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(「伝説はただの御伽話じゃなかった!!」)
(「遂に本物の千年に一度の聖剣に選ばれし者が聖剣を抜く事ができた!!」)
(「我ら一族がずっとお守りしてきた聖剣が遂にあるべきお方の元の手に渡る事が!!」)
聖剣様、バンザーイ!!とあちらこちらから好き好きに言葉を発してお祭り状態だ。
いや待て、今“本物の“と言ったな。偽物が居たのか?
…追求するのはやめておこう。
某球団の優勝の時みたいに泉に飛び込む鼠も出てきて収拾がつかなくなった頃、ようやく長であるワニサイズの長が歓喜に舞う鼠達を黙らせた。
(「…みな聴くのじゃ。遂に我が一族の悲願が叶った。
先祖代々から語り継がれ、この泉と聖剣を守り続ける役目もこれで果たせたと言っても良いじゃろう。
もうワシは思い残す事は無い。
今を持ってワシは一族の長を退くこととする。
後任の長はお前達が決めるが良い。」)
まさかの長の引退宣言でさっきまで喧しかったのが嘘みたいに静まり下える。
私だけ場違い感が否めない。いや、明らかに場違いだろう。
だって私、人間だし。
居心地の悪さに居た堪れず、聖剣に目をやるとふんだんに散りばめられた数ある宝石の中で緑系統の宝石だけがキラキラと光っていた。
「おいっ!!これは?!」
どう言うことだ?!とこの異常事態を鼠達、特に長に良く見える様に聖剣を掲げた。
(「ほっほっほっ…!
ワシもようやく在るべき所へ帰れる。…しかし千年は流石に長かったわい。」)
そう言った長の表情があまりにも哀しそうで何と言ってあげれば良いのか言葉に詰まった。
それは鼠達も同じなのかどの鼠達も何も言葉を発しない。
徐々に鼠達の啜り泣く声が聴こえてきて私までつられて鼻がツンと痛んだ。
きっとこのワニサイズの鼠の長とはもう間も無くお別れなのだろう。
出会って数十分にも満たない人間である私と鼠にしては巨大すぎる長。
別れが惜しいほどの関係は築く間も無かった筈なのにすっかりこの不思議な鼠ワールドに引き込まれている。
(「聖剣に選ばれし者よ、名は何と申すのじゃ?」)
今更感は否めないけど素直に自分の名を発しようと口を動かしても一音も発する事ができなかった。
「っ…!?ぁ、…??」
(「ほっほっほっ!…そうじゃったわい。この世界での名はまだ無いのか。」)
生まれたばかりじゃったな。と長は朗らかに自己完結してもう気が済んだのかくるりと私に背を向け鼠達に最期の別れの挨拶を始めた。
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