燃えさかる王城、崩れゆく鉄の帝国
ガスティメィア鉄鋼王国の空が、深紅に染まっていた。
ただの夕焼けではない――それは、燃えさかる王都の業火だった。
数日前から続いていた市民の蜂起は、ついに決定的な転機を迎えていた。
各地の工業区では労働者たちが武器を手に取り、王国軍の装甲兵と激突。政府の情報統制も、もはや意味をなさず、反旗を翻した民衆の叫びが町の至るところで響き渡っていた。
「圧政を終わらせろ!」
「俺たちの家族を返せ!」
「革命を――革命を!!」
闘技場ではまだブルージャスティオンと鋼鉄獣の激闘が続いていたが、その熱気とは別種の、もっと重く、深い怒りが、王国中に渦巻いていた。
その中心――王都アルマ・ステルの王城。
漆黒の鋼で組み上げられたその巨城の鐘楼が、ついに爆発音とともに崩れ落ちた。
「な……!」
爆音を聞いたジャスドス大帝は、王座の上で息を呑んだ。
彼が生まれ育ち、支配し、そして築き上げてきた王国の象徴が、今、目の前で炎に包まれていた。
城の上空を、反乱軍が奪取した無人戦闘機が飛び交う。かつて自分が誇りにしていた技術が、今は自分に牙をむいている。
「どうして……どうしてこんなことに……」
額には、見る見るうちに汗が浮かんだ。
唇を震わせながら立ち上がろうとしたその時だった。
「ぐっ……!」
突如、大帝は胸を押さえ、激しい咳に襲われた。
肩が震え、血混じりの咳が衣に飛び散る。
そして、その身体はふらつき――玉座の階段に膝をついた。
「陛下ッ!」
「どうされました!?」
「医者を呼べ、早く!!」
ざわめく側近たちの声が、炎の轟音の中にかき消される。
やがて、駆けつけた王城付の老医師が大帝の脈を取り、顔色を見、静かに頷いた。
だが、その頷きは決して肯定のものではなかった。
「……申し訳ありません、陛下……」
医師は静かに、だがはっきりと告げた。
「この発作は……進行した重度の臓器不全によるものでしょう。……お体はすでに限界です」
「余命は……長く見積もって、一ヶ月……いえ、それより短いかもしれません」
その言葉を聞いた瞬間、大広間にいた者たち全員が凍りついた。
「な……なんだと……?」
ジャスドスの声は震えていた。
身体ではなく――心が、折れかけていたのだ。
「一ヶ月……? この俺が……この俺があと、一ヶ月しか生きられぬと……!?」
怒りが爆発する。
だが、怒鳴ろうとした瞬間、また血が喉に逆流し、大帝は再び咳き込んだ。
「陛下、お身体を……!」
「黙れッ!!」
側近の言葉を怒声で遮り、ジャスドスはよろよろと立ち上がる。
背筋は曲がり、かつての威厳はそこにはない。それでも、彼は叫んだ。
「俺が死ねば、この国はどうなる!? 反乱は広がり、民衆はこの鋼の国を食い荒らすだけだ! 誰がこの国を導く!? 誰がこの国を背負えるというのだッ!!」
しかし、誰も答えられなかった。
なぜなら、ジャスドスがあまりにも長く権力にしがみついていたからだ。
彼の下では、後継者を育てる機会など存在しなかった。
才ある者は排除され、忠誠を示す者だけが生き残った。
王国の未来は、彼自身によって閉ざされていたのだ。
「……こんな……馬鹿な……」
呟くように言ったその声は、かすれていた。
彼の視線は、燃える王城の外へと向けられていた。
赤く染まる空。
遠くで爆発する貯蔵庫。
そして、市民たちの怒号と勝利の雄叫び。
そのすべてが、ジャスドスにとっては“自らの失政”の結果でしかなかった。
「セリア……お前なら、どうした……?」
かつての側近にして、唯一信頼していた女性の名を、彼はぽつりと口にした。
彼女はすでにこの世にいない。
反旗を翻し、そして処刑された女。
だが――
「やはり、あの時……処刑すべきではなかったのか……」
後悔の念が、胸を締めつける。
ジャスドスは静かに玉座へと戻る。
だがその足取りは、もはや「王」のものではなかった。
崩れゆく王国の王――
その姿は、まるで滅びを待つ亡霊のようだった。
そして鉄と火の帝国・ガスティメィアは、ゆっくりと――
だが確実に、終焉の運命へと歩みを進めていった。
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スーパーロボットあるある
その126:王政が燃える。
その127:大帝が突然体調不良。
その128:医者の余命宣告が絶望感を増す。
その129:革命はいつも火から始まる。
その130:燃える王城は物語の象徴。