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第13話

 そろばん教室が終わり、僕は今ランニングをしている。これまでは走るだけで精一杯だったけど、少し考える余裕はあるので、走りながら今日一日のことを振り返っていた。


 そろばんは仕組み自体はものすごい簡単だった。珠の弾き方をメインに教えてもらい、10級からスタートということで10級の問題をひたすら解いた。タイピングの時もそうだったけど、指がつりそうになった。次からは読み上げ算という先生が読み上げる数字を計算するということもやっていくらしい。


 今日のランニングを始める時間が18時ちょっと過ぎだった。19時過ぎにランニングが終わって夕食や風呂などでフリーになる時間が20時くらい。そうなると3時間ほどの時間が余る。そこに薫との勉強とゲームが入るのなら夏休みまではこのスケジュールでいけば問題はなさそうだね。


 ふと公園の外を見ると瞬と薫の二人が一緒に下校していた。部活の終了時間は同じだからああやって普段も帰ってるのか。楽しそうに会話をしながら歩いている。あんなに楽しそうな薫を僕は見たことがない。


 それを見て僕の胸はズキンと痛みを覚えた。こんなこと今までなかった。


 二人が帰っている姿を見てショックを受けている。ああそうか、僕はこれまで二人と距離をとっていたから二人が一緒になって行動しているところを直接見たことがなかった。


 多分二人が一緒に行動しているところを見るのが怖かったんだ。見てしまったらもう二人の仲を認めざるを得ない。どうやら心の奥底にある自分の思いは瞬と薫の関係を認めたくなかったんだろう。


 もう見てしまったんだ。二人のことを認めようじゃないか晃弘。僕が付け入る隙はないんだ。ランニングを続けないといけないのに足が自然と止まった。


 ハアハアという息遣いだけが聞こえてくる。


「これが本当の失恋か……」


 思わず独り言ちた。自分で言葉に出して自覚した。今この瞬間、僕は本当の意味で失恋をしたのだと。


 そのあとはただ何も考えずにランニングを続けた。


 ランニングが終わり、夕食、風呂をいつものように済ませて僕は自分の部屋のベッドで仰向けになって考え事を始めた。


 この失恋のショックをずっと引き摺るのは良くない。僕はこれから自分で稼ぎながら東大を目指さないといけない。師匠の言ったように引き摺るという選択をしなければいい。要は切替が大事だということだ。


 そうなると薫に勉強を教えてもらうというのはどうだろうか?東大を目指すための家庭教師だと割り切ることはできるんだろうか?


 そもそも瞬からすれば僕が薫と行動することに良い感情は持たないような気がする。それに恋人になったとしたら、僕だったら彼女が別の男のところに行くことを考えるだけでも嫌な気分になってしまう。それは瞬も同じはず。


 ということで予定変更だ。勉強は薫以外の誰かに教えてもらうか自分で何とか道を切り拓こう。


 そしてこの恋がいつかいい恋だったと思えるように今はひたすら自分を磨こう。


 ただ、ただ今日だけは胸に残った失恋の痛みに対して弱音を吐かせてほしい。大木君にゲームをすることを断り、ベッドの上で寝るまで静かに涙を流した。





 昨日ひたすら泣いたからなのか、かなり頭はスッキリしていた。胸の痛みはまだあるけど、これを忘れるくらいにがむしゃらに自分を磨くんだ。


 朝1時間の勉強をして学校に向かう。昨日緒方先生から許可をもらって空き教室が使えるようになったので鍵を預かった。昼休みメインでと考えていたけど、鍵があるならこの時間も空き教室で時間を過ごすことができる。


 ホームルームが始まる5分前に教室に着くようにして僕は空き教室の掃除から始めた。好きに使っていいと言われているので、レイアウトなども自由だ。


 この時間は仕事関連のことに使いたいな。そうなるとパソコンが必要になる。僕が持っているパソコンはデスクトップ型のゲーミングパソコンだから持ち運びができない。ノートパソコンを購入しよう。また両親に借金だな……。


 空き教室はしばらく使われていなかったんだろう。まだまだ掃除が必要だ。とりあえずやれるところまでやって教室へ向かった。


 教室にはすでに全員揃っていて最後に入ってきたから注目を浴びてしまった。恥ずかしかったけど、今後はそれにも慣れるようにしないとね。僕は荷物を置いて薫のところへ向かった。


「おはよう薫。勉強を見てもらう件なんだけどさ」


「おはよう晃弘。勉強の件がどうしたの?」


「自分でやれるところまでやってみようと思うんだ。だから自分から言っといて申し訳ないんだけど、勉強の件はなかったことにしてもらえる?」


「えっ!?本当に一人で大丈夫なの?」


「一度自分でやってみようと思ってる。無理だったら声をかけるかもしれない」


 薫に勉強を教えてもらうことになるのは失恋が吹っ切れてからだ。でも瞬のことも考えて薫には面倒を見てもらわないようにするつもり。


「そっか……、分かった。晃弘がそう言うのなら応援してる」


 少し寂しそうな表情をした薫。でもそれは気のせいだと思い込むことにした。


「ありがとう。それじゃ」


 昨日と同じように授業をこなし、昼休みになった。今日は明後日行われる球技大会の30分の全体練習がある。


「よし、じゃあ今日はフォーメーションを俺が決めてきたからその配置でパス回しの練習をやってみよう!」


 瞬が前回の練習でそれぞれの得意不得意から役割を考えてフォーメーションを考えてきてくれたみたい。僕はミッドフィルダーになった。


 前回は散々だった僕だけど、ゴールデンウィーク中の特訓のおかげでトラップからのパス回しが上手にできた。チームメイトも僕のプレーが変わったことに驚いていた。


「速水、お前すごい上手くなってるじゃないか!驚いたぞ!」


「大木君のような経験者に言われると嬉しいよ」


「薫から晃弘がだいぶ上手になったって聞いたからな。それでミッドフィルダーやってもらうことに決めたんだ。正解だったよ」


 瞬からも上達したことを褒めてもらえた。モブな僕はこれまで褒めてもらうようなことはあまりなかったから純粋に嬉しかった。役に立てるよう、大会も頑張ろうと思った。


 それからはいつも通りのスケジュールをこなし、ついに球技大会当日を迎えた。

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