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第39話 おまえたちには学習能力がないのか⁉︎


「くそっ、このっ、このッ!」


 ふざけた看板を蹴り壊してユーバーは、平坦な通路をズンズン進む。


「王子、お気を付けになったほうが――」

「うるさいッ! 無能どもは黙って僕に着いてくれ――ばぁッッ!?」

「王子っ!?」


 踏んだ床にあった隠しスイッチが作動して石畳の一部が飛び出し、ユーバーの股間を突き上げたのだ。


「ふぐぉおおお⁉︎ なんで僕ばっかり……お、おまえたちが主君の前を行かないからだッ!」


 転がって悶絶しながら叫んでも威厳など出ない。こんな情けない姿なんて誰にも、特に妻のエリザになんて見せられない。


 次こそはまた部下を前に行かせる。

 果たせるかなすぐに、


「うぉおおおっ⁉︎」

「どうしたのだ!」

「エグモント様、1人落とし穴にっ!」


 またしても古典的なトラップ。そして相変わらず殺意は低い。穴の底には刃もなければモンスターもいない。しかし這い上がるにも時間がかかりそうな深さだ。


「放っておけ! そんなものに掛かるやつなど!」

「しかし王子」


 口答えする騎士を無理やり先に行かせると、また落とし穴。


「おわぁああっ!」

「おまえたちには学習能力がないのか⁉︎ こんなものはこうやって——」


 剣の切っ先で床を探ると、さらに3つ目の落とし穴が判明する。

 もう引っかかる愚か者はいない。


 穴は空いても、壁とのあいだに20センチほどの狭い足場が残る。鎧のブーツで渡るにはつらい幅だ。慎重に穴をかわして進んでも——


 また落とし穴。

 さらに落とし穴。

 間隔は狭まっていき、一歩進めば落とし穴。半歩進めば落とし穴……


「なんなんだこの通路は!!」


 まともに歩ける床など3割もない。本当にこんなところにアルトが潜んでいるだろうか? これだけしょうもない疲労を重ねて、その結果なにも得られなかったら……。


「……戻るぞ」

「?」

「こんなくだらないダンジョン攻略、僕が出るまでもない! 城に帰って兵士を召集だ!」

「ご自身でアルトを追い詰めるというのは――」

「はぁ!? 普通に考えてこんな馬鹿らしいことに労力なんて掛けられないだろ、この僕が! 兵士に捕らえさせて、王都で僕が首を切り落としてやるさ!」

「……承知しました。ではまず穴に落ちた部下たちを救出して――」

「そんなのは自力で帰って来させろ! 僕に手間を掛けさせるな!」

「…………」


 エグモントは珍しく不服そうだったが、部下に指示を出して撤退を始める。外へ戻るには不本意ながらまた落とし穴通路の端っこを歩いていくしかない。壁に背を付け、そろりそろりと横歩きに。


「くそッ」


 自身のみっともない姿にまた苛立ちが募る。あれもこれも全部アルトのせいだ。八つ裂きにしても足りない。どうやって苦しめてやろうか、そればかりを思い描く。



 ――が。

 この撤退の選択は遅すぎた。そして愚かだった。


 彼は知らないが、《《このダンジョンの主》》はこのまま帰られては困るのだ。


 大勢の兵士が押し寄せるなどあってはならない。人が増えれば本当の入口を見つけられてしまうかもしれない。そんな指示を出される前にユーバーが二度とここに関わり合いたくなくなるような、そんな目に遭わせなければならない――


 《《彼》》がそう考えるなどユーバーには想像しようもなかったのだが、結果として彼を本気にさせてしまった。


「早く進めッ、さっさとここから出――」

「う、うわぁっっ!?」


 背後を着いてきていた騎士の1人が落とし穴に落下する。狭い足場を踏み外したのだろうか? だが続いて、


「おっ? おわぁっ!?」「落ちるっ!?」


 次々と、それぞれ別の落とし穴に落下していく。

 とうとう残るは2人だけになってしまった。


「なっ、なにが起こっているんだエグモント!?」

「わかりません、しかし……ぉおッ!?」


 すぐ前を進んでいたエグモントも落下する。ユーバーは目にした。エグモントが立っていた場所で壁の一部がせり出していた。ほんの一部。レンガ1個分。彼の膝裏があった位置で。


 ひざカックンである。


「ま、まさか……次は僕が……ッ、ひぁあああああっっ!?」


 バランスを崩し彼は、暗い穴へとダイブしていった。





~~ 騎士Aの場合:音ゲー通路 ~~


 穴に落ちた騎士は痛みに顔をしかめながら身を起こす。


「うぅっ、なんなんだこのダンジョンは――」


 途中に寄った村で、村娘を襲った頃まではなんのトラブルもなかったというのに。あの後からだ、ケチが付き始めたのは。


 ――こんなことなら、王子の言うとおりあの村で暴れるほうがずっと良かった。


「…………。帰りに立ち寄って女漁りすればいいか」


 ユーバーを(そそのか)してみよう。あのワガママ王子が喚き散らせば、さすがにエグモントも従うしかなくなるはずだ。


「とにかくここを出ないとな」


 穴は別々の場所に繋がっているらしく同胞たちの姿はない。登ろうにも足がかりになるような凸凹もなく、特殊な装備も持たない以上、登頂は不可能に思えた。


 ――右手方向に横穴が続いているのに気づいた。

 これまでのことを考えるとただで済みそうにないが、他の出口を求めて仕方なく足を踏み出していく。


 不気味なほど真っ直ぐ続く一本道。

 ゆるやかな上り坂で方角も出口へと向かっており、脱出への希望が持てる。


「しかし長いな……、ん?」


 足下に違和感。同じ調子で歩いているはずなのに進んでいないように思える。


「い、いやこれは!? 床が《《うしろに進んでいる》》!?」


 最初は緩慢な速度で気づけなかったが、間違いなく床が動いている。後方へと後方へと進んでいる。これがただ前進をはばむだけならば良かった。しかし――


 ――ガコォンッ


 重い音。騎士の後方、動く床がいざなう方向に天井から壁が下りてきて、幾本もの巨大な(びょう)が生えてきた。


「――――――っッ!?!?」


 速度を増す床。鎧すら貫通しそうな極太の鋭い(びょう)。これまでにない殺意の高いトラップ。


「う、わああああああっっ!?」


 後方の壁で串刺しにされる前に走り抜けねば。重い鎧が恨めしい。脱ぎ捨ててしまいたいがそんな余裕はまったくない。床はもはや高速で、全力疾走でかろうじてその場に留まりつづけていた。


 と。

 はるか前方で床が光る。1色ではなかった。まばゆく光る、赤・黄・青。それは床の一部が光っていた。床が流れるのに任せてその光は近づいてきて騎士の足下に。


 走る足がその光る床を踏むと、一瞬速度がゆるんだ。


「おぉっ!?」


 偶然ではない。タイミングよく踏みつけると速度が落ちる法則がある。


「よぉーしっ、ほっ、ほっ、ほっ、ほっ!」


 通路の幅いっぱい、あちこちに流れてくる光を踏みつけ速度を調整する。

 だが――


「あっ、しまった」


 ――ピブーッ!


 失敗すると不快な音がして逆に速度が上がる。


「う、うそだろぉおおおっっ!? うぉっ、ああっ、待ってくれ! はひっ、はひっ!? 無理無理無理むりっ!」


 光る床はもはや激流。疲労で足が追いつかず、失敗ばかりを重ねていく。

 背後に凶悪な剣山が迫る。


「い、いやだぁあああっ! 死ぬっ、死ぬぅううううっ!?」


 ――ピブーッ! ピブーッ! ピブーッ!


 凄まじい速度でびっしりと生えた鉄鋲の壁に叩きつけられる。

 

「ぎゃッッ――!?」


 悲鳴とともに騎士は絶命した――いや、気絶した。鋲は見せかけでゴム製だったと知らぬまま。ただし、相当な速度で衝突したために全身打撲のダメージは負ったのだった。




~~ 騎士B:固いモノで責められる的な ~~


 別の騎士は、穴の底に落ちるや4匹の蛇に手足を拘束され吊されてしまっていた。


「お、おのれッ! 離せっっ!」


 王都の夜に娼館を訪れ、嫌がる娼婦を縛りあげて泣き顔を眺めるのが趣味の騎士だったが、自分が縛られるのなんて気持ち良くもなんともない。


 しかし蛇はモンスターの亜種だろうか?

 知性を感じさせる目をした蛇たちだった。騎士の言葉にも反応しているが、願いを聞き届けるつもりはないようだった。何より、恐ろしい力だ。鎧を着込んだ成人男性を軽々と宙づりにしてなお、余裕があるようだった。


「――ん?」


 騎士の耳に妙な音が入る。


 ――シャキン、シャキン、シャキン


 薄暗い通路の向こうからだ。やがてそれは姿を見せた。

 2本の鎌だ。


 持ち手はいない。宙に浮いた大きく鋭い死神の鎌が、ゆっくりと旋回しながら接近してくる。


「な、なんだっ!? 来るな、来るんじゃない……っ!」


 虚空に叫んでも誰も聞いていない。蛇の締めつける力は強くなるばかりで騎士の脱出をけっして許さない。鎌は低空を這うように飛来してくる――この高さは膝のすぐ下。騎士の両足を狙っている。


「ひッ!? くるなぁああッッ!?」


 喉を枯らしてあげた悲鳴もむなしく、鎌の刃は騎士の膝から下を切り落とし、床に落ちてゴトリと音を立てた。


「ひぐぅううう……、う?」


 痛くない。

 血も出ていない。


 涙目で見下ろすと、床に落ちたのは鎧の足部分だけだった。


「???」


 鎧だけを切り刻んだ死神の鎌はそのままどこかへ消えた。

 何のためのトラップだったのか――そう考えるより前に、次の異変が起こる。


 床から人形のような手が、やはり2本生えてきた。短い木の棒を持っている。


「なにを――、ひぎィいいッッ!?!?」


 剥き出しになっていた騎士の足裏に、棒の先端がゴリゴリと押しつけらえる。


 足裏マッサージである。

 ただしツボを刺激するような生ぬるい強さではなく、骨まで届きそうな激しさだ。


「ほごぉッ!? ひッ? ひぎャあああああああ!?!? やめて、許してぇえええっ!」


 騎士の情けない悲鳴はマッサージのリズムに合わせて響き渡った。

 


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