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雨に溶けて消えた液体人間

作者: ウォーカー

 放課後の学校、校門の前。

急に湧き出した雨雲のせいで、激しい雨が降り始めていた。

立っている人の姿もよく見えないほどの激しい雨。

その中を、一人の女子生徒が傘も差さずに駆け出した。

その女子生徒を包む雨合羽は、あっという間にずぶ濡れになっていく。

すると、女子生徒が横切ろうとした道路を、一台の車が駆けていく。

雨で視界を奪われ、女子生徒と運転手の双方はお互いに気が付くのが遅れた。

女子生徒は車に跳ねられ、雨の中で吹き飛ばされた、はずだった。

しかし、車が通った後には人の姿はなく、雨合羽だけが残されていた。


 放課後の学校、教室の中。

二人の女子生徒の姿があった。

「それで、跳ねられた人はすぐ後に、大通りで倒れてるのが見つかったの。

 雨合羽が残されていたから、車に跳ねられたのは間違いない。

 それなのに、雨合羽以外は消えていた。

 移動しているところは、誰にも目撃されていない。

 だから、その女子生徒は溶けて液体になって移動したって言われてるの!

 これが、液体人間の怪談。」

「そんなに大声を出さなくても聞こえてる。恵子ちゃん。唾飛んでるよ。」

「そりゃ声も大きくなるよ。だって、あたしのことなんだもん!」

大声でがなり立てている女子生徒は、渡部わたなべ恵子けいこ

何を隠そう、雨合羽を残して消えた女子生徒、その本人である。

話を聞かされていたのは恵子の友人、長谷川はせがわ美智代みちよ

美智代が恵子から液体人間の怪談について聞かされたのは、これでもう五回目。

迷惑そうに顔をしかめている。

「そんなに何度も言わなくても、もう覚えちゃったよ。

 それで恵子ちゃんはどうしたいの?」

聞かれて恵子は、腕組みして答えた。

「もちろん、液体人間の怪談の謎を解明したいんだよ。

 あれからあたし、先生から新聞部まで、

 あちこちから話を聞かれて、迷惑してるんだよ。」

「それは、怪談の本人だから当然だよね。」

「それよ!あたしはあの時、

 車のライトが近付いてきたところで気を失って、

 何があったか何も覚えてないんだよ。

 次に目が覚めた時は、救急車の中だった。

 液体人間になったおかげか、車に跳ねられたのに怪我一つなかったけどね。」

「それは見ればわかるよ。」

そして恵子は美智代に手を合わせた。

「お願い!液体人間の怪談を調べるのに付き合って!」

「それは構わないけど・・・」

そうして恵子と美智代の二人は、液体人間の怪談を調べるため、

放課後の学校を探索することになった。


 恵子と美智代の二人は、液体人間の怪談を調べに出かけた。

とは言っても時間はもう放課後。

お互いに門限もあるので、長い時間は取れない。

鞄を持って、帰宅がてらに調査する形になった。

まずは帰る前に教室の中を調べる。

しかしここは怪談とも無関係の場所、何も見つけられなかった。

次に二人は教室を出て、廊下を調べていく。

すると、廊下に液体がポタポタと垂れているのを見つけた。

「これ、液体人間の跡じゃない!?」

恵子が嬉しそう手を合わせて言う。

しかし美智代が首を横に振る。

「恵子ちゃん、違うよ。窓の外を見て。」

言われるまでもなく窓の外を見る。

すると外はいつの間にか雨が降り出していた。

「あ、雨降ってる。じゃあこの水は、誰かの傘か靴の水か。」

「そういうこと。」

二人が廊下を辿って下駄箱にたどり着いた頃には、

雨は本降りの激しい雨降りになっていた。

「まいったなぁ。美智代、傘持ってる?」

「一応、折りたたみ傘の置き傘があるんだけど、

 ちっちゃい傘だから二人は入れないかも。」

「あ、あたしは置き雨合羽があるから大丈夫。」

「えっ、でもそれって。」

「・・・あ。」

放課後の校門。激しい雨。雨合羽。

奇しくもそれは、液体人間の怪談のシチュエーションそのままだった。

恵子がゴクリと喉を鳴らす。

「どうしよう。もう一度、あの時の様子を再現してみようか。

 美智代、見ててくれる?」

勇敢にも液体人間の怪談を再現しようとする恵子。

しかし美智代は眉を八の字にしてすがりついた。

「恵子ちゃん、止めたほうが良いよ。

 あの時は液体人間になって無事だったかもしれないけど、

 本当だったら車に跳ねられてたんだよ?

 再現なんてしたら大怪我しちゃうよ。」

「うーん、それもそうか。」

すがりつく美智代に、恵子は足を止めて考えた。


 時刻は夕方。場所は校門、降りしきる雨。

予期せず恵子と美智代の二人は、

液体人間の怪談の時と同じ状況に巡り合った。

もう一度、雨合羽を着て道路に飛び出せば、

液体人間の怪談の謎を解き明かすことができるだろうか。

地面に溜まった雨を跳ね上げ、車が通り過ぎていく。

するとどうしたことだろう。そこに人影が立っていた。

つい今までは、車が横切っただけで、誰もいなかったはずなのに。

「ねえ!あれ見た!?」

「見た見た!人が現れた!」

事態を目にした恵子と美智代の二人は、抱き合って大騒ぎ。

雨脚は強く、人影の詳細はよく見えない。

人影はキョロキョロと辺りを探り、恵子と美智代の二人を見つけると、

ふっ・・とその場から姿を消してしまった。

「ねえ!見た!?人が消えたよ!」

「見たよ!見た見た!」

またしても二人は大騒ぎ。

放課後の人気ひとけのない学校で、二人の大騒ぎが響き渡っていた。


 液体人間の怪談を調べていた恵子と美智代は、

偶然にも雨が降り出した放課後の学校で同じ状況に巡り合った。

すると、怪談の地点に人影が現れ、そして消えた。

それはまさに液体人間の怪談と同じような現象だった。

恵子と美智代の二人は、雨合羽と小さな折りたたみ傘で、雨の中に出ていった。

バシャバシャと小走りで駆けていくと、足元はあっという間に濡れてしまった。

白いソックスが濡れてしまうのも構わず、二人は人影のいた場所に来た。

場所は校門の前を横切る車道の真ん中。

雨脚は衰えず、地面には水たまりに車のわだちが出来ていた。

すると、地面に見慣れないものが。

そこには大きなマンホールが設置されていた。

恵子が問う。

「あれ?こんなところにマンホールなんかあったっけ?」

「見て。このマンホール、滑り止め加工がしてある。」

「滑り止め加工?」

「うん。マンホールって金属製が多いけど、それだと滑るでしょう?

 だから、こういう人通りの多いところのマンホールは、

 滑り止め加工がしてあるんだよ。道路のアスファルトと同じにしたりね。」

「そっか。だから見覚えがなかったんだ。

 それが雨で濡れて目立つようになったというわけだね。

 で、どう思う?」

「どうって・・・」

場所は液体人間の怪談の、まさに同じ地点。

そこに普段は見えなかったマンホールがある。

「怪談と無関係とは思えないよ。中に入って見よう。」

「ちょっと恵子、本気?

 中は下水道だよ。ネズミとかいるかも・・・。」

「ネズミくらい、あたしが追い払うって。

 ほら、入ってみよう!そっちの端を持って。」

恵子は雨合羽、美智代は折りたたみ傘を肩にかけて、

マンホールの端を持ち合った。

するとマンホールは、意外にもすんなりと持ち上がった。

「あれ?マンホールって、もっと重いイメージだったんだけど。」

「それに、器具もないのに持ち上げられるなんて。

 まるで普段から外すようになってるみたい。」

二人は不可解に思いながらも、マンホールの蓋を外した。

中には真っ暗な穴が口を開け、風が不快な臭いを運んでくる。

二人とも咄嗟に尻込みをしてしまう。

しかし、液体人間の怪談の謎がすぐそこにあるかもしれない。

そんな好奇心に後押しされて、

二人はマンホールの梯子を降りていった。


 雨はマンホールの中にも容赦なく降り注ぐ。

傘を差しながら梯子を降りるのは難しい。

二人は少しでも雨を防ぐため、

雨合羽を着た恵子が上になって梯子を降りていった。

しかし、それもただの気休め。

梯子の終端に降り立った頃には、二人ともずぶ濡れになっていた。

「あちゃー、びしょびしょだねー。」

「それよりも見て。中に明かりがある。」

「それがどうしたの?」

「ここ下水道だよ?

 普段は明かりなんてそうあるはずがない。」

「ということは、誰かがいる?」

マンホールの中には明かり、人の気配がある。

恵子と美智代の二人は頷き合って、通路の先へと進んでいった。


 通路はコンクリートが剥き出しで、横には下水と思われる水流があった。

雨のせいか、水量は多いが不快な臭いは我慢できる範囲内だった。

コツコツと二人のローファーの足音が響いている。

・・・いや、それだけではない。

モゾモゾガサガサと微かな音が聞こえてくる。生活音のような音。

そうして二人はたどり着いた。

マンホールの下、下水道の先、そこには人の居場所があった。

本がぎっしり詰まった本棚、試験管だの薬品の瓶だのが置かれた机。

そしてその真ん中には主がいた。

「やあ、こんなところまでくる生徒がいるとはね。」

振り返ったその顔は、恵子と美智代の二人にはお馴染みの顔。

「北川先生!」

それは二人が通う学校の化学の先生をしている、北川という男だった。

「北川先生、こんなところで何をしているんですか?」

「バレてしまっては仕方がない。

 ここはね、私の秘密の研究室なんだ。」

「研究室?」

「もちろん、本当はただの下水道だよ。

 だけど、ここは人も来ないし実験にはピッタリでね。

 悪いが勝手に使わせてもらってるというわけだ。」

「な、なんだぁ。」

急に現れて消えた人影の正体は、下水道に居を構える先生だった。

一件落着、と思ったところで、恵子は本題を思い出した。

「そうだ、北川先生。液体人間の怪談って知りませんか?」

「液体人間の怪談?ああ、あれのことか。

 もちろん知っているとも。

 怪談なんて言われるようになってしまったからね。

 私の耳にも入ってくるさ。」

「あれも先生の仕業ですか?」

「そうだよ。

 ここは知っての通り秘密の研究室。

 マンホールを出入りするのに、人に姿を見られたくない。

 しかし他のマンホールは学校から遠い場所に繋がっている。

 だけどあの日、豪雨で姿を隠せると思って、

 学校の校門の前のマンホールを使ったんだ。

 ところが、外に出ようとしたら、

 女子生徒が車に跳ねられかけてるじゃないか。

 私は慌ててその女子生徒をマンホールの中に引っ張り込んだんだ。

 そして騒ぎになって見つかる前に、マンホールの蓋を閉めた。」

「なるほど。だから上には雨合羽だけが残されていたんですね。」

「ああ、そうだ。きっとどこかに引っかかって脱げたんだろう。

 まさかそれが、人が溶けたなんて話になるとはね。」

「それじゃあ北川先生は、あたしの命の恩人なんですね。

 ありがとうございました。」

恵子は深々と頭を下げた。

しかし北川は照れた様子で手を振った。

「なんのなんの、生徒を守るのは先生の仕事だからね。

 それに、この場所の秘密を守るために、

 遠くの大通りのマンホールまで運ぶことになってしまった。

 君はあの時、気を失っていた。

 それを放置して怪我が悪化していたら、申し訳のつかないところだったよ。」

恵子と北川はお互いに頭を下げて笑顔を向けていた。


 それから恵子と美智代の二人は、北川からお茶をごちそうになった。

下水道で飲むお茶は香りを楽しむどころではなかったが、

それでもリラックスすることができた。

下水道で話に花を咲かせていたのもつかの間、

恵子と美智代は帰らなければならない時間が迫っていた。

「先生、あたしたち、この辺りで失礼します。」

「ああ、もうそんな時間か。

 二人とも気をつけて帰るんだよ。

 それと、マンホールを出入りするところを、誰かに見られないように。」

「はーい。」

こうして、液体人間の怪談の真相は明らかになった。

地上に上がるための梯子に手をかけて、恵子がふと北川に尋ねた。

「ところで北川先生。

 こんな場所、どうやって見つけたんですか?

 普通、ここに研究室が作れる場所があるなんて、わかりませんよね?」

すると北川はこう答えた。

「それがね、ある雨の日に、私も見たんだよ。

 学校の校門の前のマンホールの場所で、人が消えるのを。

 すぐに調べても、そこには何も落ちてない。

 そこでこのマンホールの存在に気が付いて、

 中を調べて、この秘密の研究室を作ることを思いついたんだ。」

「北川先生、その消えた人はどこに?」

「さあ?中にもいなかったし、出ていった様子もなかったね。

 ただこの場所に、大きな水たまりができていた。

 あれは何だったんだろうね?」

「・・・失礼します。」

恵子と美智代の二人は、大急ぎで梯子を上がっていった。

梯子を上がってマンホールを開ける。

注意深く周囲を見るが、雨のせいで人影はなかった。

二人はマンホールから出て蓋を閉じ、やっと地上に戻って来ることができた。

しかし。

「ねえ、液体人間の怪談って、あれあたしのことだったのかな?」

「それとも、北川先生が見た方の液体人間のことかも・・・」

液体人間の怪談は解決できたのか、それとも。

今は判断できない。あるいはいつかは解明できるのだろうか。

恵子と美智代は気味悪そうにその場を後にした。



終わり。


 表を歩くとマンホールはたくさんあって、その色や形も様々で、

何だか隙間から液体人間でも出てきそうな気がして、この話を書きました。


雨で濡れたマンホールに足を滑らせたこと幾回、

滑り止め付きマンホールもあると知って、

だったら最初から全部そうしてくれればよかったのに、

というのは、マンホールについて調べて出てきた恨み節です。


お読み頂きありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
発想がまず面白い。全体の文脈も読みとれるし、オチも悪くない。 しかし、過程の描写で引っ掛かる部分が多くて、なかなか残念…。 大雨の中、道に大穴開けたまま、呑気に探索しないで…。車の車輪が通ったら大…
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