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セーラー服を脱がせて  作者:
アフターストーリー

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17/17

背中越しの甘いシュート

「うわー、すごいね!」


 初めて足を踏み入れたその場所は、休日の昼間らしい熱気と、楽しそうな声で満ち溢れていた。


 2学期が始まって初めての、何も予定がない土曜日。駿太が「たまにはこういうのもいいだろ」と、デートに誘ってくれたのだ。


 色々なスポーツが楽しめる、大きなアミューズメント施設。昨日、美咲たちに「週末は何するの?」と聞かれた時は、「家の用事で」なんて、可愛い嘘をついてしまった。


 私たちは、バドミントンで汗を流し、ローラースケートで何度も転びそうになる私を駿太が笑いながら支えてくれ、テニスのラリーでは、経験者の駿太に手も足も出なかった。何をやっても様になる駿太の姿は、やっぱり格好良くて、そのたびに私の心臓はきゅっと音を立てる。


 一通り遊び尽くして、最後に辿り着いたのは、バスケットボールのゴールがいくつも並んだエリアだった。 駿太の、一番輝く場所。


「結衣もやってみろよ」

「ええ、私はいいよ。見てるだけで」


 ボールを持つ駿太は、水を得た魚みたいに生き生きしている。

 軽々と放たれたボールは、綺麗な放物線を描いて、スパッ、と心地いい音を立ててリングに吸い込まれていった。周りにいた他のグループから、小さく歓声が上がる。


「ほら、遠慮すんなって」


 駿太はそう言って、私にボールを手渡した。

 かっこ悪いところ、見せたくないな。そう思いながらも、彼のキラキラした笑顔に逆らえるはずもなかった。


「えいっ」


 見様見真似でボールを放る。でも、ボールは重くて、全然思うように飛ばない。リングに届くどころか、その手前のボードにこつんと当たって、力なく跳ね返ってくるだけだった。


「くっ……もう一回!」


 何度も、何度も挑戦する。でも、結果は同じ。だんだん悔しくなってきて、周りの目も気になり始める。駿太の得意な場所で、こんなに情けない姿を見せるのが、たまらなく恥ずかしかった。


「あー、もう!」


 私が諦めて、ボールを床についた、その時だった。


 ふいに、背中に温かい感触がした。


「……え?」


 振り向くより先に、駿太の大きな体に、すっぽりと後ろから包み込まれていた。がっしりとした駿太の胸板が、私の背中にぴったりとくっついている。


「ち、ちょっと、駿太……!?」

「しー。力、入りすぎ。もっと肩の力抜けって」


 耳元で囁かれる、低い声。その声と、首筋にかかる熱い吐息に、心臓がどくんと大きく揺さぶられた。

 私の手に、彼の手がそっと重ねられる。ボールを包む、二人の手。そして、空いていた彼のもう片方の手は、私の腰を支えるように、優しく添えられた。


「膝、もうちょい曲げて。そうそう」

「……う、ん」

「で、手首のスナップを利かせて、ボールを押し出す感じ」


 駿太の体が動くたびに、彼の筋肉の硬さや、汗の匂いが混じった雄の匂いが、すぐ近くで感じられる。もう、バスケのことなんて、どうでもよくなってしまいそうだった。あの夜、彼の腕の中で、なにもかも暴かれてしまった時のことを思い出して、全身が熱くなる。


「いくぞ。せーのっ」


 駿太の声に合わせて、私たちは同時に腕を伸ばした。

 私の意思とは関係なく、ボールは手から離れ、綺麗な放物線を描いて……スパッ!と、今までで一番心地いい音を立てて、リングの真ん中を通り抜けた。


「……あ」


 入った。

 呆然とする私の耳元で、駿太が満足そうに囁く。


「な? やればできんだろ」

「……うん」

「……ていうか、結衣」

「なに?」

「顔、真っ赤だぞ」


 悪戯っぽく笑う声。 私は、もう何も言い返せなかった。


「……駿太のせいでしょ」


 そう呟くのが、精一杯。 周りの喧騒が、嘘みたいに遠くに聞こえる。

 私の世界には、背中越しの彼の体温と、鳴り止まない心臓の音だけが、大きく響いていた。


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