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14話 2章-3① 初任務~第70期合格者たち~

昨夜の星々が輝く空の下でルイはレオから自分が恐ろしい何かに変貌した話を聞いた。そしてエマたちに手を出そうとしたことも。

その話を聞いた瞬間、ツーっと冷たい汗が頬を伝い、頭の中は真っ白になった。あの時の赤黒い感情。それは正しく自分が抱いたものだから。

でもレオは約束してくれた。

「お前がもし暴走しても俺が止めてやる!」

いつか取り返しのつかないことが起きても、レオだったら・・・。その覚悟。強く優しい幼馴染がいること。そのおかげでルイの心は少し軽くなった。

 

次の日の朝。空は澄み渡るような青空だった。今日から新たに始まるNovaへの歩み。優しい太陽の光が大地を照らしていた。その暖かさを背中に感じながらルイたちはハンター協会のすぐ横にあるハンター養成学校へと足を運んだ。

 

石造りの古代ヨーロッパ風の建物。ところどころにある拭えそうにない汚れが年季を感じさせる。その建物を見上げるルイの蒼黒の瞳には輝く希望の光。正面にある重厚感のある大きな木製扉を開くと、フワッと柔らかい風がルイたちの髪を揺らす。石畳の床を歩くとコツコツという音が廊下に響き渡った。


しばらく足を進めると、扉の上に『第70期生』と書かれたプレートを目にする。ルイが扉を指差し、レオとエマにアイコンタクトを送った。彼らはコクッと頷く。ルイは扉の取っ手をグッと握り、扉を開いた。


部屋の中心には綺麗に並べられた机と椅子が15個ほど。部屋大きさの割に机の数が少ないように感じる。見上げてしまうほど高い天井には、祈りをささげている女性の絵が描かれている。


「エマ―!おはようです!」


耳を劈くような声で大きく両手を振っているリリーに、エマは恥ずかしそうに笑いながら、控えめに手を振り返した。今回のハンター試験の合格者たちがすでに何人か着席していた。


「エマの席ここ!僕の横!名前の書いた札が置いてあるよ!」


ルイは前列、レオとエマは後方に着席をした。ルイは理想のハンターライフを想像し、これから始まる冒険にうずうずしていた。そんなことを考えていると、横から視線を感じる。ちらっと横を見ると、綺麗な顔立ちの女の子が頬杖を突きながら、鮮やかな紅色の瞳でこちらを覗いている。


「やぁ。試験の時はあまり絡めなかったね。私はリオン。よろしく。」


 女の子にしては低めの落ち着きのある声色。全体的に赤みがかり、毛先に向かうほど鮮やかな韓紅のショートヘアは同年代とは思えない女性ならではのかっこよさを感じさせる。

ルイはその雰囲気をぼんやり見るように目をパチクリしていると、


「あっ。僕はルイ。よろしく。二次試験の時に僕たちよりも先にゴールしていたパーティだよね!すごいなぁ。」


リオンは口角をキュッと上げ、


「たまたま運がよかっただけだよ。ルイ君たちはかなり大変だったみたいだね。」


冗談交じりにフフッと口元を緩めた。


「まぁなんとか生き残れたって感じだね。」


ルイは頭をポリポリと掻きながら、笑みをこぼした。


そこからしばらく談笑していると、二次試験の時にパーティを組んだミアやケイなど他の合格者たちも続々と部屋に入ってきた。時間通りに全員が着席すると、艶のある黒髪のロングヘアの女性が部屋に入ってきた。ファーのついた黒色のジャケット。スリムで背丈や体格はハンナと同じくらいだろう。しかし、凛とした顔つきのハンナと比較すると、どこか無気力でやる気のない顔つき。ざわざわとしていた教室がピタッと静かになる。その女性は教壇の上に立つと眠そうな紫紺の瞳で合格者たちの顔を見渡した。



「あ~、はい。70期の皆。おはようございます。」

「君たちの面倒を見ることになったマヒナです。ランクはGOLD。よろしく~。」


張りや力強さを全く感じない低い声にルイたちは戸惑いながらも返事を返した。


「さて、今日からここハンター養成所で座学や訓練を受けてもらうわけですが・・・」


 マヒナは教壇後ろの黒板に国の全体図を大まかに書き始めた。国の中心には王宮があり、円状の塀に覆わている。

 

「今年から養成所はこの3つに分かれることになりました。先に合格した君たちはここ。南に位置する『シリウス』でランクがSILVERに上がるまで学んでもらいます。」


ここ『リゲイル国』。昨年まではハンター養成所は一か所だけであったが、今年から各システムが一変した。協会上層部の意向により、少数精鋭でハンターを育成しハンターの質を高めるのが狙いだとか。マヒナは説明しながら協会上層部の悪口を度々こぼしていた。

 

 ルイたちが所属する『シリウス』は今年度の最初の合格者たちで構成され、国の南部に位置する。北西にあるペテルギウス。北東に位置するプロキオン。3つの養成所で新米ハンターたちは鍛えられる。


それからルイたちはハンターランクの仕組みや新米ハンターの注意事項などの座学を受けた。ルイは教室内をちらっと見渡すと、皆真剣に座学を受けている。ルイはこうした恵まれた環境に入れたことに心の中で感謝した。



「今日はこのぐらいでいいかな~。最後に明日任務に向かうメンバーを発表します。呼ばれた人はここに残るように。」

「メンバーは・・・ラズ、レオ、リオン、リュウ、ルナ、そして最後にルイ。それ以外の人は解散~。」


 ルイは行儀悪く頭の後ろで手を組んでいるレオにアイコンタクトを送ると、レオはクイッと片眉を上げ、ニヤニヤとしていた。どこか退屈そうだったレオも実践となれば胸が高まるものだ。


ーやった。とうとう任務にいけるんだー


ルイは机の下で小さくガッツポーズをした。皆が帰りの支度をし、室内がざわざわしてくる中、ルイの下にエマが駆け寄ってきた。


「ルイ!ハンターとしての初任務だね!頑張って!」


エマは両手をグッと握りしめ、力のこもった眼差しを送る。それに答えるように、あどけなさの残るルイの表情が引き締まる。


「もちろん!絶対成功させるよ!」

「でも僕とレオはまだ残るからエマ1人で帰ることになっちゃうけど・・・」


ルイが気にかけるようにエマの顔を見ていると、


「心配いらないわ。これから私は女子会だもの!」


エマが目を向けた先にはリリー、エミリ、そして名前の知らないゆるいウェーブのかかった桃色のロングヘアの子がいた。ルイがほーっと感心していると机の横からひょこっと人影が映る。パッと顔を向けると、耳をぴょこぴょこさせたミアが顔を覗かせていた。


「ルイ!エマが誘ってくれたの。アタシ楽しみだよ!」


ミアは嬉しそうに声を上げた。ニコニコと笑みを浮かべ、エマと顔を見合わせている。そんな中、横からリオンのクスクスとした漏れる笑いが聞こえてきた。


「リオン?どうしたの?」


 ルイが首を傾げながら問うと、リオンは笑いをこらえながら、


「いや~。ごめんごめん。なんでもないよ。女子会か~。私も行きたかったな。」


目尻だけがきりっとした瞳を緩めながらエマたちに視線を向けた。


「うわぁ。あなた凄いかっこいいわね。私はエマ。よろしくね。」

「アタシはミアだよ。また今度遊ぼう!」。

「ありがとう。私はリオン。よろしく。」


リオンは朗らかな声で答えると、桃色のロングヘアの子をピッと指差した。

 

「あのピンクの髪の子。ノアはかなり人見知りだからよくしてあげてね。」


リオンはノアに向けて手を振ると、ノアはどこか引きつった笑いを浮かべながら手を振り返していた。エマは腰に手を当てながら胸を張り、


「もちろんよ。じゃあルイまたね。」


ルイに軽く手を振り、エマたちは軽い足取りで外へ出ていった。


そんな騒がしさが漂う中、マヒナは生徒が帰るまで、あくびをしたり、目を瞑ったり。ハンターの仕事もやりながら教員も勤めるのはかなり大変なようだ。


任務に行く生徒以外が教室から出た後、その場はひっそりと静まり返る。そして、マヒナは再び教壇に上がった。今まで眠そうな無気力な表情が凛とした表情に変わっていた。


「まずはパーティを発表します。これに加えて依頼の時は現職のハンターが同行するので、彼らの指示に従うように。」

「一組目。レオ、リオン、ラズ。君たちへのクエストはアプテル草の納品。」

「二組目。リュウ、ルナ、ルイ。君たちへのクエストはバルダイト鉱石の納品です。」


マヒナの真剣な眼差しがルイたちに向けられる。それに応じるようにルイたちの表情にもグッと力が入る。


「アプテル草は傷薬の調合に使われる素材、バルダイト鉱石は剣や鎧の素材。ハンター活動に不可欠で重要なものです。」

「任務の流れや野営など学べることはしっかり学んできてください。ひとまず明日この教室で待機しているように。」


終始教室内がピリッとした空気に包まれている中、説明が終わったマヒナは気が抜けたようにフワァーっと大きなあくびをした。ルイはそのギャップに顔をひきつらせた。

 

「今日は以上。じゃあ解散~。早めに帰るように~。」

 

そういうとマヒナは腕をグーっと上に伸ばしながら、重い足取りでゆっくりと教室を出ていった。

 

先ほどの解散時とは異なる空気が流れる中、ルイが帰り支度をしていた。その時紫がかった白色の髪の女の子ルナが出口に向かっていくのが見えたので急いで追いかける。


「あの。二次試験の時以来だね。改めましてルイです。明日はよろしく。」


ルナは小さな口をポカンと開け、たるませた紫紺の瞳でジトーッとルイの顔を眺めた。

・・・と沈黙が漂う中、


「ルナ・・・。また明日。」


ルナはそれだけ言い残し、くるりと背を向け、教室から出ていった。


「たはは・・・」


ルイは引きつった笑いを頬に貼り付け、遠くなっていくルナの背中に視線を注いだ。


「なぁ。ルイでいいか?」


後ろから声がしたので振り返ると、

 

「あっ。君は・・・」


リュウは体を斜に構え、クールな印象の奥二重の青色の瞳をルイに向ける。

 

「俺はリュウだ。そんなことより・・・」


ルイはリュウが何か言いたそうだったのでしばらく黙ってリュウを見ていた。リュウはルイからスッと視線を外し、


「いや。いい。なんでもない。」


そう言い残すと、そのまま教室から出ていった。ルイは眉をひそめ、いくらか冴えない顔をした。リュウが何を聞きたかったのか。それだけが気になっていた。ルイは二次試験の時のようにパーティと仲良くなれるだろうか。ルイがそのようなことを考えていると、肩にガッと手を回される。

 

「お前も大変だな~。」


ラズがルイに同情するように柔らかい声をかけた。ルイは少し表情が砕け、


「ラズ君も初クエストだね。頑張ろう。」

「ラズでいいよ。全員ルイみたいなのだったら楽なんだけどな~。」


二時試験の最初の戦い。サイモンとその手下と戦った時、指揮を取ったのがラズだった。無気力感や脱力感を纏っているラズだか、いざという時には頼りになる存在。そんな二人のたわいもない会話に割って入るように、リオンがひょっこり顔をだした。


「なになに?ここはもう仲良し?私も混ぜてよ。」


手を後ろで組み、年頃の女の子にように二人の顔を覗き込む。ルイは先ほどのクールな印象とのギャップに少し拍子抜けした。

 

「あっ。そうだ。レオこっちきて。」


ルイは背もたれに大きく背中を預けて座っているレオを手招きした。レオはゆっくりと立ち上がり、ポケットに手を突っ込み、肩で空を切るようにルイたちの下に歩いてきた。


「なんだよ。」


レオはリオンとラズの顔をチラチラ見た後、ルイに向けて口をとんがらせた。ルイからしたらいつものレオだが、他の二人は苦笑いを浮かべている。

リオンはルイからのアイコンタクトに気付くと、眉を上げて自分を指さした。そして、片手を腰に回し、


「リオンだよ。よろしく。」


落ち着きのある低い声ではっきりと答えた。


「リオンは第二次試験で僕たちよりも先にゴールしたパーティの一員だよ。」


ルイは砕けた表情でレオに語り掛けた。その言葉を聞いたレオは、自信にあふれる佇まいのクレアの顔を睨みつける。


「俺は負けてねぇぞ。おれはレオだ。好きに呼べ。」


切れ長の大きな瞳をリオンの紅色の瞳に注ぐ。しばらく二人は互いにバチッと火花が出るような視線を交錯させた。ラズはこの収拾のつかない空気感を感じ取ったのか、


「おいおい。俺はラズだ。よろしくな。」


頬をポリポリと掻きながら、戸惑う声色で答えた。リオンは凛とした目つきを緩めると、


「初任務よろしくね。」


レオ、ラズに穏やかな表情で答えた。ルイはほっと胸を撫で下ろし、安堵した表情を浮かべている。


「ルイとレオはもともと友達?」


リオンは首を少し傾け、砕けた口調で尋ねた。

 

「そうだね。僕たち幼馴染なんだ。さっきいたエマと三人同じアラン村ってとこに住んでるよ。」


リオンはなにか考えながら、含んだ笑みを浮かべる。そして、ルイとレオを交互に細めた視線を送ると、


「ふーん。あの可愛い子はどっちの彼女?」


体を少し前のめりにさせ、いたずら好きの子供がするような意地悪な笑みを浮かべた。ルイは焦ったように手をバタバタと振り、


「いや。僕たちはそういうのじゃないから。」


と軽く笑って受け流した。その言葉を聞いたラズがはぁっと大きなため息をつき、手で顔を覆う。


「こりゃめんどくさいな。」


なんともむず痒い静けさが周囲を包んだ。ラズはスッと腕を組み、口元に微かに笑みを浮かべた。

 

「いや。なんでもない。忘れてくれ。」


ルイは目を丸くし、素っ頓狂な顔でラズの顔をじっと見つめる。リオンはなにかを察した。口元に手を運び、クスっと。

そしてルイに静かな光が灯る眼差しを送る。


「・・・ねぇ。ルイ。私と勝負しない?」

「先に任務を終わらした方が1つ言うことを聞く。どう?」


口を紡いでいたレオの鋭い視線とラズのギョッとした表情がリオンに向けられる。2人に向けて声は発さず、口の動きだけで「そういうのじゃないから」と伝え、再びその眼差しをルイに向けた。


「うん。いいよ。絶対に負けないけど。」


ルイの表情に活き活きとした力強さが宿る。一瞬だけ2人のバチッと視線がぶつかる。


「じゃあ、そういうことで~。2人とも明日はよろしくね。」


そう言い残しリオンは教室の外に出ていった。ラズは教室の扉に耳を当て、リオンが教室から遠ざかっていることを確認すると、


「あんな変な勝負に乗っちまって。だるいことになるぞ?」


少し焦りを感じさせる声色でルイに呟いた。それに対し、ルイは命が入ったような活き活きした表情。


「だって。面白そうだからいいかなって。」


言葉の節々に力強さを感じる。その佇まいを見たラズの鼻から息を漏らした。

 

「ルイ。そんなことよりあの2人とパーティは厄介だぞ。」


レオの声には心配が混じった真剣な声色。ルイは眉をひそめ、困惑の色を浮かべた。


「え?どうして?」


教室の中を照らしていた太陽の光が雲で遮られる。レオの真剣な表情と低めのトーンから冗談ではないことを感じとった。

 

「あいつらなんか因縁がある。しかもかなり根深いやつがな。気をつけろよ。」


ルイはレオから視線を外すと、顎に手を置き、一時悩みに更けていた。


 

 


久しぶりの投稿でした。

色々書いてみたんですけど、やっぱりハンターズライフは書ききらなきゃと思ったので力入れます。

その傍らで他の作品もかけたらいいな。という次第です。

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