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うっすら日本で過ごしていた日々の記憶が浮かんできてはスーッと消えていく感覚に焦燥感を覚えたがもう諦めに近い気持ちで無理やり考えない様に切り替えた。
「で、これをどうしろと?」
(「お手に取って下さい。貴女が選ばれし者であるならばその剣は貴女のものですぞ。」)
恭しく促す長にそうですか。では!など言ってスポーンと抜く気持ちにはなれない。
もし違った場合、私の身は一体どうなるのか考えただけでも恐ろしい。
激怒した鼠達に骨まで残らず食い散らかされるのか。
はたまたこの聖剣からお怒りの雷とか呪いとか掛けられるのか…。
もしかしてコイツら聖剣チャレンジして鼠の姿になったのか…?
なんにしても出会ったばかりの者、しかも意思疎通が図れる鼠の言う事だなんて…。
(「…聖剣様、如何されましたかな?」)
「いや、うーん。…この剣を抜いて私に何の得があるのかなって。」
別に抜かなくても良いのでは?抜いた所で何になるっていうの?などとゴネて中々聖剣に手を伸ばそうとしない私に痺れを切らした長以外の野次馬、いや鼠達が早く抜けと騒ぎ出した。
何だか嫌な予感がする。
これを抜いたがいや、これに触れたが最後、もう後戻りができない様な取り返しのつかない様な事態になる気がして落ち着かない。
気の所為かチラリと聖剣に目をやるとまるで逃がさんとでも言うように月の光を存分に浴びて眩いばかりの宝石が埋まった本当に見事な聖剣がきらりと鋭く光った様に見えた。
ーはやく、抜くのだ!と言わんばかりに妖しく光る。
まるで意思を持つかの様に。
期待に満ちた目で私を見る鼠達にもうどうにでもなれ!と意を決して聖剣が刺さっている場所まで向かった。
足元の泉の水は生まれ育った裏山の湧き水に驚くほど似た透明感と温度と感触だったので抵抗もなくすんなりと入れた。
徐々に日本で過ごした日々の記憶が薄れつつも身体が記憶していることに安堵し、
意を決して恐る恐る聖剣に手を伸ばす。
指先が聖剣に触れるや否や、バチッ!!と静電気の様な電流が一瞬で全身を駆け巡った。
驚いて手を引いてまじまじと聖剣を見る。
そして野次馬、もとい鼠達と顔を見合わせてもう一度挑戦してみて下さいと促され呆然としつつもその言葉に従って今度は確実に聖剣を掴んで刺さっていた大きな岩から一気に引き抜いた。
(((「うおぉぉぉぉーーー!!!!!」)))
鼠達の甲高い歓喜の雄叫びが巣穴に響き渡ってその喧しさに眉間が寄った。
(「やはり伝説は本物でしたか!!」)
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