事務所へ向かった。
「遅くなってごめんね。向井さんは分からないところがあったら聞いてね」
「うん。じゃあ早速。これさっきまで解いてたんだけどやっぱり分かんなくて」
「OK!じゃあ一緒にやっていこう」
向井さんと一緒に問題を解いて5分。大木君がこの前の模試のことについて話し始めた。
「そういえば来週の月曜に模試の結果が渡されるみたいだぞ。いい結果だといいな!」
「あー、あのテスト難しすぎ!私は大学には行けないのがよく分かった!」
「僕も難しかったよ。多分E判定なのは確実だと思う。だから何とかしていい勉強法を考えないといけないって思ってる」
「この勉強会はどちらかというとこれまでの振り返りとその内容の深堀だからな。もっと実力をつけるなら俺達よりも成績のいい人達に来てもらう必要があるかもな」
そうなると先取りで勉強している薫とか2年生以上の先輩をメンバーに入れた方がいいかもしれないね。もうすぐ8月に入るから僕の仕事のことも公表できるし、この勉強会を充実したものにするために声掛けしてみようか。
「成績がいいかどうかは分からないけど、一人知り合いの先輩がいるから一度誘ってみるよ。そうすれば2年生の勉強範囲を先取りで学ぶことができるよ」
「おお!それはいい!でもそれは8月からだろ?」
「もちろん。あっ、向井さんには言っておくけど、今僕が話せない事情については8月から解禁されるから8月になったら僕がやってることを教えるね」
「うん……。事情を教えてくれるのはいいことだけど、この3人でやってるのが楽しかったからなあ……。勉強会に人数が増えるのはちょっと抵抗あるかな」
「向井に教える担当は速水がするからこれまでと変わらないよ。ただ俺達がよりレベルアップをするにはどうしても人が必要なんだ」
「速水君は東大を目指すために勉強やってるんだもんね。私みたいに最低限できればいい訳じゃないから速水君達の方針には従うよ」
「ありがとう。ちゃんと向井さんが勉強できるように頑張るからさ」
「だ、だから前も言ったけど、お礼を言うのは私だから!」
またぷいとそっぽを向く向井さん。そんな照れるところあったかな?
勉強会が終わり、午後の授業も恙なく過ぎていき、帰りのホームルームとなった。
「みんなが全国大会に夢中なのは分かりますが夏休み明けに体育祭があります。そしてすぐに文化祭となります。そのため、本日この後実行委員は打ち合わせを行いますので生徒会室に集合してください」
そうだった。全国大会のことで完全に忘れていた。この時期の打ち合わせはモチベーション上がらないだろうなあ。そう思いながらカンジエスへと向かった。




