第46話
日曜日。昨日とは打って変わってかなりの雨。この雨の中で決勝戦をやっていたらプレーする方も応援する方もたまったもんじゃなかっただろうね。
僕達は今日定期清掃が2現場、イベント設営のための機材搬入が1現場となっている。イベント設営は今回は野外だからこの雨の中の作業は大変だろう。
「おはよう父さん。今日は雨だからちゃんとカッパがない人がいたら渡しておいてね」
「おはよう晃弘。大丈夫だ。昨日の間に人数分は確保してある」
天気予報を見るようになったから今日が雨での外仕事があることを想定してカッパを買っておいてもらっている。
「定期清掃は屋内なのと、昨日の晃弘の様子を見ている限りだと水分補給くらいで立ち寄るだけでいいと思うんだ。だからイベント設営の方で大変そうだったらサポートできるように待機しておく」
「うん、分かった。じゃあ母さんいってきます」
「2人とも気をつけてね。いってらっしゃい」
集落に着いた僕らは早速人数を割り振った。今日は定時清掃が2現場だから青木さんをリーダーに鴻巣さんと船木さん、根本さんのチーム。僕がリーダーで立花さん、清水さん、川崎さんのチームで駅へと向かった。
広瀬さんと一条さん、花本さんには申し訳ないけど外での仕事を頑張ってもらおう。三人は父さんの車に乗って会場へと向かった。
※
何事も問題なく各現場の業務が終了した。集落に集まって皆さんに日当を渡したところで広瀬さんたち初期メンバーの三人の様子がいつもと違ったのを感じた。
「速水少年、俺たちはついにスマホが手に入れられる状態になったぞ!」
「本当ですか!?金銭的に大丈夫なんですか?」
「ああ!宮田さんが格安でスマホを手に入れられるように動いてくれたんだ。1万円ちょっとで本体が手に入る。それと格安SIM?というのも月4,000円くらいで済むらしいんだ」
「じゃあ本格的に僕も勤怠システムを作らないといけないですね!」
「晃弘、お前そんなものまで作れるようになったのか!?」
「ついこの間までカンジエスのシステム部で勤怠システムの開発を手伝ってたんだよ。そのノウハウを使って作り上げるつもり」
「お父さん、速水君は肉体労働だけじゃなく、パソコンをフルに活用できるように教育しているんです。夜は動画編集を中心に仕事をお願いしてるんですよ」
「どこまで踏み込んで聞いていいか分からなかったから敢えて聞かなかったが、自分の息子ながらとんでもない化け物になりつつあるな」
息子を化け物扱いしないでよ……。なんでみんなは僕のことを異常だとか化け物なんて言うんだろう?
「速水君、普通の高校生ならもうギブアップしているか、続けられたとしてもまだまだ実戦に入ることすらできないんだ。前から私は思っている以上に成長していると言っているだろう?謙虚でいることは大事だが、自分を過小評価するのはよくない。今の自分の現在地をちゃんと見られる目を持たないとな」
自分の現在地か……。自分と比較できる基準がないからよく分からないんだよな。勉強や運動なら学校で比較はできるけど、仕事に関してはどうやって比較したらいいんだろう?
「うーん。自分の位置なんてどうやったら分かるんですか?僕はまだ技術を身につけたと言うのは定期清掃ぐらいですよ。それでもまだ熟達したとは言い切れませんし、もっとイベントの音響とかそういうところの技術も身につけないと一人前だとは思わないです」
「それが速水少年のいいところなんだ。だからそれでいいんだよ」
「なるほど、あくまで自分自身の力量で評価をするという訳か。お父さん、速水君は我々を超えますよ」
「私はもう収入では抜かれてますから。宮田社長を超えたらそれこそ化け物ですよ!」
とにかくみんながステップアップしている。僕も本腰を入れて勤怠システムを作るとしようか。
師匠達と別れて家に到着。すぐにランニングとジムをこなして食事と風呂を済ませてフリーの時間に。
僕が夏休みに入るまでにやらないといけないのが原付の免許取得と勤怠システムの完成だ。
そこに動画編集などのノルマが入ってくる。これが一番ネックだ。大木君は今回2本仕上げることができた。でもまだ完璧じゃないし、全部をお任せすることはできない。
明日、試験が終わったら口座開設をして師匠に諸々相談してみよう。
僕はノルマの終わっているこの時間に一気に勤怠システムの構築を進めた。
次の日月曜日。今日は試験があるというのに臨時集会があることが放送で流れた。どう考えてもサッカー部のことだよね。
案の定、サッカー部が全国大会に進んだことの報告と、賞状やトロフィーの授与式が行われた。瞬が賞状を受け取った時なんかは黄色い声援が飛び交った。
全国大会は今月の28日から8月4日までの一週間で行われるみたいで完全に夏休みに入ってから行われるのでみんな応援に行こうと思えば行ける。
ただ開催場所が愛知県というのが厳しい。僕達は関東だからバスを使って応援に行くことになるし、大会に勝ち進めば宿泊費が嵩む。
師匠の言った通り、お金が絡んでくるから大変だ。自分で仕事をするようになるとそういう面ばかりを見るようになっている。
例えば通学中に工事をしているのを見たら何人工でどのくらいの規模の金額の工事なのかとか、工場を見ればこの工場にどのくらいの費用がかかったのかとかそういう観点で見てしまうようになったというわけ。
今の僕には到底敵わない企業の凄さというものが分かるようになった。自社ビルを持っているとか、工場を持っているだけでも凄いんだ。僕の小ささがよく分かる。だから余計に師匠や父さん達が成長が凄いとか異常とか言ってくるのが分からないんだ。もっとすごい会社は一杯あるんだから。
そんなことを考えている間に臨時集会は終了。すぐに実力テストが始まって本日は3教科を行った。正直なところ、勉強は朝に1時間、お昼休みに約40分、フリーの時間に手が空いたら勉強と時間はかけていたから十分に通用すると思っていた。
流石に実力テスト。そう簡単な問題じゃなかった。どちらかというとできなかった問題の方が多かった。多分今のままの勉強方法だったら東大へは行けない。そう痛感させられた。




