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(「聖剣様、如何されました?」)
(「美味しいですよ〜!どうぞ遠慮なく食べてくださいまし。」)
無表情で微動だにせず、用意された彼らの御馳走に一切手をつける様子の無い私を彼らが心配そうに見守っている。
「…ここへ飛ばされる前にたらふく食べたから腹は空いておらん!」
アリガトウ。キモチハ、ウケトッタ。
これで昆虫食は回避できた筈!!
ほっと胸を撫で下ろそうとするも、少し離れてこちらを見ていた鼠が余計な一言を投げてきた。
(「でも、聖剣様、昨夜ここへ来てから今日の朝も昼も食べずにずぅーっと眠りっぱなしだったし、
今日はもうすっかり日が暮れちまったよ。
本当に腹は減って無いのかい?
おいらの知ってる人間は朝も昼も夜も関係無く一日中、ずぅーっと何か食べてるよ」)
知らんがな。それは本当に人間か?どんな人間だよ。
「そっか。でも私は本当に結構だ。」
何がなんでも食べさせたい鼠と虫なんて食べたくない私との攻防は、腹が減ったら報告することで決着がついた。
では、これは我々が…と遠慮がちに言うにので全力でどうぞ!!と言っておいた。
ふと、視線を感じてその方へ向くとワニの様な大きい鼠の長がこちらへ来るように合図してきたので何となく察して昆虫食に夢中の鼠達に気付かれない様そっとその場から離れて長の元へ急いだ。
(「こっちじゃ…。」)
鼠の巣穴のさらに奥の方へと案内のまま着いて行く。
やがて目的地に到着したのか、長の進む先が見えてきた。
そこは開けた場所で泉の様だった。
(「あれを見よ。」)
そう言って長が指す方へ視線を向けるとなんとも神秘的な光景が視界に広がった。
辺りはぐるりと岩で囲まれているが天井は無くそこだけポッカリと空いている。
その空いた空洞からは月の光が差している。
満点の星空に黄金に輝く月が二つ。
沢山の星があちらこちらで流れて行く。
湧き出る泉の真ん中には、何やら豪華な物が。
「あれが聖剣とやらか…?」
色とりどりの宝石がこれでもかとふんだんにあしらわれた見事な剣が一際大きな岩に刺さっていた。
これってもしかして聖剣エクスカリバー的な?
選ばれし勇者がただ一人抜けるとかなんとか。
ここは物語の世界なのか?
相変わらずふわふわと身体は軽く、鼠達曰く、丸一日眠っていて食事も摂っていないのに空腹感も無い。
ここは夢の世界なのかもしかしたら私は自室のベットの上で亡くなってここは死後の世界なのか。
どちらにせよ今のここが私の“現実世界“なのかもしれない。
もとい、日本で生まれ育った私にはもはや家族は居ないので私がどこにいようと誰も気にしない。
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