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(「ご安心ください。聖剣様。」)
一際落ち着いた声の鼠が恭しく前に出て私を落ち着かせる様にそっと触れてきた。
良く見るとこの個体は他の鼠に比べて一回りほど大きく見える。
(「貴女様は決して長の様にはなりません。」)
「長の様にはってどう言う事だ?」
(「貴女様にはこの聖剣の持ち主となって頂くだけです。
泉は今まで通り、我らが御守りします故。
貴女様はこの地に縛られることもありません。
何故なら長きに渡る不動の聖剣は先程貴女様が引き抜き、
貴女様の手元に在りますでしょう?」)
「??…つまり、移動可能になったと言うわけか。」
((「そうです!その通りです!貴女様は長とは違い自由にこの地から出られるのです!」))
何匹かの鼠が声を重ねて頷く。
だから何だと言うのか。
まぁ良い。
兎に角この地に縛られる事は無い。
そして謎の湧き出る泉の管理とやらも私は関与しなくて良いのだな。
これ以上の厄介ごとは勘弁して欲しい。
(「もし宜しければ、今からこの地に縛られないかの確認も兼ねて夜の散歩にでも行きませんか?」)
(「それは良い提案だ!そうしたらきっと聖剣様もご安心される筈!!」)
ねえ、そうしましょう?と私のご機嫌を伺うように上目遣いで言ってきた。
「あぁ、分かった。
…ただし、もしそれで私が次の生贄だと発覚した場合はどうなるか覚悟をしておけ。
お前ら生きたまま頭から一匹残らず食ってやる。
そしてこの聖剣とやらも粉々に砕いて適当にそこら辺に撒いてやる。」
分かったか!と半分冗談でそう宣言すると先程までお祭り騒ぎで賑やかだったこの場がしんと静まり返った。
どうやら本気で受け取ったようで鼠達は震え上がっている。
「…どうした?行かないのか?」
((「いい行きますっ!!」))
(「では準備を致しますので少々お時間を…。」)
「分かった。」
全く!冗談なのにここまで本気で怖がるとは。
すっかり怯えきってしまった鼠達は各々役目があるのか、
鼠同士、視線を投げたり頷いたりしつつ無駄の無い動きで散って行く。
側に残ったのは私が目覚めた時から片時も離れずずっと私の側に居た二匹と他の個体に比べて一回りほど大きく落ち着いた感じの鼠だった。
ちなみに、私を引き摺りながらこれは夢ではありません!と抓った器用な鼠も含まれている。
「そういやお前達の名は?」
何となく聞いたは良いが数が異常に多すぎるので全ての鼠の名前を覚えるのは容易く無いだろう。
でもせめて私の側に居てくれる彼らの名前だけでも覚えて呼んでやろうと思った私は苦手だった鼠に慣れつつあるのか。
適応能力とは良いのか悪いのか。
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