第10話
大木君とイベントボスに挑んだ後はそのままお別れして僕は睡眠時間を6時間以上とるためにすぐに寝た。
そして目が覚めた僕は朝の勉強を始めることにした。昨日師匠に東大に入るために何をする必要があるのか質問をしたところ、
「とにかく基礎が大事だ。だから小学生や中学生の問題をもう一度見直すようにしなさい。それができなければそこをしっかり復習する必要がある。それと計算スピードや文章を読むスピード、文字を書くスピードもしっかり養っておく必要がある」
と言っていた。できるならそろばんや速読術を習う方がいいと言われたけど、そんな時間が取れるんだろうか?と疑問に思っている。
ということで基礎ができているか見直す1時間となった。この3月に受けたばかりの公立高校の過去の英語の問題に挑戦してみた。結果は濃山高校を合格できるレベルではあったけど、解けない問題や英単語の意味が分からなくてどう訳せばいいか分からない文などがあった。
東大に行くんだったら100点とれるようになってないといけないよね。こういうところの基礎を見直すのはやっぱり自学するしかないのかな?
その時、ふと薫のことが頭に浮かんだ。薫は中学の時から学年トップクラスの成績を取っていた。そんな彼女はなぜ偏差値50の濃山高校を選んだんだろう?
入学式の新入生代表を薫が務めたことを考えると学年でトップだったことが分かる。薫に勉強を教わってみようか。無理だったとしてもアドバイスくらいはもらえると思う。
1時間の勉強が終わり、朝食を摂る。今日は師匠の会社の人からパソコンについて学ぶことになっている。自転車に乗って師匠の会社、カンジエスへ向かった。
「おはようございます。速水晃弘といいます。宮田社長にここに来るようにと言われ来ました」
会社に入って受付の人に師匠に言われたことを伝えると七三分けにしたメガネをかけた男性がやってきた。
「どうも初めまして。私、カンジエスのシステム関連を任されている赤羽巧太郎と申します。これから私が速水君の教育係となります。よろしくお願いします」
スッと名刺を差し出してきれいなお辞儀をする赤羽さん。
「こちらこそ初めまして。僕は速水晃弘といいます。よろしくお願いします」
「一応パソコンのことを教えてやってくれと社長から言われておりますが、ビジネスに必要な知識についても教えていきます。例えば先ほどの自己紹介、言いますではよくありません。申しますと謙譲語を使う方がベターです。こういう感じのことも教えていきますね」
「は、はい!よろしくお願いします!」
「それでは私についてきてください」
そう言われて赤羽さんの後をついていく。そうすると狭い部屋に案内され、中には三名の男性がパソコンで作業をしていた。
「皆さん、これからしばらくの間こちらでパソコンスキルを覚える速水君です。社長からは文書の作り方からプログラミング、果ては我々とは畑違いですが今苦戦している動画編集なども教えるように頼まれています。皆さんのお力をお貸しください」
「おお!戦力が増えるのか!いいとも!俺は野木正弥」
「やっと我々の要望が届いたのですね。僕は北山陽人です。よろしく」
「だいぶ若くないか?社長は何を企んでいるのか……。俺は森隆行だ」
「ここは私達システム部の専用部屋となっています。我々四名で我が社のシステム周りを支えているんです」
「師匠の会社の社員さんって何名いるんですか?」
「社長のことを師匠と呼ぶのはよしとしましょう。ですが今のはいるんですか?ではなくおられるんですか?の方がベターです」
あー、どうやら僕は言葉遣いが相当なってないみたいだね。こういうのも勉強した方がいいな。
「申し訳ありません。言葉遣いには気をつけます」
「いきなり覚えろとは言いませんので。気をつけるだけでもだいぶ変わりますからね。では早速独り立ちできるくらいに覚えていってもらいましょう」
こうして僕のパソコンスキル向上の特訓が始まった。
※
「ではそろそろ時間なのでここまでとしましょう。次回は明後日ですね。明後日からは直接こちらに来ていただいて構いません。ではお疲れさまでした」
「お疲れさまでした!」
ドアを開けて部屋から出る。ダメだ……。もうぐったりだ……。ヘロヘロになりながら会社の入口まで歩く。
中学の時はパソコン部だったからついていけると思ったけど全然通用しなかった。まずタイピングスピードからして皆さんは僕よりも格段に速かった。
それからどんどんと教え込まれるソフトの使い方やショートカットキーの使い方。途中から頭が痛くなってしまったよ。
かなりの疲労を感じながら会社を出て公園へ向かう。自転車に乗る元気もない。こんなことで今日のサッカーの特訓はできるんだろうか?
「やっほー晃弘。って大丈夫!?かなりしんどそうだけど」
「やあ薫。大丈夫だよ。今日も特訓、よろしくお願いします」
「ホントに?無理しなくていいんだよ?」
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから気にしないで」
「分かった。じゃあ今日はトラップを中心に練習しよっか。晃弘は得点を取りに行くとかそういうのはしなくてもいいと思うんだ。だからしっかりボールをパスすることとトラップすることができれば十分に通用するから」
「ドリブルも多少はできるようになっておいた方がいいんじゃないの?」
「それはそうだけど、時間があればね。じゃあまずは足でトラップする練習から行くよっ!」
薫が足を使ったトラップを見せてくれる。見事なまでにボールの勢いを止めている。一種の芸術みたいだ。
「こんな感じ。あとは太ももと胸のトラップもやるからね」
胸……。と言われるとどうしても目がいってしまう。あれ?今日はお胸が強調されていない。ってことは晒を巻いているのかな?
まあ、その方が僕としては助かる。胸でトラップするところをあの強調されたお胸でされたら直視できないよ。
あっ!また胸に視線がいってしまった。今日こそは注意されるんじゃ……。と思ったら今日も何も言ってこなかった。
「ああっ!まただ!全然上手に止められないや」
「コツとしては受け取ったらボールの動きに合わせて勢いを吸収するような感じでやると上手くいくよ」
言われていることは理解できるんだけど、それを体で実際にやってみると上手くいかない。トラップはサッカーの基礎なんだろうけどできるだけですごいと思う。
そう考えると瞬はすごいんだね。僕にとっては難しいことでも朝飯前のようにできるんだろうな。もっと次元の違うところにいるんだろうと思うと、そりゃみんな惚れるよね。