第40話
集落で日当を渡し、家に帰ってルーティンをこなし、フリーになった時間で僕は色々と整理をすることにした。
まずは天気予報を見る習慣をつける。そのために週間天気の見れるウジェットをスマホに入れた。こうやって視覚でパッと見れるようにしておくと習慣づくと思う。
次に熱中症対策。いざとなったら空調服も用意しておいた方がいい。そういうことで空調服について検索をした。どうやら動きやすさを考えるとベストタイプのものの方がいいみたいだ。これは実際に試着してみた方がいいだろうからホームセンターとか行って確かめた方がいいかもしれない。
それと塩分タブレットのような補給できるものも用意しておいた方がいいね。それとジャグ。今日は一つでなんとか乗り切れたけど、これから人数が増えればジャグも増やさないといけない。そうなると荷物が嵩張ってしまう。なんとか解決できる方法を考えないと。
あとは事故。今日の作業中にも危ない!って思う場面を何度も見かけた。事故になっても大丈夫なように何か対策をしないと。検索をすると労働保険に加入しないといけないことが分かった。加入義務があるのでこれに関してはすぐに手続きをしておかないといけないね。
最後に筋トレ。とにかく僕は筋力がない。速読術が終わってからジムに通うのを待ってはいられない。それを考えるとこのフリーの時間にジムに通うしかないか……。うん、そうしよう!
整理が終わり、解決すべき課題が見えてきた。そう考えると視野を広げて物事をみないといけないということがよく分かった。労災保険とか全然知らなかったこともある。
あっ、そういえばサッカーの結果はどうなったんだろう?準決勝の試合結果は2-1で決勝進出……。す、すごい!ネットを検索すると『濃山高校創立以来の快挙!』なんて記事まで上がっている。これは明日教室が大変なことになってるのは間違いない。
翌朝、僕は事務所で大木君と打ち合わせをした。先週のミスを防止するためだ。
「まずは僕と大木君のノルマを共有しておこう。今週のノルマは資料作成が2件、動画編集が6件、画像編集が3件となっている。大木君はまだ動画編集が十分にマスターできていない。だからこの時間を使って分からないところを解決していくようにしよう」
「分かった。先週は本当にすまなかった。今後こうならないように分からないことや達成できそうになかった時はすぐに報告するようにする」
「うん、できないことは恥じじゃないからね。僕らがやっているのは仕事。納期を守れないことの方が問題だからね。それを忘れちゃいけないよ。じゃあ早速動画編集をやっていこうか」
「それで俺なりに反省をしたんだ。動画編集を一人でできるようになるまではゲームを控えようと思っている」
「ええっ!ゲーム三昧だった大木君がゲームを封印するの!?」
「ああ、先週みたいなことはしたくない。それに折半だというのに俺は全く活躍できていない。正直簡単だろうと舐めていた部分はある。だからゲームの時間、リモートでいいから俺に指導してくれないか?」
「そこまで本気なんだね。いいよ、しっかり指導するよ」
「ありがとう。それじゃあ時間までみっちり教えてくれ!」
夏休みまであと少し。夏休みに入れば午前中にしっかり動画編集以外のことも教えられる。早く夏休みにならないかなあ。
時間になったので教室へ行くと3組の外の廊下まで人がごった返していた。これじゃ教室に入れないよ……。
「こらー!お前らいい加減に教室に行けー!どんどんひどくなっているな……」
緒方先生だけじゃなくて他のクラスの担任の先生も声を荒げながら生徒たちを自分の教室へ誘導する。これ、休み時間にやられたらたまったもんじゃないよ。
「おはようございます。まずは皆さんもご存じだとは思いますが、サッカー部が決勝戦まで進出しました!拍手!」
いつもより大きい拍手の音でみんなが祝福をする。瞬は照れながら手を挙げている。
「今週の土曜日に決勝戦が行われます。学校外からもOBの先輩や保護者の方、地域の方も応援に来られます。応援に行く人は濃山高校の生徒として恥じないよう行動してくださいね」
高校だけに留まらず、ちょっとした地域の人達も巻き込んだお祭りみたいな感じになっているんだ……。それだけ全国大会に出るっていうのはすごいことなんだな……。
「そして、来週の月曜日と火曜日ですが、先日話した模試を行います。中間試験のような部活動が休みになるようなことはありません。試験なので中間試験と同じような時間割になります」
おっ!ということは月曜も火曜も早く学校が終わるってことか!それならそのタイミングで銀行口座の開設と労働保険の手続き、空調服の下見もできるね!サボらなくて済む!
休み時間、瞬は姿を消した。先週は僕らのところで息を潜めていたけど、休み時間になった瞬間に3組に瞬がいるいない関係なく人が押し寄せたんだ。もう僕らのところにいても無理だと分かっていたんだろう。
これ、全国大会出場することになったら大会までこんなことが続くんだろうか?正直ものすごい迷惑だよ……。全然気が休まらなかった。3組のみんなも同じだと思う。
その次の休み時間以降はごった返すようなことはなくなったからよかったけど瞬達サッカー部の人達は大変だろうな……。
昼休みに入って僕は大木君と事務所へ向かった。よく考えたらクラスに人が押し寄せてくるならここに避難してもいいんだ!
「やっほー!今日もよろしくー!」
向井さんがご機嫌良く事務所に入ってきた。瞬が活躍してるんだからそりゃ嬉しいだろうね。
「向井は今日はいつもより嬉しそうだな。やはりサッカー部関連か?」
「えっ?私そんなに嬉しそうにしてた?」
「うん、僕もかなり嬉しそうに見えるよ」
「そ、そっか。あんまり浮かれるのもよくないよね……」
「別にいいんじゃないか?学校中がお祭りムードみたいな感じになってるのは今だけだろうし。浮かれるのも仕方ないさ」
「あっ、そ、そうだよね。浮かれるのも仕方ないよねー!あははははっ!」
なんか変な感じだな。今度は無理に浮かれてる感がする。変な向井さんだ。昼休み中、テンションのおかしい変な向井さんがずっと続いていた。一体どうしたんだろう?




