6話 1章-3③ 2次試験~生きる意義はなんだ~
突如あらわれたサイモンとバンダナ男たちをなんとか倒し、ルイたち晴れやかな色を顔に浮かべ2次試験のゴールへ向かう準備をしていた。ルイたちの気持ちとは裏腹に、ザザザッと森はざわめき、空の光は少しずつ輝きを失っている。ルイたちがいざゴールに向かおうとしたとき、ドスン!えっ?。突然ルイたちの目の前に傷だらけの二人が投げ込まれた。ルイは目を見開き、ドクドクとした心臓の音を耳で感じた。投げ込まれたのは幼馴染みのレオだった。
「レオ!しっかりして!」と取り乱したようレオに駆け寄った。
「エマ!レオをそっちに連れて行って。」エマも落ち着きがない様子だ。
「こっちの人もひどい。」ルイは銀髪の少年に手を回しレオの横にそっと寝かせた。その時、森の奥から睨みを利かせた黒いロングベストを着た男がゆっくり歩いてきた。その男の目は力のある鋭い三白眼で身震いする威圧感を漂わせている。その男は倒れているサイモンとバンダナ男たちを担ぎ上げ、大木の下に座らせる。男はその場にしゃがみこみ、サイモンたちのほほをぺちぺちと軽く叩いた。
「うぉ!タクトさん!おれ・・・」サイモンたちは意識を取り戻し、おぼつかない目付きでぼーっとタクトを見つめた。タクトは淡々とした口調で語りかける。
「お前たちはもういい。帰っていろ」
「いや。まだおれたちは・・・」そうサイモンが反論すると猛獣のような目付きで彼らを睨みつけた。サイモンたちは身体を震わせ、顔つきが暗々となった。
「わかりました。すみません。」と力のない沈んだ声で答えた。
「ケガが治るまで今後の戦闘は禁止する。ゆっくり休め。」タクトは彼らに背中向け、そう語りかけた。サイモンたちはやるせなく肩を落とし、暗い森の中へと姿を眩ませた。
ルイたちがタクトから視線をはずせないでいると、グッとレオが苦しそうに声を漏らす。
「ルイ!レオが意識を取り戻したわ。」エマはホッと息をつき、ルイは急いで駆け寄った。
「お前たち・・・今すぐここから逃げろ。あいつはだめだ・・・」かなり呼吸が荒い。体中にアザが刻み込まれていた。
「レオをここまで追い込むなんて・・・。あの人は一体・・・」怪しげな不安が心から消えない。
蒼天だった空はいつのまにか墨のような黒雲が一面にあたりを閉ざす。
ルイたちがバンダナ男と戦っている頃、レオたちは他の志願者パーティと戦闘を始めるところであった。
「おいおい。願ってもねぇチャンスじゃねーか。今度こそてめぇをぶっ潰すぜ。サラサラ銀髪。」
レオの前には一次試験の時にレオを吹き飛ばしたあの少年がいた。髪の隙間見える空色の瞳はその綺麗な色に反し、燃えるような憎悪を感じさせる。その殺気だった目は見た目ほどの圧力を受けない。
「こら!その人の名前はリュウだ!そういう汚い言葉遣いはやめろといっているだろ。レオくん。」
「うるせぇ!坊ちゃんはそっちやっときな。」レオの言うぼっちゃんとはロイのことだ。二次試験の説明の時に、真っすぐと手を上げハンナに質問をしていた少年だ。その前にはガルという頑丈で意思の強い目鼻立ちの少年と、愛らしいぱっちりとした二重のエミリという少女が剣を構えている。
「ルナ君!君はそんなとこでぼーっとしてないでちょっとこっち手伝ってもらえないか!」と少し取り乱すように頼み込む先には紫紺の瞳の少女がちょこんと木の下に座り込んでいた。
「うーん。ちょっと無理かも。疲れた。」とジトーッとぼんやりとあたりを眺め、覇気のないささやくような声で答える。
「まだなにもしてないじゃないか!」とロイは焦りを感じるに太い声を張る。
「エミリ。一旦待っててもらえるか。相手は一人だからよ。サシでやりてぇ。」ガルは一旦剣の構えを解き、胸を張った。
「えぇぇ。二人で戦えば絶対勝てるのにー。じゃあエミは・・・」と口を尖らし振動数の多そう声を出すと百郡色の髪をなびかせてルナの横に座った。
「なに?せっかく有利なのに戦わなくていいの?」
「いいのいいの。エミはここで見物するの。男って馬鹿よねー。」と両手で頬杖をつき、のんびりロイとガルの勝負を見守ることにした。
ロイとガルが攻防を繰り返している中、レオとリュウの戦闘も始まろうとしていた。
レオが剣を高く掲げ上段の構えを取ると、リュウは剣先を相手の向け霞の構えを取る。じりじりとお互い距離を詰める。
「うらぁぁ!」レオは地面勢いよく剣を振り下ろす。
リュウはガードする姿勢をとる。
レオの剣が空を切る。わざとだ。
レオは振り下ろした剣を身体の側面に移動させ、「おらぁぁ!」と声を張り上げ水平に切りかかった。
ガキン!金属が激しくぶつかり合う。
レオの一撃は防がれた。
しかし、相手の顔に歪みが見える。体勢が崩れた。
「ここだ!」
と下から剣を振り上げる。相手は崩れた体勢から力任せに剣を振り下ろす。
ガキャン!
レオは相手の一撃をはじき返した。相手の身体がのけ反る。
すかさずリュウの懐に潜り込み。地面に手をつき下あごを蹴り上げ。
相手の身体が宙を舞う。
「とどめだ!」と剣を穿つ。
しかし、ぎりぎりのところでかわされた。決着は着かず。
端正な顔立ちは歪み、息が荒いリュウに対し、レオは表情を変えずリュウを睨み付ける。レオはフンと鼻から息をこばすとニヤッと口角をあげた。
「やっぱりお前。太刀筋に迷いがあるな。思春期真っ只中か?あぁ!?」と剣でトントンと肩を叩きながら言った。リュウの剣を握る手にグッと力が入る。
「そんなもんかてめぇは。そんなんじゃ俺様には絶対勝てねぇぞ。」レオが見下すような態度を取る。リュウは力の入っていた手をフッと緩め、深く息を吸い込んだ。身体にたまった鬱憤を散らすように息を吐く。その時、リュウを取り巻く空気が変わる。ピリッとした空気。そして、身体を揺らし始めた。
ーさて、ここからだ。ーレオはわざと挑発し、リュウの技を受けきろうと考えていた。リュウの身体の揺れが小さくなっていく。
ーくるー
ドパン!
リュウは飛ぶように速くレオとの距離を詰める。
ガキン!
剣を押し込むがレオに受け止められる。しかし、勢いを止めず後ろに押し込んでいく。
前はこのまま吹き飛ばせた。しかし、勢いが止まる。
「負けるか!」レオは全身に力を入れリュウの剣を弾いた。
「「うらぁぁ!おれの勝ちだ!」と勝利を確信していると、背中に冷たい汗を感じる。
リュウはすでに次の攻撃の構えをしていた。相手の空色の瞳がキラリと光る。
「やべぇ」
ドパン!という音が後ろから聞こえ、周囲に砂煙が舞う。
レオの目の前にはさっきまで木の下で座っていたルナがリュウの剣を受け止めていた。リュウに頭を殴られたようなショックが身体を貫く。一旦距離を取った。
「て、てめぇ。邪魔すんじゃねぇ!」とレオがルナに怒号を浴びせる。
「君に聞きたいことある。」とルナがリュウに問いかけると間髪入れず「無視すんじゃねぇ!」とレオが叫んだ。ルナは日焼けを嫌がるような白い指で握った剣をリョウに向けた。
「天ノ神空流剣体術・・・なんで君がそれ使えるの?」ルナは表情を変えずにリュウに尋ねる。するとリュウの視界が揺れ、身体が震える。顔に手を当て指の隙間から充血する目でルナを睨み付ける。憎悪と怒りの膿がこぼれる。
「俺の前でそれを口にするな。」憎悪を押し殺すような低い声だ。
「お前こそなんで。それを知っているのは俺ともう一人だけのはずだ。」リョウは息が荒くなりながら答えた。
「そいつのことを知ってるのか?知ってるなら居場所を教えろ。今すぐに殺しいく。」ルナの紫がかった銀髪が揺れ、紫紺の瞳に力が入る。
「君の言ってる人が誰かは知らないけど、もしリョウのことだったら私が君を止める。」次の瞬間、リョウとルナがが激しい攻撃を繰り出す。
「お前のことはどうでもいい。あいつに関する情報を教えろ。」
「いやだね。私君のこと嫌いになったから。」二人の剣と髪に反射する光。その戦いはまるで流れ星の衝突に感じられた。
そんなレオはポツンと1人寂しく立っていた。苛立たしさが全身に広がる。最初は身体を震わせていたものの徐々に力が抜けていく。レオはとぼとぼとエミリのところに歩いていき
「おい。お前は戦う気あるか?」と力のない声をかける。
「えぇー。エミ?もし君が戦いなら付き合ってあげてもいいけどー?」しゃがみこんでいるエミリはニヤニヤしながら八重歯を見せる。ハァーッと息を吐き、ふて腐ったようにドスンとその場に座り込んだ。
「いじけちゃってー。かわいいなぁ」エミリがレオの頭を触ろうとすると
「触んなブス。」と無造作にエミリの手を払った。エミリはスッと立ち上がり、静かに剣を抜く。
「だぁぁ!」と高く声を張り、レオに切りかかった。
「女性に向かってブスだなんて!こちとらどれだけ美貌に気を使ってるのか知らねーだろ!」
ブスはエミリの逆鱗に触れたようだ。エミリが戦う気になりレオの下がっていた口角が上に上がる。
「おうおう!その美貌とやらのためになにしてんのか思う存分聞いてやるよ!」と息を吹き返したように楽しそうに戦う。
リュウの憎悪と怒りで荒くなっていた息は徐々に呼吸回復していた。それに対し、ルナの息使いが荒くなる。
「お前・・・使いこなせてないな。やっぱりあいつゴミだな。」と嘲笑うかのような態度を示す。
「私のことはいいけど、リョウの悪口は許さないよ。」眉間に皺をよせ、再びリュウに攻撃を繰り出した。
彼らの戦いであたりに砂埃が舞い、金属音が絶え間なく響いている。今だ勝敗がどちらに傾くはわからない。その時。
突如、彼らに身の毛のよだつような威圧感が襲う。ピタッと全員動きが止まる。
「おい。全員止まれ。」と低く腹のそこからなにかが沸き上がってくるような声が聞こえる。全員の視線が声の方向に集まった。
「遊んでるとこ悪いが、話に付き合ってもらおう。」そこには彫りの深い凄みのある面構えの男が仁王立ちしていた。男の威圧感を前に立ちすくむレオたち。さっきまでの激しい戦闘音が嘘のように沈黙が流れる。そのとき、ガルが沈黙を破るように引きつった顔と震えた声で
「おっさん!俺たちは真剣勝負してんだぜ!邪魔しちゃだめだろ!」と言いながら男にいかり肩で近づいていく。
「バカ!そいつに近づくな!」とレオは声を荒げる。ガルは「えっ?」と振り向き男から目線を外してしまった。男はガルの鳩尾に一撃入れた。ガルは壊れた機械人形のようにドスンッと地面に倒れた。その後、全員に一撃ずつ加えていった。レオとリュウだけはなんとか防いだが、ルイ、ロイ、エミリは意識を飛ばされてしまった。レオとリュウは全身が硬直し、只者でないこの男から目を離せなかった。
「お前たち二人以外に用はない。いくつか質問をしよう。」
「お前たちが生きる意義はなんだ?」と男は淡々とした口調であった。質問よりも男の凄みに圧倒され、レオとリュウは背中に冷たい汗をにじませる。少し沈黙があった後、それぞれ口を開いた。
「この世で一番強くなるため。」
「殺したい男がいる。その男を殺すためだ。」レオとリュウは簡潔に答えそれ以上は語らなかった。二人が答えると、男の眉間に皺が深くなった。
「ではなぜハンターになりたい。」凄みにあるキリッとした三白眼が二人をじっと見つめる。
レオは無理矢理口角をあげ「たくさん戦えるからな。強くなるには手っ取り早い。」と声を張った。
「別にそんなことはどうでもいい。近道だと思ったからだ。」リュウは以前表情を変えずにいた。
男の表情は依然として変わらないが、目をゆっくり閉じる。
「それでは最後の質問だ・・・」そして目を開けた。
「おれと一緒に来ればそれらを叶えられると言ったら?」というと次の瞬間「断る!」と二人が同時に答えた。
「てめぇの力なんざぁ借りなくても俺様は世界最強になる。消えろ。おっさん。」
「これはおれの復讐だ。誰一人として関与させない。目障りだ。」
二人は男の威圧感を振りほどくように身体を動かしそれぞれ剣を構えた。男は軽く鼻から息を吐くと重心を少し落とし、拳を構えた。
「まぁいい。お前たちはどうせ俺の所にくる。」
「だから力ずくでつれていく。」
男がそう言い残すと、重々しい響きとともに森を揺るがす衝撃が木々を揺らした。
光が閉ざされた空の下で呆然とタクトを眺める。木々の隙間から吹く風は生ぬるいが、冷たい汗が止まらない。
「全員構えろ。」と威圧感が周囲に伝染すると、全員が一斉に構えを取る。いや、構えをとらされた。構えをとらなければ命が危ない。本能がそうさせた。
タクトは疾風のごとく攻撃を繰り返すとほぼ全員意識を飛ばされた。ラズは鳩尾に、エマとリリーは頸椎に攻撃を食らった、ルイとミアはなんとか攻撃をガードしたがケイは攻撃を受けきれず茂みに吹き飛ばされてしまった。
「残ったのは三人。いや二人だけか・・・。お前たちに質問をする。嘘偽りなく答えろ。」と変わらず低く凄みのある声で問いかけた。
ルイはごくりと息をのむ。この男の招待はなんなのか。何のためにここにいるのか。さまざまな憶測が頭の中を駆け巡る。
「お前たちはなぜ生きる。生きる意義はなんだ?」
ルイとミアは今なぜそのようなことを聞かれているのか意味が分からず少し面食らった。予想外の質問に一瞬頭が真っ白になる。
「聞こえなかったのか?答えろ。」タクトの睨みが強くなる。ルイはタクトの鋭く見つめる瞳野中にどこか悲しさや憤りを感じた。
ルイとミアは互いに目を合わせコクりとうなずいた。
「獣人と人間が手を取り合える世の中にしたいから。」
「NOVAになるため。それが僕の生きる意義だ。」
ルイが答えるとタクトの威圧感が増した。一瞬だけ額の血管が浮き彫りになる。タクトは我を落ち着かせるように軽く呼吸をし、
「・・・。ではなぜハンターになりたい?」と再び淡々とした口調で問うた。
ミアは一歩前にでて、胸を張った。
「最初はハンターになって功績をあげれば獣人を認めてくれると思った。今もその気持ちは少しはある。けどそれだけじゃない・・・」
「今は昔のアタシみたいな1人で抱え込む人の助けになりたい。だからハンターになるんだ。」
「昔、僕がモンスターの襲われたとき、ハンターが助けてくれた。小さくて力もない僕の命を救ってくれた。その時からハンターに憧れた。だからこそ僕はそのハンターの頂点であるNOVAになるんだ!」ルイの若い芽のような目は真っ直ぐに明るい未来を見据えている。若く青い芽はやがてシンボルのような皆が見上げる大木へと育っていく。そう、狩られなければ。
「お前は不合格だ。」とルイを指さす。タクトは恨みを込めた燃えるのような視線を浴びせる。
「ハンターは憧れられるような仕事じゃない。きたない仕事もやることも多い。お前は幻想を抱きすぎだ。」
「それにNOVAか。NOVAなんてもんには誰かを救う力なんてない。今すぐその意義を捨てろ。」タクトは一瞬だけ沈んだ目をしていた。なにかを諭すように力強くルイに訴えかける。
「本当にそれだけがお前の生きる道なのか?」と熱心な瞳を注ぐと、スッと手を差し出した。
「おれのところにこい。そうすれば俺がお前の生きる意義を形作ってやる。」タクトの声にはなぜかわからないがどこか説得力を感じさせた。ルイは自分の夢を否定されたこと、ハンターに対する憧れ、タクトの言葉の重みに思考の糸ががんじがらめになっていた。頭の中は真っ白だ。剣を握っていた手の力は緩み剣先が地面にお辞儀をする。
「ルイ?」ルイがタクトに向かって一歩踏み出したことでミアは驚きのあまり言葉が出てこない。
「ルイ!!」レオの怒号が森に響き渡る。レイは息も絶え絶えになりながらルイの背中に語りかけた。
「待て・・・生きる意義なんてそんな簡単に見えるものじゃねぇ。だからそんなことは後で考えろ。」
「NOVAになりたいってお前が感じている。それが一番大事だろ。あいつにどんな事情があるのかはしらねぇ。でもお前には関係ない。」
「あとなぁ…どこの馬の骨かもわからねぇ…人の生き方を否定するようなやつのところに行きやがったら…おれがお前をぶちころすぞ。」
レオの言葉に胸が熱くなる。一瞬でも自分の夢が揺らいだことに歯がゆい気持ちを抱くも、レオのような幼馴染みがいる自分が少し誇らしくなった。絡まっていた思考の糸はレオの言葉でズバッと切られた。ルイの表情に赤みが戻り、瞳には万緑の輝きが見える。
タクトは表情を変えぬまま冷たい目をしていたが、その瞳の奥には燃え上がるような熱を感じさせる。タクトは重心を少し落とし
「どうでもいい。おれはお前らを連れていく。それだけだ。」とぶつけるように言い放ち剣を抜くとまるで猛獣が獲物に襲いかかるように一気に距離を詰める。
タクトの攻撃を身体に全身全霊の力を込め、後ずさりしながらもルイは受け止めた。
ーなんて重い一撃だー 身体を震す。
少しずつタクトの剣がルイに近づいてく。ルイの視界には映るタクトはまるで鬼のような凄みを感じられる。
こらえきれず、剣を受け流そうとする。
しかし、相手がそうさせてくれない。タクトは逃がそうとする方向に瞬時に身体を入れ替える。
力比べの再開。
「逃げるな!」とタクトは活をいれるような厳しい口調を放つ。
ールイ1人で戦わせるわけにはいかないー ミアが一歩踏み出そうとすると、
「そこを動くな!今はおれとこいつの戦いだ。部外者はひっこんでいろ!」今まで淡々と語り感情を見せなかったタクトの猛獣のような怒号が響く。ミアの表情が険しくなる。
「そんなもんか。見習いハンター」
ルイは顔に似合わない唸り声をあげた。
渾身の力でタクトの剣を押し返す。力の入れすぎで目は充血してた。
その時、急に剣が軽くなり前につんのめった。剣はザッと地面を切りつける。
目の前にいたタクトがすでに剣の間合いから外れていた。
ルイは剣を構え直す。息を整えるために激しく呼吸した。タクトは動かなかったが、それはルイの回復を待っているように感じられる。
深呼吸!
最後に息を大きく吸い、ゆっくり息を吐き目の前のタクトに力のある眼差しを向ける。ルイの手にギュッと力が入る。
目の前にいたタクトが稲妻のようなスピードでルイに連続攻撃を食らわす。
キン!キン!と連続して鳴る金属音
ルイが必死にタクトの攻撃を防ぐ。急所は防げているが、手足に傷が入る。
防戦一方。
タクトの剣がルイの背中をとらえる。
「グァッ!」とルイは顔を歪める。
遂にルイはガクッと膝をついてしまった。呼吸は荒れ、額には汗がにじんでいるルイに対し、タクトは息も乱れず、疲れている様子はみられない。
ーここまで力の差があるのか。この人は何者なんだー と少し虚ろな目でタクトを見つめる。
「最後だ。お前の渾身の一撃をおれに打ってこい。殺す気でこいよ。」タクトは半身になり重心を少し落とした。
ルイは膝を手で押し上げ、再び身体を起こす。次の瞬間、
地面を強く蹴り空高く飛び上がった。
「うぉぉぉ!」
渾身の一撃!
大声を張り上げ、すべての力を使い剣を振り下ろした。
次の瞬間ルイはエッと自失な声をあげた。素手で剣を受けた。ルイの渾身の一撃をタクトの手の中で止まっていた。思考が止まり、あたりがスローモーションのように映る。あっけにとられ目が点になっていると、
ドン!
顔面に強い衝撃が加わる。ルイはわけがわからないまま、すごいスピードで木に衝突した。呻き声もでない。身体に力が入らず、曇り空を眺めることしかできなかった。
タクトは握っていた拳を緩めた。仰向けに倒れているルイに対し
「お前はおれのところにくるべきだ。お前の生きる意義を見つけてやる。」と淡々とした口調に戻る。ハッハッとただ短い呼吸を繰り返すだけのルイの耳にはなにも入ってこなかった。
ー許さないー ルイがただ蹂躙されている様を見ているしかできなかったミアは今にも獲物に飛びかかる獣のようだ。ドクドクと心臓の音が聞こえ、細い髪が逆立つような怒りを抱いた。タクトは横目でミアを見て「次はお前だ。」と言った。
身体をミアの方に向け、身体の前でゆっくりと腕を組む。
「抱いているものは悪くないが・・・まだ力が足りない。俺が手伝ってやろう。」ルイの時と同様に真剣な目差しで見つめ、手を差し出した。
ミアはギリッと歯ぎしりをすると、
「あなたなんかに力を借りる必要はない!」とタクトを拒絶するように大きく強く腕を振った。
剣先をスッとタクトに向け
「テルメオ」と唱えた。切り裂くような空気と目をつむりそうな橙色の光がミアを包んでいく。空気がパンッと散乱すると、サイモンを倒したあの勇ましく可憐な姿に変わった。ミアは両手に握られた片刃剣をグッと握りしめ、構えをとる。
サイモンが好奇心で目を輝かせていたのに対し、タクトは表情を変えず平然としている。
「あの光はお前だったか。」と落ち着いた声を出すと半身になり、剣を構えた。
疾風のごとく距離を詰める。
攻撃を悟られないように俊敏に左右へ飛ぶ。
二連撃!
勢いを殺さぬまま、身体を軸に回転させタクトへ攻撃を繰り出す。
キン!キン!
左右の攻撃は防がれた。
すぐさま、タクトの視界から消え背後に回り込む。
切り上げからの切り下げ!
足に力を溜め、両手の剣を振り上げ、その後上から剣を振り下ろした。
またも二回金属音が聞こえる。ミアの連撃はまたも防いだ。
クッと声をこぼす。
次の瞬間、タクトの剣が大地を切り裂きながら迫ってくる。
両手の剣を交差させ、一瞬攻撃を受け止めると後ろに飛んだ。身体にダメージが残らないように衝撃を吸収したのだ。後ろに飛んだミアはしなやかにバク転をしながら距離をとった。
すさまじい攻防を繰り広げたが、両者ともに息の乱れはみられない。互いに交差する視線に力が入る。タクトは身体の力を抜き、構えを解いた。
「まだ不完全だな。今からその先を見せてやる。」タクトは構え直した。今までオーソドックスな中段で構えていたが、刀身を顔の前に置く独特な構え。次の瞬間、空がゴロゴロと鳴いた。ミアが空を見上げる。森を覆う大きく暗い雲の中でこの場所の上だけピシャッと雷が見える。
ーなにが起こるのー ミアは嵐のように激しく動揺し、。タクトが口を開く。
「怒り轟け。ヴァンガルド」
森全体に狼の遠吠えのような音が響き渡る。ミアの背中が震え、瞳が揺れる。視線の先には、青白い雷がモンスターの形を作っていた。それは身の毛がよだつ大きな狼の顔をしていた。その雷は獰猛な唸り声をあげ、タクトの剣を目掛けて降り注いだ。稲妻があたりを光らせる。青白い閃光と大気を震わせる衝撃でミアは目を開けていられなかった。あたりに沈黙が漂う。ミアがゆっくり目を開けタクトを見た。剣はタクトの身体の大きさほどの大剣に変わり、その刀身にはビリッビリッと雷をまとっている。
ミアは目の前に光景に息が詰まり総毛が逆立つおもい。五感すべてがーこれはやばいーと訴えてくる。心臓が激しく波打つ。
「どうした。来ないのか。」とタクトは静かな声で語りかける。大剣をブンッと大きく振る。
「いくぞ。」
タクトの重く激しい攻撃。回避を続けるミアをタクトは逃がさない。
徐々にミアを追い詰めていく。
タクトは身体の横で力を溜める。
大剣を横に振り抜いた。木々がスパッと切れ、大きな音を立て地面に倒れこんだ。ミアは寸前のところで体勢を低くし、転がりながら窮地を脱出した。
「逃げるだけでは勝てないぞ」とタクトは剣を振り上げる。
一瞬で距離を詰め、力のこもった重い一撃をミアに放つ。
ヒラリと躱すミア。
その時、雷撃をミアが襲う。タクトが振り下ろした大剣から雷が放たれた。
「ぐぁぁぁ」とミアは悲痛な声を漏らす。ー身体が動かない・・・ー タクトはすでに剣を振りかぶっていた。命を狩る一撃がミアに迫る。大地を割る衝撃。ミアは無理矢理身体を動かし両手の剣でタクトの一撃をガードした。しかし、そのまま大剣でつぶされてしまい気を失った。
戦いの後は凄まじい光景であった。地面にはクレーターのような跡がいくつもある。タクトはミアをじっと見下している。大剣にまとっていた雷がカッと光を発すると元の剣に戻った。
「お前たちを連れていく。おとなしくしていろ。」その時、ルイがフラフラッと力なく立ち上がった。
「まだやるのか。これ以上やるなら命のやり取りになるぞ。」と冷酷な光を目から射出す。
「お前は人を何だと思っている。生きるの意義なんて自分で決める!誰が無理と言おうと僕はNOVAなってみせる。」グッと奥歯を噛み締め、気持ちが沈むのを必死に絶えていた。そして剣を構える。
「お前は・・・そのうち死ぬぞ。」
「干渉される義理もない。」
ルイは無理矢理剣を振るった。自分の夢を否定されたこと、友人を痛みつけられたこと、力の差を見せつけられたこと。そのすべてに憤りを感じていた。「うぉぉぉ!」と声を張ると緑色の閃光が大地を覆った。
ーきた。これで僕の勝ちだ!ー ルイは心の中で勝利を確信した。強化バグベア、バンダナ男たちの動きを止めたあの閃光。ピンチを救う希望の光だ。「ここだ!」と最後の力を振り絞り剣を横に振り抜くが手応えがなかった。ルイは絶望で身体が冷たくなっていくのを感じる。タクトの動きは止まっておらず、タクトは宙を舞っていた。この後には決まってダメージがルイを襲う。苦しむルイを横目にタクトは冷ややかな能面のような顔をする。
「気が変わった。お前は今ここで潰しておく。悪く思うなよ。」そこからむき出しの暴力が牙を剥く。鈍く低い音が幾度もなく聞こえる。タクトがルイを蹂躙する。
「やめろ!頼む。どこへでもいくから。やめてくれ」レオはルイとミアの戦いの一部始終を見ていた。しかし、理不尽な暴力によりぼろ雑巾のようになっていく幼馴染みをもう見ていられなかった。なにもできなかった自分への戒めはこれ以上ルイを痛め付けさせないことだけだと感じていた。
ルイはうつ伏せに倒れこみ辛うじて指先だけ動いている。
「これで終わりだ。こいつにはもう剣を持たせない。」と極めて冷酷に言い捨てると膝を高くあげ、ルイの腕を踏み抜いた。ゴシャッと骨が折れる。
「うわぁぁぁぁ!」というルイの悲痛に叫ぶ。タクトはもう一度膝を上げ、もう一方の腕も踏み抜いた。ルイの腕は完全に粉砕された。猛烈な痛みでルイはそのまま気を失った。