第34話
「では、これから9月に行われる体育祭、10月に行われる文化祭の実行委員会を選出したいと思います」
昼休みが終わってから授業がなくなりホームルームが始まった。緒方先生のいう話では、夏休み明けにすぐ体育祭が行われる。そうなると体育祭のあとに文化祭のことを進めるというのは非常に難しいためこの時期に一緒に実行委員を決めるみたいだ。
「なお、両方の実行委員共に夏休みにも定期的に学校に来てもらい、生徒会と協力して準備に取りかかってもらいます。特に文化祭は濃山に住んでいる一般の方々も来られます。ですので予算編成や寄附金の徴収などかなり複雑になります」
うわあ、それだと体育祭実行委員より文化祭実行委員の方が大変だね。
「では、席を動いてもらって構いませんので、話し合ってみてください」
緒方先生がそう言うとグループで集まり話し合いが始まった。
「速水、実行委員会はどうするんだ?」
「僕は両方ともパスだね。夏休みから本格的に仕事が始まるのに準備で時間をとられるのはもったいない」
「そうだよな。俺もエイチエーサービスの社員だからパスしよう」
その後、体育祭実行委員はすぐに決まった。体育祭はあくまで自分達だけで行う行事だし、運動部の人が部活終わりに準備を手伝えばいいという感じだったので、運動部所属の人が実行委員をやってくれることになった。
でも問題なのは文化祭実行委員の方だった。誰もやりたがろうとしない。だから推薦ということで指名されても拒否される。そういうことを繰り返して全然話が進まない。
「では、もう一度席を動いてもらっても構いません。皆さんで話し合ってください」
再びバラけて話し合いが始まる。と言っても僕と大木君はやる気がないから雑談になるんだけどね。
「先生―!実行委員は男子一名、女子一名じゃなくてもいいんですか?」
「体育祭は男女で一名ずつという決まりですが、文化祭に関してはそういう決まりはありません」
それなら先に言ってくれたらいいのに。多分これで友達同士でやろうという感じで決まるんじゃないかな。
「はい、ということで文化祭実行委員は狭山さんと高木さんに決定しましたー!」
パチパチパチと拍手が起こる。それにしても薫が実行委員になるなんて思ってもみなかった。薫の性格からしてそういうのに積極的に参加しようとするタイプじゃないからね。多分高木さんが誘ったんだと思う。友達ができたっていうのは大きいな。
「では、これでホームルームを終了します。このあと早速ですが、実行委員会の人は生徒会室に集合してください。最初の顔合わせを行います。チャイムが鳴ったらこのまま放課後となります。それまでは雑談でもしておいてください」
※
放課後となり、僕は師匠のところへやってきた。
「師匠、学校が終わりました」
「ああっ!うー!」
ボキボキと音を鳴らしながら起き上がる師匠。
「お疲れ様、速水君。何か言いたそうな顔をしているな。何かあったのかい?」
「夏休みのスケジュールについて相談がしたいんです」
「ほう、自分なりにスケジュールを組んだんだな。どういう予定になっているのか見せてもらおうか」
僕は夏休みのスケジュールの書かれた資料を師匠に手渡した。僕の予定では平日は午前中は事務所で作業、お昼休みに1時間の勉強会、午後からカンジエスで仕事、終わってから習い事と夜までのルーティン。土日は現場作業という感じだ。
「なるほど、習い事があるから平日は現場作業に入れないのか。それを考慮すればいい感じに予定が組まれているじゃないか。そうなるとやはり広瀬さん達に平日現場に入ってもらう方向で進めるしかないな」
「宮田さん、速水少年が夏休みに入る前にスマホは手に入れられるんですか?」
「広瀬さん、それは問題ないよ。安い端末に格安スマホのプランに入ればそこまでお金はかからない。でもだからって無駄遣いはしたらダメだからな」
今日も師匠の講義には広瀬さんと鴻巣さん、根本さんがいる。皆さんお給料で服を買ったんだろう。作業着姿ではない私服で話を聞いている。
「それで、だ。実は少し大変なことが起きている」
「何かトラブルでも発生したんですか!?」
「違う違う。いい意味で大変なことが起きているんだ。広瀬さん達の姿を見て他のホームレスの人達も働きたいという意志を持ち始めたんだ。今の時点で四名。広瀬さん達を入れて七名になる。速水君が七名の仕事を管理しないといけなくなる」
七人の管理か……。まだ6月だというのにさらに四人増えるとなると夏休みに入ってさらに人が増えたら僕に捌き切れるだろうか?
「やってみます!それで師匠に聞きたいんですけど、どうして僕がお金を稼ぐことを周りに知られたらダメなんですか?」
「理由は三つ。一つ目は君は人を巻き込む魅力をもっているから。今みたいにさらに四人が君と働きたいと言っている。君には人を惹きつける何かを持っているんだ。二つ目はまずは自分で現場に出て仕事を覚えてもらいたいから。人に頼ってイスに踏ん反り返るような経営者になってほしくはないんだ。そして三つ目は君の周りの人達をあっと言わせたいからだ。そして速水君が周りに圧倒的な差を見せつけて誰にも真似ができないようにするんだ」
「そういうことだったんですね。僕が何をやっているか知りたがっている人もいるのでそれが忍びなくて」
「大丈夫。8月に入ってからは公表してもいい。君は私の予想を遥かに超えて成長している。正直なところ、ここまでとは思ってもいなかった。だからおそらく8月に入るころには一人前の経営者となっているだろう」
自分では全くそうは思えないんだよね。まだまだカンジエスのシステム部の人の役に立てているとは思えないし、この前肉体労働をやって筋力不足を痛感したし、勉強も全然東大に行けるレベルに達していないのは分かるし。
「その内自分の実力が分かるからそれまでは頑張って突き進みなさい。それじゃこれから新しい人達を呼んでくるから話をしてもらって次回の現場作業には八名で入ってもらうように手配をしておくから」
そう言って紹介されたのは、清水さん、一条さん、青木さん、立花さんの四名。広瀬さん達とも仲が良いみたいで喧嘩になったりはしなさそうで安心した。




