妄想だらけのガールズトーク
「ねえねえ、聞いてよー!」
最近、この四人でお弁当を食べるのが、すっかりお昼の定番になっていた。 私と昔からの親友の美咲。そして、美咲を通じて仲良くなった月城陽葵ちゃんと、清水弥生ちゃん。三人ともクラスで目立つ可愛い女の子なのに、少し内気な私にも気さくに話しかけてくれる、大切な友達だ。
そして、たまたま今日の話題は、女の子が一番盛り上がる鉄板の「恋バナ」だった。 私の心臓が、少しだけドキリと音を立てる。 まさか、この中に一人、本物の彼氏持ちが紛れ込んでいるなんて、誰も夢にも思っていないよね。
「昨日見たドラマのさ、幼馴染カップルが最高すぎて!」
美咲が、頬をピンク色に染めながら熱弁を振るう。その言葉に私の心臓がきゅんと音を立てた。私の隣には、世界で一番格好いい、本物の幼馴染彼氏がいるんだよ、なんて。口が裂けても言えないけど。
「わかるー! ていうかさ、彼氏ができたら、みんなどこまで許せる?」
会話をリードするのは、いつも少しだけ大人びている陽葵ちゃんだ。
「ま、まずは、手繋ぎ、とか……?」
弥生ちゃんのウブな回答に、陽葵ちゃんが悪戯っぽく笑う。
「弥生は可愛いなぁ。じゃあさ、キスは? 触れるだけ? それとも、舌とか…入れられちゃったらどうする?」
「ひ、陽葵ちゃん!」
彼女たちの会話は、すべてが「もしも」の話。でも、私にとっては、すべてが「もうすでに起きたこと」の話だった。
駿太の少しだけ強引で、でも、とろけるくらい優しいキス。最初はただ触れるだけだったのが、今ではもっと深く、お互いの舌が絡まるようなキスに変わってきていること。そんなこと言えるはずもない。
「ていうかさ、不意打ちってやばくない? 後ろからぎゅってされて、そのまま首筋にキスされたりとか!」
美咲が身もだえしながら言う。
ヤバいよ。本当に、心臓が止まりそうになるくらい。私の知らないうちに、私の好きな匂いを覚えていて、後ろから抱きしめられた時の、あの衝撃と幸福感。
彼女たちの妄想が、私の現実の記憶を鮮やかに呼び覚ましていく。そのたびに、私は相槌を打ちながらも、心の中では全然違うことを考えていた。気まずさと、少しだけの優越感。そして、今すぐにでも駿太に会いたくなる、うずうずした気持ち。
「じゃあ、究極ね」
陽葵ちゃんが、にやりと笑って、爆弾を投下した。
「彼の部屋で二人きり。いい雰囲気になって、ベッドに押し倒されて…耳元で『俺、もう我慢できない』って囁かれたら…どうする?」
その瞬間、私の頭の中に、あの日の、あの部屋の光景が鮮明にフラッシュバックした。 駿太の熱っぽい瞳、『俺の知らない結衣を見たい』っていう掠れた声。彼の熱い腕の中でセーラー服を脱がされて、なにもかも暴かれてしまった、あの甘い時間。
「……っ!」
気づいた時には、私の顔は自分でもわかるくらい真っ赤になっていた。
「あれ? 結衣、どうしたの? 顔、真っ赤だよ?」
「え、うそ! 結衣、まさか一番えっちな妄想したでしょ!」
「えー、結衣ちゃん、えっちい!」
「ち、ちが……っ! そ、そんなこと、ない!」
三人のからかうような視線が、一斉に私に突き刺さる。
私は慌ててお弁当の卵焼きを口の中に放り込んで、必死に動揺を隠した。
違うの。妄想なんかじゃない。みんなが今、必死で想像しているその甘い時間は、私にとっては、もう何度も経験した愛おしい現実なんだよ、なんて。言えるはずもない秘密を抱えながら、私の心臓は幸せな音を立てて鳴り響いていた。
ああ、もう。早く、駿太に会いたい。




