八十話 やらかし結婚編15
明日の朝ご飯はピザトーストとポトフ(ウインナーは明日入れる)である…後、サラダ。そして、大量のバナナ……何も言うまい。
さて、一段落したので飲み物を入れて椅子に座ってお話しタイムである。対面は圧迫感あるから隣に座って…本当は斜めに向かい合うのが一番良いんだけども。
飲むのならココアとかにしたいが、夕食前のやりとりもあり、メルもいかんせんカロリーが気になるお年頃…というか、行為前に飲むには露骨過ぎる(興奮作用あり)
なのでホットミルクにする…本当は豆乳の方が良いのかもしれんが、ここファンタジー世界。そんなに需要無いねん…
「ありがとうございます……昔はミュゼット様と三人で、こうやって温かい飲み物を片手に夜更かししてましたね…」
「そうだな…本を読んだり、俺の冒険譚を聞かせたり…」
「魔物を倒したばかりで冒険譚と言うには粗末でしたけどね……それでも、ずっとそんな日が続くんだと思ってました。アレク兄様が大人になって、ミュゼット様と三人であの屋敷を出て一緒に暮らしながら幸せになるんだって……」
「……そっか。そんな夢を俺は壊しちゃったんだな」
メルも俺と似たような気持ちで居たのかと思うと、気持ちが温かくなるが…それを壊したのは俺だ。そんな夢を抱きつつ、許されない事と思い込んで…
「何度も何度も抜け出して会いに行こうと思いました…でも、結局諦めてしまったんです。その頃から、ミュゼット様はアレク兄様を『小兄様』と呼ぶようになりました…覚えていますか。昔、アレク兄様と呼んでいたのは私じゃなくミュゼット様だったんですよ?」
「そうだったな……メルは兄様って呼んでたな」
「…はい。でも、それも本来ミュゼット様の呼び方だったんです……まるで、私はミュゼット様から盗ったみたいですよね。でも、実際は盗りたかったのかもしれません…ミュゼット様は本当の妹だからそういう事はアレク兄様はしない。なら、私がって…」
「それは……」
呼び方なんて気持ちや境遇と共に変わるものだし、むしろミュゼットが捨てたものを忘れないように拾い上げてくれたとも思う。
まあ、同い年で片方は妹(義妹かつ転生者)、もう片方も妹(偽妹)…張り合うのは当然だし、むしろ前世持ちのミュゼットと対等に学業だって出来るメル。あれ、むしろミュゼットのおつむが心配…
仲良くしてたってそういう気持ちあるだろうさ。もし、この世界が一夫一妻制でミュゼットとメルの二人から同時に迫られたら……許さない事以上に、それが嫌だったから逃げた。
どちらかを選ばなきゃいけない可能性から俺は逃げた。二人を傷付けたくなくて、結局傷付ける選択をした……悔いはある。だが、それで良かったと思っている。
きっと、三人だけだと壊れていただろうから。それに今の幸せの方がずっと良いと思う…だから、罪悪感なんて要らないんだぞ?
「…メル…それだけ俺の事思っててくれたんだな」
「そうですよ…アレク兄様は前に言いましたよね。『一度は嫌われた』って…私、嫌いになんてなってません。初めてドレスを買いに行く時『アレク兄様に煩わされたくない』って言いました…でも本当は無理矢理でも付いてきて下着姿見て欲情して欲しかった。無理矢理でもアレク兄様の女にして欲しかった……アンみたいに一緒にお風呂入って欲しかった。私はミュゼちゃん以上に欲張りなんですよ?」
「…メルはミュゼット以上に甘えたがりだったもんな」
はらはらと涙をこぼすメルを優しく抱き締めて頭を撫でる。原作みたいに落ち着いている表面しか見てなかったけど、本当はミュゼットの言う通り可愛い女の子なんだと改めて思う。
「愛しています。アレク兄様……ミュゼちゃんに負けないくらい。だから、同じくらい愛してください」
「同じくらいでいいのか?」
「アレク兄様は皆様をミュゼちゃんと同じくらい愛そうと頑張っているの、分かっていますから…それ以上は高望みです」
メルはお見通しってわけですか…でも、メルは分かってないなぁ。とっくの昔にメルはミュゼットと同等なんだって事…そこは分からせちゃる。
お姫様抱っこして、風呂場に直行じゃい。




