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第13話 今夜は良い月、子作り日和じゃ


「ほ、ほふぅ…………っ」

「うん。いい感じだな!」

「いいかんじ!」


 俺とメディで万歳して、妖狐のキャラメイク完成を喜び合う。


「あ、あるじ殿がこれほど激しいとは…………っ」


 一方で、チャイナドレスの妖艶な美女に変わった妖狐は、その場にヘナヘナとへたり込んでしまう。


「どうした?」

「『どうした』ではないが……。ううむ、美しくなった気はするが、一番最初とそれほど変わらぬのでは?」

「ふふん。この絶妙な差が分からないなんて、【千年妖狐】もまだまだだな」


 ――っと。【千年妖狐】のままじゃ呼びにくいな。


「姿も新しくなったし、新しい名前を付けようか」


 ふと、夜空を見上げる。

 キャラメイクに《《ちょっとだけ》》時間を使ったが、空の様子は変わらない。薄雲がかかった満月が浮かぶ。


「――【(おぼろ)】でどうだ?」

「ほお、良き名じゃな」


 彼女――朧はようやく立ち上がって、


「その名であるじ殿に仕えよう」

「ああ、よろしくな朧」


 朧はうんうんと頷いて、


「では、さっそく夜伽(よとぎ)を始めるとしようか。わらわは『外』でも一向に構わぬが、あるじ殿はどこがよいか? やはり寝所で交わるのが落ち着くのかの?」

「夜伽!?」

「うむ? そのつもりで人間の姿にしたのではないか?」


 朧は、その眼で俺とメディを見比べて、


「その娘ッ子だけでは溢れる肉欲は満たせぬからと、新たな性の従僕を探していたのではないのかえ?」

「違うが!?」


 まあ、そりゃあメディとは何にもしてないし、溜まってはいるけども。朧のスタイルもそそられて仕方がないけれども――


 って、俺はまた自分で自分を追い込んでないか!?

 この2人と同居して、我慢しなきゃならないのか!?


 ……いや。

 朧はやる気満々だし、ヤっても問題ないのか……?


「ふぅむ? まあよい。取りあえずあるじ殿、そちらの草むらに行こうではないか。わらわは準備万端――」

「ちょ、ちょっと!?」

「だめ」


 俺の手が朧に引かれていくのを、メディが阻止した。


「なんじゃ? 娘ッ子よ。お主、元がどのようなモンスターか知らぬが……良いか、我らモンスターの世界は弱肉強食」


 朧は大げさな仕草で訴えかける。

 長身チャイナドレス美人お姉さんの姿になったから、自信に満ちたその所作はなかなか堂に入っている。


「メスが『強きオス』に惹かれるは必定! そしてあるじ殿はその頂点! まずは夜伽相手でも構わぬが、いずれは子種をいただき子を孕む」

「?」

「子づくりということじゃよ娘ッ子、お主がまだお手付きされておらぬのであれば、まずはわらわが頂こう」

「だめ。アルトさまはめでぃのアルトさま」


 譲らないメディ。俺の袖口をちょんとつまんでひっぱる。


 意外と独占欲が強いのか?

 というか意味分かってるのか?


「あるじ殿よ」


 朧が肩を組んできて、


「小娘は放っておいて大人の男と女で、めくるめく熱い時間を堪能しようではないか? わらわならば、とびきり甘く濃密な夢を味わわせて差し上げるぞ?」

「めでぃも! 甘くておいしい!」


 ギュッと右腕にしがみついてくるメディ。

 左からは朧の爆乳と蠱惑的な香り、右からはメディの巨乳と甘ったるい香り。


 ははーん?

 これはハーレムの匂いがするな?


 ……とか言ってる場合じゃない。

 これは、ダンジョンマスターを挟んで【神話級】と【白銀級】のつよつよモンスターが一触即発というシチュエーションだ。普通の人間が見たらガクガク震えて腰を抜かすレベル。


 そしてこれから一緒に過ごす仲間としては、2人にバチバチになられるのも困る。


「あのさ、朧」

「お? なんじゃあるじ殿、ようやくやる気になったかえ? やはり強いオスは強いメスを選ぶものじゃな。よいぞよいぞ、今夜は良い月、子作り日和じゃ!」

「――その『強さ』の話なんだけど」


 メディに子作りのなんたるかを教えるより、こっちを説き伏せたほうが早そうだ。

 どうも彼女は階級というか、強さにこだわりがあるようだし。


「メディは【神話級】だぞ」

「あるじ殿、冗談を。では一体なんのモンスターだと言うのじゃ。『めでぃ』などというモンスターは聞いたことがないぞ?」

「メデューサだよ。メディってのは俺が付けた名前だ。千年妖狐に朧って名付けたように」

「ほぉん、メデューサ…………、メデューサ!?!?」


 朧がバッと飛び退いて距離をとる。


「ま、まさかぁ……メデューサ殿といえばここよりずっと下、深層に棲まわれる、いと恐ろしき上位存在! あるじ殿を除けばこの迷宮内で最強の一角に数えられる――、え、えっ?」


 彼女はおそるおそる、メディのほうを凝視する。


「魔力は……人の姿をしておるから感知しづらい? し、しかしその金色(こんじき)の瞳は……ほ、ほぇっ!?」

「めでぃ、めでゅーさ。わんわん人間よりつよい」

「わんわんではなく狐……いやいや! えっ? ガチ?」


 俺は小刻みに頷いて、


「うん。ガチ」

「ほ、ほわぁあっ……!?」


 変な声を出したチャイナドレスお姉さんは、急に態度を変える。

 メディの足下へ、ズザザっとスライディングして縋りつく。


「め、めでぃ殿これは大変失礼を致した! メデューサのメディ殿と比べれば、わらわなど雑魚! 路傍の石にすら劣る卑しいメス狐です!!」

「……そこまでへりくだらなくても」

「いーやあるじ殿、序列は守られねばならぬ! 非礼はこの肉体をもって……ああっ、そうじゃ!」


 あろうことか朧は、地べたにゴロンと仰向けになってお腹を見せる。服従のポーズだ。


「わんわん」

「だな」


 チャイナドレスのスリットからは艶めかしい太ももが丸見えになっている。かなり際どいラインまで見えてしまっているが、下着はTバックなのでどこまでも肌色だ。


 せっかくの美貌を焦りと興奮で真っ赤に染め、頭のうえの獣耳をピコピコさせながら朧は、


「これ、このとおり!! わらわはメディ殿の下僕! そしてあるじ殿の玩具であるのじゃ!」

「俺が変態みたいじゃん」

「あるじ殿がどれだけ変態でも! わらわは受け入れてみせるっ!」

「だから話変わってきてるって」

「うー、ならめでぃも! アルトさま変態でいい!」

「話わかってる?」


 まあ、恐ろしいモンスターを2人も、美少女化&美女化させて侍らせている時点で変態か。いいけど。


「朧、俺たちの仲間になってくれるか? メディとも仲良く」

「むっ、無論っっ! 仲良くなどと恐れ多い! どうぞ足蹴にして、コキ使ってくだされ!」

「しないが。ほらメディも仲直り」

「……うん。わんわん、ごめん」

「ひぃ!? これまた恐れ多い! もう決してメディ殿のお邪魔はしませぬ! メディ殿があるじ殿の子を孕むまで、わらわは手出しせぬ! 御二方より許可が下りるまで、夜伽は控えまする……!」

「お、おう」


 ちょっと残念だったりはする。


「アルトさま……」

「な、なにっ?」


 邪念を勘づかれたのかとヒヤっとしたが、そうではなく、


「わんわん……朧もいっしょに住む?」

「ああ。そのつもりだけど」


 するとメディは、仰向けのままの朧の隣へしゃがみ込んで、お腹をナデナデし始めた。


「よろしく」

「おっ、おおお!? これは赦免のしるしですか!?」

「アルトさまも」

「俺の撫でるの? じゃあ――」


 チャイナドレスのお腹を、掌でナデナデ。つるりとした生地の手触りは上々だ。


「ほわーーーーっ!?!? あるじ殿まで! これは良い、これは良いぞえ!? わらわ、御二方のペットになるぅ!」


 ――ということで。

 キツネ耳チャイナドレス残念美人が新たな仲間に加わった。

 



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