爆散!!バルディア!!悲劇の名乗り
鉄鋼王国の闘技場には、ただならぬ緊張が張り詰めていた。
空を覆う黒煙、焼け焦げた地面、そして崩れかけた観客席。かつては栄華と誇りの象徴だったこの場所が、今ではまるで地獄の舞台のように変貌していた。
闘技場中央では、蒼き鋼の巨人――ブルージャスティオンが、異形の鋼鉄獣ダークゴルドンと死闘を繰り広げていた。
電光と火花が散り、地響きのような衝突音が王国中に響き渡る。観客たちは声も出せず、ただその壮絶な戦いに目を奪われていた。
だが――その最中だった。
「ギギィィィ……ギィ……」
軋んだ音を響かせながら、闘技場の北門がゆっくりと開いた。
「……!?」
誰かが小さく息を呑む。
その門の向こうから現れたのは、信じられないほどみすぼらしい機体だった。
装甲のあちこちが剥がれ、塗装もほとんど残っていない。脚部の関節はギシギシと悲鳴を上げ、肩のパーツは片方欠けている。
ボロボロの鉄屑――そう形容するにふさわしい姿。
だが、その機体は堂々と、まっすぐに戦場へと歩を進めていた。
そして、機体の拡声スピーカーから、低くも力強い声が響き渡った。
「我こそは――」
一瞬、闘技場の空気が静止する。
「――鋼鉄の守護者! 電光巨人ブルーサンダーの盟友、鉄鋼剣士バルディア!!」
名乗りの声は、闘技場全体に反響した。
観客たちの目が、ボロボロの機体へと注がれる。
味方の整備兵たちが唖然とし、敵方のパイロットたちでさえも、その機体を訝しげに見つめていた。
「え……? 今なんて……」
「バルディア……って、あの伝説の……?」
「嘘だろ、もう何十年も前に廃棄された機体だって聞いたぞ……!」
戦場の時間が、まるで止まったかのように思えた。
だが、その内部で――操縦席の中で、ひとりの男が汗を拭っていた。
彼の名は、別府忠夫。
このオンボロ機の最後のパイロットにして、自らの意志で再起動させた男だった。
「はは……緊張すんなって思ってたのに……こりゃあ、舞台がデカすぎるな……」
額から流れる汗を袖で拭いながら、彼は微かに笑った。
「でも、やるしかねぇ。こいつと俺で――最後の一花、咲かせてやる!」
だがその瞬間だった。
「――!? バルディア、後方警戒ッ!」
忠夫の声が悲鳴に変わる間もなかった。
突如として、観客席の上段から、閃光が走った。
それは誘導式のミサイルだった。まるでバルディアの登場を待ち構えていたかのような、狙い澄ました一撃。
爆発音が空を裂き、炎と破片が闘技場を包んだ。
「忠夫さん!?」
「うそだろ!?」
「誰が撃ったんだ!? 味方か!? 敵か!?」
怒号と混乱。観客席が騒然となる。
味方機のパイロットたちも、ただ立ち尽くすしかなかった。
爆煙の中、バルディアの機体は――
無残にも、四肢を失い、胸部は大きく抉れ、地に伏していた。
中枢ブロックも、操縦席も、完全に消し飛んでいる。
もはや復元もできない、ただの鋼の残骸。
誰もが、言葉を失った。
「……裏切り……か?」
「いや、何かの罠だ……!」
だが、誰が何を言おうと、忠夫はもう応えない。
残されたのは、あの名乗りの声だけだった。
風に流れ、闘技場の上空を寂しくこだました。
「――我こそは、鋼鉄の守護者……鉄鋼剣士バルディアだ……」
それは、まるで幻だったかのように、消えていった。
ブルーサンダーのパイロット・ヒロトは、拳を握りしめ、歯を食いしばった。
「別府さん……あんた、なんでこんな……!」
静かに立ち上がるブルーサンダーの巨体。
その双眸に宿るのは、怒りではない。哀しみと、決意。
「無駄にはしない。あんたの登場が、何を意味していたのか……俺が証明してみせる」
仲間たちの通信が入る。
「ヒロト、どうする!? 戦況は不利だ!」
「まだだ……バルディアが示してくれた。俺たちは……立ち上がるだけだ」
異様な静寂の中、再び闘技場に火花が走った。
それは――誰かの犠牲が灯した、新たな戦いの始まりだった。
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スーパーロボットあるある
その131:味方のオンボロロボ、かっこいい名乗り。
その132:すぐ爆散。
その133:爆発の理由は謎。
その134:裏切り者の影がちらつく。
その135:名乗りだけが残る悲劇。