第19話
試験一週間前になった。今日から部活動は休みになる。
「なあ晃弘、薫と一緒に三人で勉強会しようぜ!」
2時間目終わりの休み時間、瞬が僕のところに来て三人での勉強を提案してきた。
「ごめん、放課後は予定がぎっちり詰まってるんだ。だから誘ってくれるのは嬉しいんだけど難しいかな」
「そうか、でも俺一人だとさ、薫を誘いづらいんだよ。それに一人で勉強なんてどうやったらいいか分かんねえしさ」
「じゃあ僕が薫に瞬が一緒に勉強したがってるって伝えようか?」
「いいのか!?マジ助かる!」
これが以前の僕ならこんな橋渡しはできなかったと思う。それができるくらいにもう僕の中では薫への恋は終わったものになっているんだと実感できる。
二人だけの勉強会。これで一気に二人の距離が縮めばいいんだけどね。
「ねえ薫。テスト勉強はどういう予定になってるの?」
「えっ?特に誰からも誘われたりしてないから一人で進めるつもりだよ。もしかして勉強教えてほしいとか?」
「うん、僕じゃないんだけど瞬が勉強教えてほしいんだってさ。お願いできる?」
「晃弘は大丈夫なの?三人でやろうよ?」
「僕は放課後は予定が入ってるから無理なんだよ。だから僕は参加できないんだ」
「予定って何時まであるの?」
「大体20時まではある感じだね。それ以降はフリーな時間になるよ」
「じゃあちょうどいいじゃん。試験勉強期間中は部活がないから家庭教師が早めに来るの。それで終わるのが20時だからそれから三人でやるのはどう?」
まさかの展開。断る理由がないんだよね。家も目の前にあるから遠いとかそういう理由で断ったりできないし。
「うーん、別にいいんだけど……」
「何!?私と勉強したくないってこと!?」
「そういうことじゃないんだよ。三人でやったら勉強どころじゃなくなる気がしてさ」
「あー、思い出話に花が咲いたりするかもしれないね。じゃあさ、20時から2時間勉強しよう。それで1時間おしゃべりタイム。23時で終了っていうのはどう?」
「試験勉強期間はさすがに大木君とゲームもしないからそれだったらいいよ」
「やったぁ!じゃあ決まりね!三人で集まるのなんてホントに久しぶり!」
急にご機嫌になった薫。ていうか話が大きく変わってしまった……。
「実はね、三人の方が助かるんだ。密室で二人きりだと何話していいか分かんなくなるからさ」
ああ、なるほど。部屋で二人きりになるのは恥ずかしいんだね。それならこの勉強会は当初通り僕が橋渡し役を務めればいい。それで二人きりになっても恥ずかしくないように少しずつ時間をかけていく分には問題はない。相思相愛なんだから。
「それに何かあっても困るじゃない?一応女の子ですから」
薫は貞操観念はしっかりしてるんだね。確かにまだそういうのは早すぎるよね。まだ恋人にもなってない状況だから。
「そういうことなら分かったよ。参加させてもらうよ」
「そうそう!晃弘がいないと始まらないんだから!」
ということで瞬に20時から勉強会をやることを伝えたら瞬も大喜び。
「マジで三人で集まるの久しぶり過ぎるだろ!テンション上がってきたあ!」
「テンションは上がってもいいけど勉強会だからね。そこは間違えちゃだめだよ」
「分かってるって!夏休みの特別講習を絶対に受けるわけにはいかねえからな!」
「何か用事でもあるの?」
「この試験が終わったら総体が始まるだろ。全国大会行けたとしても特別講習受けることになっちまったらどうしようもないからな」
そうか、運動部は総体が始まるんだ。瞬は全国大会を見据えてるのか。すごいな。
※
「そういえばさ、試験が終わったら総体が始まるって聞いたんだけど、向井さんも全国大会出場を目指すの?」
昼休みの勉強会で僕は向井さんに総体のことについて聞いてみた。
「あー、私はプロを目指しているから部活動には入ってないんだよね。プロになるにはアマチュアでポイントを稼がないとなれないんだ。インターハイの成績はポイントにならないから私には関係ないの」
「そうなんだ。テニスってプロになるのに年齢とか関係あるの?」
「アマチュアでポイント稼げば何歳からでもプロになれるけど、若くても中学生くらいからとかになるかな?私ももう少しでプロになれるんだけどね」
瞬もすごいけど、向井さんもすごいなあ。
「速水は知らないかもしれないけど、向井は今アマチュアの大会じゃ無双状態なんだよ。だからテニス界の超新星なんて言われてるんだ」
「大木君はよく知ってるね。普通私のようなアマチュアなんて見向きもされないよ?」
「俺はどのスポーツも好きだからな。色んな競技を見てるんだ。その中で期待されている選手として取り上げられてたら注目もするだろ」
「じゃあさ、瞬はどれくらい有名なの?」
「あ、それ私も気になる!」
「中西のレベルは高校1年ながらもう全国レベルだよ。この前の球技大会でも先輩相手でも臆してなかっただろ?それだけ中西は上手いんだよ。多分このままプロサッカー選手になれるんじゃないかと俺は思ってる」
「へえー、中西君はやっぱりすごいんだね!憧れちゃうなー」
「でももうすぐプロになれるって言ってるんだから向井さんの方がすごいでしょ」
「私はね、どれだけ輝いて見えるかを大切にしてるんだ。中西君は眩しすぎるくらいに輝いている。ほら普通サッカー上手かったらもっと調子に乗ったりするじゃない?でも中西君はそういうのないじゃん。純粋にサッカーが好きでやってる感じがするからとても輝いて見えるよ」
確かに瞬は僕みたいなモブでも普通に友達として接してくれている。薫に対しても好きだけど恥ずかしいっていう感情があってグイグイいくようタイプじゃない。イケメンに加えて性格もいいってなったら向井さんみたいに惚れちゃうよね。
「ちょっと脱線しちゃったから勉強モードに戻そう。もう試験まで時間がないからね」
「そうだった。速水君、ここ分からないから教えて」
「いいよ。ここの問題はこの公式を使って解くんだよ。一緒に一つずつやっていこう」
教えるために理解を深める。この楽しさがちょっとずつだけど分かってきた。将来は教師とかになるのもいいかもしれないね。




