第12話 あるじ殿の好きにして構わぬよ
新たな仲間をゲットするべく、俺とメディの『ダンジョンさんぽ』は下層部にまで進んだ。
ダンジョン探索だが、俺はダンジョンマスターだしメディはモンスターだし、敵なんか現れるわけがないし、トラップが発動することもない。
だから本当に『さんぽ』だ。
「アルトさま、どんな仲間つくる?」
「そうだな。目当ては【白銀級】だな」
メデューサのような【神話級】でもいいんだが、あまりに強すぎると人間の前に出たときに大きすぎる影響を及ぼしてしまうかもしれない。
かといって弱すぎても退治されるかもしれないし。
「下層なら、そのくらいのモンスターが居るだろうからな」
「呼べばくる?」
「支配者である俺が呼べば来るだろうけどな。こうして散策して回るのも乙なモンだし――」
下層部のこの一帯は、静かな森。
ダンジョン内は、階層ごとに、そしてエリアごとにも違う景色が広がっている。
地下なのにそよ風が吹き、木々の枝葉が音を立てる。そして昼間のはずなのに、わずかに見える夜空では霞がかった満月が明かりを灯していた。
――と。
「――――あるじ殿よ」
謎の声とともに、突風。
木々のあいだを何か巨大なものが縦横無尽に飛び回る。
ガサガサガサっ――、と、樹木をなぎ倒しそうな勢いでその巨大な白い物体が、俺たちの周囲に降り立った。
360度を、白い毛皮に囲まれる。
目の前には、やはり巨大な獣の顔。
「お前は……【千年妖狐】か」
「いかにも」
ゆったりとした口調。女性の声だ。その大きな白い狐は、口も開かず、脳内に直接語りかけてくる。
「あるじ殿よ。身近に仕える従僕を探しておるのかえ?」
フワフワの尻尾が、俺とメディを包み込む。
「くすぐったい! アルトさま、わんわん!」
「ワンワンじゃなくて狐だな」
モンスターの一種、妖狐。
純白の毛並みに強大な魔力。巨躯を活かした戦闘も得意だが、人間を惑わす幻惑系の魔法にも長けた【白銀級】の強者だ。
原作では、女冒険者たちを真正面から打ち倒すだけでなく、錯乱させて、みずからトラップへと足を運ぶように導いたりする。
「話を聞いてた、ってことは」
「うむ。何ならその従僕の役目、わらわに任せてみぬか?」
……トラップへの誘導の応用で、侵入者を追い出すのにも活躍させられそうだな。
戦闘力もちょうどいいし。
「いいのか? 俺の《キャラクターメイク》で人間の姿になってもらうことになるけど。まあ、デフォルトの姿は記憶されてるからいつでもデフォルトには戻れるけどさ」
「人の姿となり、人を惑わすもまた一興。あるじ殿の好きにして構わぬよ」
「――メディもいいか?」
「いい! わんわん人間!」
「狐な」「狐ぞ」
メディも喜んでるし、ならオッケーだな。
「そんじゃ始めるぞ。――《キャラクターメイク》」
空中にカーソルを出して、巨大な妖狐を人間にしていく。
メディのときと同じで、フィーリングで彼女のイメージを形にする。
ダンジョンマスターの俺とモンスターの彼女たちは魔力で繋がっているから、そこから彼女のことを感じるんだ。
出会ったこの辺が『夜』で固定されているので、そのイメージも含んだスタイルにしよう。
まず身長。
かなりの長身に設定。今の俺が175cmくらいで、彼女はそれと同じくらい。ヒールを履かせることで、俺を超える背丈になる。
服装は、ロングのチャイナドレス。
色は青。
深いスリットから、艶めかしい足がぬっと伸びる。
メディとは違うタイプだが、やはりメリハリのある肉体。
チャイナドレスの胸元は大ボリュームで、服には谷間が見える穴を開けておこう。
キュッと締まったウエスト、煽情的な臀部。
そして、そこから伸びるのは立派なフサフサ尻尾! 触ったらうっとりするほど気持ち良さそうだ。
……うん。体はこんなもんだな。
次。
髪は当然のように純白。ロングヘアー。
頭のうえの狐耳はマストで! これ、超大事! ピコピコ動くその様子に、メディも興味津々だ。
顔は、切れ長の超美人。
目元と唇にだけ薄いメイクが施された美貌。
「――どうじゃ、あるじ殿?」
彼女は自信に満ちあふれたような仕草で、白くて美しい長髪を見せつけ聞いてくる。
「ああ。最高――…………、いやッッ! ダメだッッッ!!!」
「えっ」
「たしかに美人だし、イメージにもピッタリだと思う!『夜の中華後宮に現れた妖狐』――みたいなっ!」
まあ、後宮でこんなエッチチャイナドレスは採用されないだろうけど。
「よ、よいではないか、それなら――」
「いいやッッ! 顎の角度がまだまだキミを再現できていないッ! 手足の長さももうちょっと――、眉毛っ! 眉毛も改良の余地ありっっッッ!」
キャラメイクは沼だ(以下略)――
- 2時間後 -
「あ、あるじ殿? たしかにより美しくはなった気がするが、わらわ、段々と疲れて」
「肩か? 肩の高さがおかしいのか!? 首の長さ……は、元のほうがいいッ!!」
「…………」
- 1時間後 -
「あ、あるじ殿? 目が、もとより赤かったあるじ殿の目が、もはやドス黒くなっておるが!?」
「まつげの本数っっっ! 小指ももっと細く! ふ、ふふふ、ふっふっふ!」
「そ、そこな娘ッ子!? 我らがあるじ殿は大丈夫なのか!?」
「だいじょぶ。アルトさま、いつもこう」
「っっっ!?」
- 2時間後 -
「アルトさま、えなどり」
「おうッ、サンキューなメディ! これでまだまだ戦えるッ!」
「~~~~っっ!?!?」
- さらに2時間後 -
「出来たッッ――!」
「ほ、本当か!? あるじ殿、今度こそ本当だなっ!?」
なぜか必死な様子の妖狐に、俺は答える。
「ああ! 体のほうは完璧だ! あとは顔の微調整だけっ!」
「お、おっふぅ…………」
なぜか彼女は、ちょっとだけ後悔しているような雰囲気だった。
なんでだ?
ま、いっか。続き続き、と――
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