第29話
僕は今週のパソコンでやる仕事のノルマは大木君と合わせてだと思っていたけど違ったことにショックを受けている。
「あのノルマは僕一人分だったんですね……」
「はい、あれくらい簡単にこなしていただかないとまだまだ一人前とは言えませんよ」
「承知しました。僕はまだまだですね!精進します!」
こうやって能力主義で実力がないと痛感すればするほどもっと力をつけないと!って気合いが入る。
「話を戻してしまって申し訳ないのですが、一名新たに僕と一緒にやることが決まりました。今日から早速動画編集作業を学んでもらいました」
「どのくらいで一人で任せられるようになりそうですか?」
「今週いただいたノルマの種類ですと、自分でも勉強すると言っていたので、3週間あれば覚えてもらえると思います。プログラミングは僕も今勉強中ですから教えるのはできないかと思います」
「了解しました。作業をしながら覚えていただくスタンスでいきましょう。それでは速水さんには今日からシステム部で本格的に我々と仕事をしていくことになります。まずは先週受注した案件のシステム設計と構築をお手伝いください」
乃木さんと一緒に今回受注した勤怠管理システムの開発をやることになった。こういうシステムって似たようなもので作るのかな?それとも一から新しく作るのかな?
「乃木さん、この勤怠システムって今回初めての開発ですか?初めてじゃないなら以前作ったものを参考に作るんですか?」
「お、いいところに気がつくじゃん。最近は勤怠システムもスマホで簡単にできたりとか社員証をかざしてとか色々あるよね。でも大元は勤務時間を計算できたらいいからそういう大元は使えるなら使うよ。でも契約によっては一から作らないといけないのもある。今回の勤怠システムは以前に開発したものを使えるからそれを利用する。ただそれじゃ晃弘のスキルアップにはつながらないからそれを見ながら一から作ろうと考えているんだ」
ちゃんと僕のことを考えて教えてくれるから本当にシステム部の人達は優しいしすごい人ばかりだ。
「承知しました。しっかりものにできるように頑張ります!」
※
やっぱりシステム部の仕事が一番きつい……。覚えないといけない知識量も多いし、トライアンドエラーを何度も繰り返すしで疲労の蓄積がハンパない。たった2時間程度なのにこの疲れ。
習い事を終わらせ、家に帰って早速ランニングに入る。こういう精神的に来る疲労は体を動かすとだいぶスッキリする。
「明日から梅雨入りか……」
夕食時、父さんがそう呟いた。そうか、もうそういう時期だよね。今年はいつもより遅い気がする。
「晃弘、あなた雨の日もランニングするの?」
「そうだね。雨だからって休んでいい理由にはならないだろうからやるしかないよね」
「じゃあカッパ買っておくわね。ただ風邪をひかないように気をつけるんだよ」
「うん、分かった。ありがとう」
ミケを含む四匹が横並びに窓から外を眺めていた。雨が降るかもって心配でもしてるのかな?
これから雨の日が続くとなると瞬は大変だろうね。サッカーは多少の雨でもやるみたいだから体調管理が大事になってくるはずだ。
そういうところを薫がサポートできれば瞬も薫の気持ちに気づいて告白できるように自信がつくと思うんだけどなあ。
夕食を終え、風呂から上がって早速画像編集と資料作成作業に取りかかった。今日もやっぱりツキ目当てに20時ごろに薫がやってきた。
「やっほー晃弘!今日もパソコンとにらめっこ?」
「まあね。それより明日から梅雨入りみたいだけど瞬の体調とか見てあげたりしないの?」
「あれ?瞬から何も聞いてないの?今お昼は私の作ったお弁当を食べてるから食事管理はきっちりできてると思うんだけど」
ええっ!そうだったんだ……。全然知らなかった。
「さすがに部活終わりは私も家庭教師があるのと試合に集中したいだろうから自分でなんとかしてもらう必要があるけど、ちゃんとサポートできるところはしてあげてるよ」
「そうだったんだね。ていうか薫って料理できるの?」
「失礼ね!ちゃんと料理くらいできますー!友達の心ちゃんには『私の分も作って!』って頼まれるくらいなんだからね!」
中学で疎遠になる前はからっきし料理なんてできなかったのにいつのまにできるようになったんだろう?いや、それよりも
「ごめん、心ちゃんって誰?」
「心ちゃん分からないの?球技大会で一緒にプレーした高木心ちゃん!」
「あー、高木さんか。薫にもついに友達と呼べる人ができたんだね」
「まあね。心ちゃんは私を対等に扱ってくれるからやっとそういう人ができてよかったよ」
薫は中学の時は「孤高の高嶺の花」と呼ばれていてよく一人でいたんだ。薫のことを憧れて上辺だけ友達だという取り巻き達がいたんだけど、薫はそういう連中が嫌で距離を取っていたんだ。
結局中学時代には薫のことを対等に見て本当の意味での友達として付き合おうとした人は現れなかったみたい。
「これでもう孤高なんて言葉はつくことはないだろうからよかったじゃない」
「私からすれば晃弘と瞬が一緒にいてくれたらそんなこと言われなかったんだから!」
「でも僕らは異性じゃない。同性で友達ができたっていうのが大きいと思うよ。それにしても高木さんからの評価も高いっていうお弁当はさぞかし美味しんだろうね」
「何?もしかして私の作ったお弁当食べたいの?」
「いやいや、そんなことは思っていないよ。瞬の分で手一杯だろうし、僕は昼休みは別のところで食べてるしね」
「別に晃弘の分も作ってあげるよ?一人分量が増えるだけで手間はかからないから。そういえばずっと昼休みに晃弘を見てないと思ったら別の場所で食べてたんだね。大木君と食べてるんでしょ?だったら心ちゃんも入れて四人で食べようよ?」
うーん、それだと事務所の存在がバレるし、同じ四天王の向井さんがいるから敵側についたと見做されるのも困るしなあ。
「申し訳ないんだけど、今昼休みは色々あって薫とは一緒に行動はできないんだよ」
「ねえ、晃弘は今一体何をしようとしているの?今の話もそうだし、この時間にパソコンとにらめっこしてるのも。言えないって前は言ってたけど、とても気になる」
急にキッと目を鋭くして睨みつけるような感じで薫は僕に追及をしてきた。




