第2話
薫が勝ちヒロイン確定。それはどういうことか。
簡単な話だ。瞬の想い人が薫だっていうこと。単純明快。何も悩む必要がない。
中学三年の秋、そろそろ進路をどうするか決めないといけない頃のことだった。僕は濃山高校を受けることを既に決めていてあとは合格に向けて勉強していた。
僕は家に帰るとゲームをやってしまうから放課後は図書室で、学校が終わったら近所の公民館のフリースペースで閉館時間まで勉強をしていたんだけど、その勉強中に瞬がやってきた。
ずいぶん久しぶりに二人になったから勉強をやめて結構な時間話し込んだんだ。僕と瞬は仲が悪い訳じゃない。僕が薫に失恋した苦しさと学校での立ち位置を考えて二人と距離をとっていただけ。
「いやー、こうやって久しぶりに話せて楽しいわ。それでさ、こっからは真剣な話なんだけど聞いてくれるか?」
「ああ、もちろんいいよ。どんな話?」
「俺、実はさ、薫のことが好きなんだ。それであいつと同じ高校に行きたいと思ってる」
「へえー、そうなんだ」
平静を装っていたけど、内心ではショックを受けていた。
薫は瞬が好きだということは分かっていたけど、瞬がどうなのかは分からなかった。もし瞬が薫以外の人が好きなら僕にもワンチャンあるかもしれない、とほんの一握りしかない可能性に賭けていた部分があったんだ。
でもそれが両想いだってことが分かり、僕の可能性が完全に潰えてしまった。それがショックだった。
「それでさ、薫の進学する高校を知りたいから晃弘、探り入れてくれない?」
「いいよ、分かった。でもそれくらい自分で聞いたらいいじゃん?」
「聞いたら俺が薫を追いかけたとか好きだってバレるかもしれないだろ」
「バレたところで大丈夫なんだけどな」
「ん?何か言った?」
「いや、何も言ってないよ。とにかく僕の方で聞くから分かったら連絡するよ」
こういうやりとりがあったんだ。だから薫が負けヒロインになることは絶対にない。
それでも僕の口から薫に「瞬が好きなのは薫だよ」と言うのは違うと思っているから薫は知らない。
※
「あー、あの三人に勝てる気がしない。絶対負けヒロインだよー」
今日も夜、僕の部屋にやってきた薫はそんなことを言ってきた。
そもそもヒロインって言ってる時点で自分が物語の重要人物だって認識してるんだから自信持ったらいいのにって思ってる。
「そういうことを言ってたら本当になるから言わない方がいいよ。それで今日は何か行動できたのかい?」
「まあ話はできたかな」
「それならいいじゃない。僕の知る限りでは今日三人が話しかけたりはなかったから一歩リードできたんじゃない?」
「ホント!?ならよかったー。安心できたから帰るね!」
「うん、おやすみ」
嬉しそうな顔で僕の部屋を去って行く薫。その顔を僕に向けてくれたらなって思うけど、そうならないから苦しい。
高校に入って疎遠になっていた二人と再び接点を持つことになった。でも今までのような関係じゃない。
瞬は薫のことを相談し、薫は瞬のことを相談する。その間に立つのが僕。二人の恋愛の行く末を見守る立場になってしまった。
本当はもうこんな茶番に付き合う必要なんてない。だってもうお互い両想いなんだから。あとは早くどっちかが告白すればいいだけ。
でも僕は瞬のことが嫌いじゃないし、今回のことでまた仲良くやれるのは嬉しい。薫に対しても同じ。好きな人と一緒にいられるようになった。恋愛が成就するまでは一緒にいさせてほしいと思うくらい、僕はまだ薫が好きなんだ。
そういうわけで僕は今の立場が続けばいいのにと思ってしまっている情けない奴なんだ。
※
「では、ゴールデンウィーク明けの球技大会の参加競技を決めたいと思います」
4月後半、高校生活に慣れ始めたというところ。ホームルームでゴールデンウィークが終わってからすぐに行われる球技大会について体育委員の瞬が教壇の前に立って説明を始めた。
濃山高校ではスポーツ系のイベントとして春に球技大会、秋に体育祭が行われる。特に球技大会は始まったばかりのクラスの親睦を深めるためのイベントとして位置づけられていて、勝つことも重要だけど、みんなの仲を深めることに重きを置いている。
行われる競技は野球、サッカー、バスケの3種目。それでもって男女混合のチームとなっている。
僕と瞬と薫はたまたま同じクラスになった。この球技大会で同じ競技で参加すれば二人の仲が深まって何か進展があるかもしれない。
「ではこれから雑談タイムにするので、どの競技に参加するか話し合ってください」
ということで雑談タイムが始まり、この3週間ほどで仲良くなった者達が集まり出してどの競技に参加するか話し合いが始まった。
「おーい速水、お前何の競技に参加するつもりなんだ?」
僕のところに入学してから仲良くなった大木隆道君がやってきた。大木君は僕の趣味である有名RPGのオンラインゲームのプレイヤーということを自己紹介でしてたのでそれきっかけに仲良くなった。
「僕はバスケにしようと思ってるんだ。大木君は?」
「俺はサッカーだな。俺と一緒にサッカーしようぜ?」
大木君は高校ではゲームのために帰宅部になっているけど、中学の時はサッカー部だと言っていたからまあ当然そういう選択をするよね。
僕もできたらサッカーがいいんだけど、サッカーは瞬がいる。そうなると薫もサッカーになるだろうし、濃山四天王もおそらくサッカーを狙っていると思うんだ。
バチバチの恋愛バトルに首を突っ込みたくはない。それにもう勝負自体は決まっているんだから、瞬と薫が付き合えるような雰囲気づくりの場になればいいだけ。
「大木はサッカーなんだな。さっきそっちの三人グループがサッカーに参加したいって言ってたから大木と俺を入れて5人。あと一人でサッカーは決まりだ」
大木君と話していると瞬がやってきてサッカーはほぼ決まりそうな感じの話をしてきた。
「中西とサッカーができるなんて夢みたいだ。中西からも言ってやってくれよ。速水はバスケに参加するって言ってるんだよ」
「晃弘、頼む!俺と一緒にサッカーやってくれ!」
すると瞬が僕の耳元に近づいてきて
「多分薫がサッカーに参加すると思うんだ。だからお前がいてくれると助かる」
とコソッと瞬が耳打ちをしてきた。なるほど、僕が邪魔になると思ってたけど、僕がサポートとして入るのはありかもしれない。
「分かった。でも僕は下手くそだからあんまり期待しないでね」
「おお、やってくれるか!じゃあ大木と晃弘、よろしくな!」
僕らは早々に参加する競技が決まったからあとはゲームの話をしていた。それから10分くらい経って雑談タイムが終了。雑談タイム中にみんなの参加競技が決まったみたいで瞬の進行に従ってあっという間に参加競技については話が終わった。




