2話 1章-1 ハンター試験開催
世の中は残酷だ。幸せだった時間を奪われ、理不尽に押しつぶされる。どうしようもない世界でも生きていかなくてはならない。そんな混沌の世界で唯一の希望は心だ。真に心を感じるためには愛が不可欠だ。みんなは真に心を感じたことがあるだろうか。そしてその心の感じたままに動けているだろうか。この物語は僕ルイが「目を背けたい絶望」や「世界の呪縛」を仲間と共に乗り越え、最高のNo1ハンターNOVAになる物語だ。
あたりが炎に包まれる。建物が崩れ落ち、瓦礫がふわふわと浮いたりしている不思議な空間。
ーまたこの夢かー
ルイは物憂げな眼差しで一点をぼーっと眺め、吐息交じりに呟いた。目の前に筋肉質な男が地面に倒れこんでいる。苦しそうに体を震わせながら
「あいつを・・・今度こそ殺してやる。だから・・・早くそれをよこせ」
と掠れた声で呻いた。手を震わし必死に手を伸ばす。しかし、その手はルイには届かず、弱弱しく地面を叩いた。ルイは膝を抱え、はぁっとため息をこぼす。
ー気分悪いんだよな。この夢ー
気の抜けた顔でぼんやり遠くを眺めていると徐々に物の輪郭が溶けていく。倒れこむ男、地面、建物、炎、空。すべてがぐにゃぐにゃと入り混じり区別がつかない。視界に入ってくるのは色が渦を巻いて混ざり合うマーブル模様。まるで水に絵の具を垂らしたかのようだ。次第に重力がなくなったように身体が宙に浮き、全身の力が抜けていく。
ー気持ち悪いー
ルイは生気の抜けた顔でふわふわと漂っている。ここには上も下も右も左もない。ただ空間と自分が存在しているだけ。
ー早く終わってくれー
しばらく漂っていると、仄白い光がルイを包み込む。気味の悪い浮遊感はなくなり、身体に真っすぐという感覚が戻ってきた。微かに口が開き、瞳を揺らす。その時、目の前に女性が現れた。神々しく柔らかな雰囲気。顔のあたりがぼやけていて誰かは分からない。その女性はスーッと近寄ってきてルイにそっと抱擁する。不思議と抵抗感はない。
ーあぁ。温かい・・・ー
瞼が自然と閉じていく。
「あなたはあなたの生きたいように。心のままに生きて」
と撫でるように温和な声で囁く。
ー心のままってなんなんだろうー
ルイの意識は徐々に薄れていった。
まだ朝日が薄く顔を見せる時間。外から鳥のさえずりが聞こえる。目が覚め、体を起こすと一筋の涙がルイのほほを静かに伝った。街は静寂に包まれ、遠くの建物はぼやけている。ベットから降り、ゆったりとした足取りで洗面所に向かう。あどけなさの残る顔を洗い、少し癖のある柔らかな蒼黒の髪をくしでとかす。透き通った瞳には壮大な夢見ているような若い息吹が芽生えている。てくてく歩いて部屋に戻ると、明るい顔つきで身支度を始めた。すると朝日がゆっくりと昇り、世界を輝かせる。明るさが訪れ、町の輪郭がはっきりとしてきた。
フードのついた深緑色のハンターコートを羽織り、茶色のブーツの紐をキュッと固く結ぶ。不安とわくわくが交じり合った不思議な気持ち。
ーとうとうこの日がきた。今日が夢の第一歩だー
ルイは強く、大きく一歩を踏み出す。そして、ハンター試験会場へと足を進めた。ふわふわと浮いていた足。歩くたびに地面をかみしめていく。徐々に鼓動が激しくなる。ルイは自分でも気づかぬうちに走っていた。
ー絶対にNOVAになるんだー
ハンターは総合評価によりランクが付与される。下からIRON、SILVER、GOLD、CHALLENGER、MASTER、NOVA。NOVAとはハンターであれば誰しも憧れる存在。全ハンターの中で1人しか付与されない称号である。
ーみんなで一緒に試験合格できるといいなー
毎年この日に子供たちがハンターになることを夢見て試験に挑む。ルイの村からは幼馴染のレオとエマがともに試験を受ける。
レオは子供らしからぬ鋭さを感じさせる顔立ち。切れ長の大きな瞳は何とも言えない圧を感じる。プライドの高い性格は負けず嫌いと向上心の表れだろう。ルイとレオは気づいた時にはライバルだった。
エマは人形のように整ったかわいらしい顔立ち。ガラスのような丸くて大きな桃色の瞳はいかにも女の子らしい印象だ。しかし、男勝りな一面もある。レオの暴走をエマが注意し、喧嘩が始まる。これがいつもの展開。ルイとレオが喧嘩をした時は、エマが拳で二人を鎮圧する。やり方には些か疑問はあるが、エマの厳しくも温かく優しい性格のおかげで三人は仲良しでいられている。
ルイの呼吸が激しくなる。額に汗が滲む。
ーやばい。ペース配分間違えたー
ルイは一旦足を止めた。膝に手を当て、はぁっはぁっと浅い呼吸を繰り返す。そして、息を深く吸い、ゆっくりと長く空気を吐いた。胸に手を当てると、バクン。バクン。心臓が強く鼓動している。額にかいた汗をグイッと拭い、焦らないように再び歩き始めた。
ルイは道中、昔のことを思い出していた。僕たちがまだ小さかったころ。村の大人たちの忠告を無視し、夜の森に遊びに行ってしまった。子供ながらの好奇心。
森は薄暗く、月に照らされた木々の影が不気味に揺れていた。
「レオ!あんたがどんどん森の奥に入っちゃったからこんなことになったんでしょうが!」
とエマがまくし立てるように声を上げた。レオは不機嫌そうにしゃがみ込み
「うるせぇ!お前だって乗り気だったじゃねーか。」と口を尖らせ反論した。
ーまた始まったー
ルイは鼻からため息をこぼす。頬杖を突き、二人の喧嘩を終始ながめている。
すると不意に水を浴びたような寒気を感じた。胸騒ぎがする。
「ルイ!レオになんとかいってやってよ。」
エマの声はルイには届かない。ルイは目を凝らし、周囲をきょろきょろと警戒した。怪しげな不安が胸から消えない。
「二人とも静かに。ひとまず、朝まで下手に動かない方がいいよ。」
声よりも息に近い声。
「へっ!なにびびってんだよ。」
レオは胸を張り、得意げに顎を上げる。
「俺がいれば、モンスターなんて一瞬で・・・」
ガサガサっ!
「危ない!」
木の陰から何かが、ルイたちに向かって飛びかかってきた。
ルイは決死の思いで、レオとエマを抱え倒れこんだ。ルイは急いで首を振り向いた。目に映ったのは小型モンスターのドックウォッチャー。グルルルルと低いうなり声。発達した顎と凶暴な牙。
一対一であれば武装した大人のハンターなら討伐可能だ。しかし、今は武器もない子供が三人。ドックウォッチャーの格好のエサだ。
「不意打ちしてくる犬っころ一匹じゃねーか。びびって損したぜ」
額には汗をかき、かすかに足が震えている。レオは強がっているだけだ。
「違う。すぐ近くに群れがいるはず。」
ルイの声に焦燥感が溢れる。エマは後ろでぶるぶると震えていた。
ドックウォッチャーは群れで狩りをする。そのため、油断したソロハンターがやられてしまう事件が後を絶たない。
闇の中にいくつもの赤い目がぎらりと光る。ドックウォッチャーの群れが3人をじりじりと追い詰めていく。
ドックウォッチャーが唸り声を上げると、一斉に飛びかかってきた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
ルイたちはぎゅっと目を瞑り、互いを抱きしめた。
その時、キャウン!という獣の悲痛の叫びがいくつも聞こえた。
身体が震えている。重い瞼をゆっくりと開け、後ろを振り返る。そこには、若いハンターが美しく月夜に照らされていた。ふと下を見ると、ドックウォッチャーの群れが全滅。ルイたちは命を救われた。
ルイはまだ震えている足に必死に力をいれたが、うまく立ち上がれない。
「あの・・・ありが・・・」
体勢が崩れながらお礼を言おうとしたその時。
「おーい!お前ら!無事かー!」
村の大人たちが慌てふためきながら、全速力でルイたちのもとへ駆け寄ってきた。瞬く間に大人たちに囲まれたので、お礼は言えず。騒いでいる大人たちの隙間を覗くと、そのハンターと目があった。静かに光り輝くような瞳。ルイが会釈をすると、そのハンターも会釈を返してくれた。その後、ルイたちは森を抜け、村に帰ると大人たちからこっぴどくしかられた。
―ハンターになりたい。そう思ったのはあの時からだー
ルイは笑みを浮かべ、鞄の紐をキュッと握りしめる。
ーあの人よりも強くなりたい!そして僕はNOVAになるんだ!ー
感傷に浸りながら歩いていると「うぉぉぉ」と暗い路地裏からうめき声が聞こえる。ルイは不気味に思うも、その声が気になる。路地裏に入ると大きな箱があったので、隠れながらそーっとを覗いた。
「ぐぉぉぉ。やばい。気持ち悪い...死ぬ……」
赤いロングヘアの女性がすべての力を使い切ったかのように、背中を壁に預け地面に転がっていた。髪はぼさぼさ。手にはウイスキー酒瓶をもっている。息をひそめジーっと見ていると、女性はギョロッとルイの方を向いた。水色の瞳が怪しげに光る。
「ひぃぃッ!」
ルイは思わず吃驚し、悲鳴をあげた。蛇に睨まれた蛙の気持ち。女性がだらりと上げた手でルイを手招く。ルイは息を呑みながら、用心深く一歩一歩女性に近づいた。
「なんでしょう。僕お金とかもってないですよ。」
ルイの瞳は揺れ、声が少し震えている。女性は大きく手を横に振る。
「違う違う。取って食おうってわけじゃないんだ。坊や・・・悪いけど水を持ってきてくれないか。」
女性の声はひどく掠れていて活力を感じなかった。
ー何か嫌なことでもあったんだな。大人って大変だー
このまま放っておけない。近くにあった時計を見ると集合時間までまだ二時間以上がある。
「わかりました!お姉さんそこに座っていてください。」
ルイは軽やかな足取りで表の通りに走り出した。
試験の集合時間三十分前 試験会場には多くの志願者たちが集まっている。
エマは絹のように細い髪をなびかせ、会場に到着。入り口の近くに目つきの悪い少年を見つけると弾むような足取りで駆け寄った。
「あれ?レオだけ??ルイは?」
と首を少し傾げ、ものめずらしげな顔をした。
「あぁ?知らねぇよ。どっかで油売ってんだろ。」
エマは白い刺繍の入ったおしゃれなピンク色のケープ、頭にはかわいらしい花のアクセサリーをついている。昔と比べてほんの少しだけ女の子になったような気がする。レオは黄色のハンターコートを着て、黒いブーツを履いている。エマは心配そうに周囲を見回しながら視線をあちこちに走らせる。
「おかしいわね。ルイなら一番早く来てもいいはずなのに」
「あのバカ。怖気づいて逃げちまったか。まぁ!俺の方が強いからなぁ!」
レオは自信満々に肩をいからせ、誇らしげに立っていた。エマは表情を何も変えることなく、
「バカはあんたよ。」と淡々と言い返す。
「厄介ごとに巻き込まれてなければいいけど。」
ぽとりと雫が落ちるように呟いた。
「うわぁぁぁぁぁ!!なんでなんで。」
ルイはいろんな大人たちに追い掛け回されていた。どうやらあのお姉さんはツケ払いや借金などで、多くの人に恨みを買っているらしい。
ーくそぉぉぉ。あのお姉さん。厄介者だったー
いろんなトラブルを解決しては、新しいトラブルに巻き込まれる。大人に追い回され、迷子の子供や大きな荷物を持ったお年寄りを助け。ルイは息も絶え絶えであった。
「とりあえず、これを届けないと」
と居酒屋のおじさんに貰った水筒を眺める。
ルイはぐったりとした様子で裏路地に帰ってきた。
「おねえさん。これ・・・。もってきました。」
と囁くように弱弱しい声で、お姉さんに水筒を渡した
。
「坊や。感謝するよ。」
ゴクッゴクッと豪快に喉を鳴らし、一気に水を飲み干すと、
「ぷはぁぁ!生き返る!」
と生気のみなぎった顔で口元をぐいっとぬぐった。
「いやぁ。助かったよ。酒なんて飲むもんじゃないな!」
と伸びやかな笑い声が路地裏に響いた。
「そういえば君。時間はいいのかい?なにか大事な用があるんじゃないか?」
ルイは何度も何度も時計を見つめた。徐々に冷や汗をかき、目が泳いでいた。大きな目をくるくるさせる。
「はぁぁぁ!ほんとだ。まずいまずいまずい!」
頭を抱え、足をバタバタさせる。お姉さんは肩をすくめ、呆れたように頭を振った。
「時間がないのに、私なんかのために。君に徳なんて一つもないだろう」
焦りでバタついていたルイの動きがピタッと止まる。ルイはおねえさんの目尻がやや上がり気味の大きな目をじっと見つめ、
「そりゃ。困っている人は放っておけないでしょ。」
ルイの目には、ゆるぎない決意が輝いていた。おねえさんは驚きと関心の入り混じった表情を浮かべる。
「ふふふ。そうか。君はいい大人になれそうだな」
とあでやかに微笑む。
「じゃぁ僕急いでるからいくね」
「ハンター試験。頑張れよ!少年!」
伸びやかな声がルイの背中を押した。
ルイは、輝く太陽の光が降り注ぐ方へ走っていった。
蒼天の下。石畳で作られた道がキラッと光っている。その道をダッ!ダッ!と強く踏み鳴らし、足を進める。
「やばいやばい。もう時間がない。間に合え!」
汗が滴り落ちる額を拭うこともなく、ルイは矢のように真っすぐに走り続けた。心臓は激しく鼓動し、息を切らしながら、一心不乱に前へ。
「ねぇあれ。ルイじゃない?」
すでに会場に入ってるエマがレオ。レオは腕を組み、無表情で走ってくるルイをジッと見つめている。
「ルイ!もう時間ないよ。思いっきり走って!」
とエマが澄んだ声を張り上げた。
「うぉぉぉぉ!こんなところで躓いてられるか!」
ルイが半ばやけくそな気持ちで、最後の力を振り絞ろうとしたその時。
「アッ」
ルイは石に躓いた。人生山あり谷あり。ピンチはチャンス。そんな言葉が脳裏を駆け巡る。世の中は残酷だった。時が止まったようなスローモーション。門まであと少しというところで顔から前のめりに倒れた。手を伸ばしてもあと少しが届かない。
ガシャン!施錠を担当している大男が冷え切った門を閉じる。夢の第一歩は、夢で終わってしまった
砂埃が舞い上がり、転んだ痛みがじわじわと広がっていった。体の痛みよりも心が痛い。夢が打ち砕かれたのだ。
「試験志願者はこちらに集合してください。」
その声がとてつもなく遠くに感じる。その後、門番に頼み込んだが、遅刻者は絶対中に入れることはできないと突っ返されてしまった。
ルイは体育座りをしながら、ぼーっとしている。それしかできなかった。視界に広がる美しい街並みは、まるで絵画のように完璧。しかし、その完璧さが喪失感を深くえぐった。ルイが真っ白になっていると、コツコツとヒールの音が聞こえる。
「うん?少年。ここで何をしている?」
ルイが振り返り、ゆっくり見上げる。そこには路地裏でつぶれていた酔っぱらいのおねえさんがいた。ルイは下手くそな作り笑いをし
「へㇸ。ハンター試験。集合時間に間に合わなくて・・・」
と徐々にしぼむような声を発した。視界がぼやけるのを必死にこらえている。そして何か気づいたように急いで首を振り
「あ!でもね。おねえさんのせいじゃないよ。最後走り切れば間に合ったのに。最後僕が転んだから」
「自分のせいだよ・・・」
と呟くと膝を抱えて視線を落とした。
おねえさんは腕を組み、静かに目を閉じる。その表情には深い思索の色が浮かんでいた。
「少年。君の夢はそんなにすぐに諦めきれるのかい?君はどうしたいんだ?」
背中から少し低めの大人っぽい声。ルイは拳を強く握る。虚ろだった目に微かな光が宿った。
「諦めきれるわけないよ。僕はNOVAになるんだ。これは僕が決めたことだ。」
「NOVA……」
と呟きおねえさんはいらずらっぽくフフッと笑った。ルイの肩にポンと手を置き
「よーし。気に入った!私を助けてくれたお礼をしてやろう。ついてきなさい。」
頼もしさを感じさせる声で語り掛けた。路地裏で出会った時のだらしなさは嘘のように消え去っている。
ルイは再び門番の大男と対峙した。門を開けるためには、この大男を倒さなければならない。ルイの心臓はまるで小さな太鼓のように激しく打ち鳴らされ、胸の中でドッドッと音を立てていた。その不安がおねえさんに伝わったのか、ルイの顔を覗きこみ、優しく微笑んだ。
「きみ。この子をそこに通してあげなさい。」
おねえさんは腕を組み、綺麗な白い指先を門に向けた。
「いえ。それは無理です。そこの小僧は時間を守れなかった。ハンターになる資格はありません。」
大男も腕を組んでいる。その硬く結ばれた腕は、門を開けない強固な意志を感じられる。
「大人が子供の夢をつぶすんじゃないよ。いいからそこどきな。」
手をぱっぱっと振り、目の前の大男をどかす動き。それはどこか優雅さを感じさせた。
「いい加減にしないと武力行使しますよ。あなたもはやく・・・」
大男がおねえさんの肩を掴んだ瞬間、大男がふわっと宙に浮き上がる。まるで羽毛のように軽やかに。そしてドン!と背中が地面についた。
大男は驚きのあまり、目をぱちくりと瞬かせた。腰に手を当て、女王様のように大男を覗き込む。
「私のことがわからないわけじゃないだろう。君」
ルビーのように輝く美しい髪を整え、金色の刺繍の入った白いハンターコートを羽織る。路地裏にいた酔っぱらいの女性から美しく気高い女性に変わった。ルイはあまりの変貌に口をすぼめ、驚きの表情をしている。
「あなたは・・・怒流のハンナさん・・・」
「その呼び方やめな!試験監督を務めるハンナだ。試験監督権限でこの子を通す!」
ハンナの伸びやかな声が青々とした空に響き渡った。
試験開始直前 試験志願者は森近くのキャンプに移動していた。
「レオ!ルイが!!」
「なんだ!やめろ!あいつが最後ヘマしたんだろうが。あいつ自身の責任だ。」
エマはレオの服を掴んで前後に激しく揺さぶった。焦りと混乱が入り混じっているように。レオの首がまるで壊れた人形のようにぐらぐら揺れている。
「だめでもまた来年試験受ければいいだけだ」
「でもそうだけど。すぐにパーティ組めないじゃん・・・」
とエマはしぼむような声を出した。試験合格者はハンター協会で教習を受けながら、任務を達成していく。そのため、同期のメンバーでパーティを組む人が多い。
「約束したのに。ルイのばか・・・」
エマの顔はうつむき、長い髪がその表情を隠す。悔しさで両手は強く握りしめられていた。
「おーい!レオー!エマーー!」
ルイの無邪気な笑顔。大きく手を振り、軽やかな足取りで二人の下に駆け寄ってきた。
「なんとか僕も試験に・・・」
「ばかたれがぁー!」
と怒号を響かせ、エマの拳がルイの顔にめり込む。ルイの身体がまるで紙切れのように宙を舞う。地面に叩きつけらるまでの時間が異様に長く感じた。
「ルイのバカ!なんで遅刻してんの!試験突破して一緒にパーティを組むって約束したじゃん!」
と早口でまくし立てるように言った。倒れているルイの服を掴み、強く前後に揺さぶる。ルイの首が取れそうなほどにぐらぐらと揺れている。
「あれ。でもなんで中に入れてるの?」
エマがはっと我に返り、ルイがここにいることへの驚きと疑問が浮かんできた。
「実はね...」
ルイがここに至るまでの経緯を説明しようとすると
「志願者。全員こちら側へ!」
集合の合図がかかった。ばらけていた志願者は一か所に集まる。
レオは咎めるような鋭い視線をルイに浴びせ、ルイの胸にドンッ!と拳を当てた。
「ルイ。お前今回は運がよかっただけだぞ。いつか痛い目みるからな」
ルイはクッと一瞬苦しそうに顔を歪めた。しかし、それはレオの恥ずかしく不器用な優しさだと理解している。
「それでは、ハンター試験の説明を始める!」
試験官の一人が大声を張り上げると、志願者たちの顔つきが鋭くなった。