第11話
トラップの練習を始めて2時間。僕みたいな下手くそでもトラップはそこそこできるようになった。
「うんうん!だいぶよくなったじゃん!明日はトラップしてからのパス練習だね!」
「自分でも今日は上手くなったって実感があるよ。ありがとう」
「感謝するのはこっちだよ。私は勝って四天王に私達のチームワークを見せつけてやりたいだけだから」
見せつけなくても勝ってるんだって。と言いたいけど、本人は拘ってるんだから付き合ってあげないとね。
「それでさ、特訓頑張ってるからご褒美に何かしてあげよっか?」
「ご褒美?」
「そっ!私の我儘に付き合ってくれてるんだからご褒美あげないと割に合わないでしょ?」
「ご褒美かあ。うーん、何がいいかな……」
「エッチぃのじゃなかったら何でもいいよ!」
大丈夫だよ。そんな邪な考えはない……っていうのは嘘になるけど、そんなお願いしないから。
「そうだ!薫ってさ、本当は濃山高校よりも高いレベルの学校に行こうと思えば行けてたよね?」
「えっ?そ、それはもちろんそうだよ。それがどうしたの?」
「てことは中学校の問題ってほとんど解けるって考えてもいいよね?」
「まあね。私は中学三年に入ってから家庭教師に教えてもらってるんだ。もう高校二年の内容も勉強してるの」
「おお!そんな高いレベルならさ、僕に勉強教えてくれない?」
「晃弘大丈夫?特訓のし過ぎで頭おかしくなっちゃった?」
「違う違う。正常だから。実はさ、東大を目指すことにしてさ」
「東大!?いくらなんでも無理じゃない?」
「不可能を可能にしたいんだよ。でも僕は中学の内容ですら分からないところがあるからもっと基礎的なところをやらないとって思ってるんだけど、何を勉強したらいいのか分からないんだ。だから僕に勉強を教えてほしい。ダメかな?」
「もちろんいいよ!晃弘が高みを目指すのなら私も東大目指そうかな」
「薫も東大目指すの?今の時点で高二の勉強してるなら余裕で受かりそうな気がする」
「それは分からないよ。いつから勉強始める?休日は部活が午前中にあるから午後以降になるし、学校がある日は夜になっちゃうね」
「球技大会が終わってからがいいかな。この連休は特訓に集中したいからさ」
「うん、分かった!それじゃ今日はこれで終わりにして帰ろっ!」
薫の機嫌がかなりいいね。球技大会でいいところまでいけそうって感触が掴めたのかな?薫のためにも貢献できるように頑張りたいなあ。
※
家に帰るとミケが子猫3匹を相手に遊んであげていた。どうやら四匹で仲良くやっていけそうだ。
「だいぶ三匹の性格も分かってきたわよ。ツキはマイペースね。タマは甘えたさん。モンはおとなしいわ」
「本当は晃弘も面倒を見たいんだろうけど、修行中の身だからな。どうだ?まだ日が経ってないけど何か手ごたえみたいなものはあるのか?」
夕食時、父さんが現在の状況を聞いてきた。
「話を聞いたり、説明を受けたり、実際にやってみたりして全てが繋がってるような気はしてる。だから何事も手を抜けないなって思ってるよ。ただ色んなことをやっていく上で時間が足りなくなるんじゃないかっていう不安はある」
「それはタイムマネジメントを習得するしかないな。ちなみに父さんのタイムマネジメント力は相当高いぞ」
「休日は家でゴロゴロしてるだけの人がタイムマネジメント力があるとは思えないわ」
「母さん、普段の仕事でしっかりタイムマネジメントをやってるからこそ休日出勤がないんだよ。だから休日はゴロゴロできるんだ」
「じゃあ父さん、僕にタイムマネジメントを教えてよ」
「ああ、構わんぞ。早速明日やることにしようか」
「ありがとう。明日は午前中空いてるからその時間でお願いするよ」
夕食を終え、ランニング、ゲームをやってこの日も23時には寝た。
次の日から朝の1時間の勉強は薫に勉強を教えてもらうようになるまでは暗記系の勉強をすることに決めた。今の僕は基礎ができていない。無理に応用問題をやるよりかは単語や用語を覚えた方がいいと判断したんだ。
午前中は父さんからタイムマネジメントについて学び、午後は薫とサッカーの特訓、夜はランニングとゲームという休日のパターンができつつあった。
そして明日は火曜で5月に入る。本来であれば学校があるんだけど、濃山高校は4月中に2回土曜授業を行っている。その振替休日を5月1日と2日に充てることで9連休を実現してくれているんだ。
だから他の学校は授業があるみたい。僕は1日の夕方にそろばん教室を、2日の夕方に速読術の教室を見学に行く予定にしている。師匠が身につけておいた方がいいと言っていたからね。
それで実際に見学に行って様子を見てきた。そろばん教室も速読術の教室も学校から近かったから放課後に通うのはできそうな感じだったので、両親に借金という形で授業料を出してもらうことになった。
そうなってくると師匠の元に週2回、赤羽さん達システム部でのパソコン教室が週3回のところにそろばん教室が週3回、速読術の教室が週2回入ってくる。
夏休みまでは鬼スケジュールになることが確定した。スケジュール管理とタイムマネジメントを徹底しないと実現できない。これまでの僕なら「こんなの無理だ!」ってなっていたと思う。
でも今はこれを全部やり切ってやる!という気持ちが強い。自分でも内面が変わったような気がする。
そうして迎えたゴールデンウィーク最終日の日曜日。午前中は師匠のところに出向いて1週間の行動予定について資料を作って見せに行った。
「ほうほう、このゴールデンウィークだけでもだいぶ成長したものだ。やはり若さというものはいいな。吸収力が我々とは格段に違う。それでこの予定通りに動けそうなのかい?無理をして詰め込んだのなら無理はしない方がいい」
「いえ、父にタイムマネジメントを学びましたので、徹底すればどれも実現可能だと思っています」
「タイムマネジメントまで手を出すとはね。君の行動力には驚かされる」
「でも速水少年よ。こんな詰め込んでやったら体がもたないんじゃないか?」
僕が師匠のところに行く日は必ず広瀬さんが来るようになった。広瀬さんは今の状況を変えようとしているのが僕にも分かるようになった。
「そのためにランニングをやっています。体力が必要だということが身に沁みて分かりました」
「これは夏休みからが楽しみだな。よし、それじゃあこの予定を夏休みまでこなしてみなさい」
「はい!」
こうしてゴールデンウィークは終わり、普段の生活が始まった。